恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

『怒涛のごとく』

2015-04-03 06:39:38 | 年上の彼女

10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。
☆☆☆☆☆

『怒涛のごとく』~その1

〈譲二〉
 クリスマスソングが町に流れ始めた。

 奈実はあれから、ほとんどクロフネから出ること無く過ごしている。

 あの電話の後、伊藤という人からはメールも電話も来なくなって、少しホッとしている。

 俺という恋人がいることがわかって諦めたのかもしれない…。

 奈実はこの頃、もう大丈夫だと安心しているけれど…。

 あの最後の電話の様子だともうしばらく気をつけた方がいいと俺は思っている。

☆☆☆☆☆

 昼からハルとタケ、リュウがクロフネに来ている。

 駅前にイルミネーションが飾られてかなり奇麗だという話題になった。


春樹「奈実さんはまだ見てないの?」

奈実「うん。このところほとんど外出してないからね」

竜蔵「それは残念だな。今年のはかなり気合いが入ってんのに」

譲二「奈実の安全には替えられないからね」

剛史「でも、一度電話があってからはメールもないんだろ?」

奈実「うん。一ヶ月近くになるから、もう諦めたのかなとは思う」

竜蔵「ジョージは心配性だからな…」

春樹「まあ、何かあったら怖いからね」

奈実「でも、イルミネーション見に行きたいな…」

譲二「子供みたいなこと言わないの」

剛史「イルミネーションを見てすぐに帰れば大丈夫なんじゃないか?」

竜蔵「そうだ、俺たちもいるんだし今から行ってみるか?」

奈実「え? 今から?」

譲二「こらこら、リュウ。奈実をその気にさせないでよ」

剛史「用心棒ならハルもいるしな」

春樹「え? でも俺、随分、空手やってないから身体が鈍ってるよ」

竜蔵「全国大会入賞レベルのヤツが何言ってんだ」

奈実「え? ハルくんてそんなにすごいの?」

譲二「ああ、ハルは高校の時、空手の全国大会の常連だったからな」

剛史「普通のヤツでは敵わない」

奈実「すごーい」

春樹「だから…、それは高校時代の話。今はもう身体が鈍ってるって…」

奈実「それでもすごいよ。ねぇ、ハルくんたちも一緒に行くんじゃだめ?」


 奈実が訴えるような目で俺を見つめる…。

 そんな目で見つめられるとダメと言えなくなるじゃないか…。

 本当は2人だけでイルミネーションを見に出かけたいところだけど…。


その2へつづく


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『怒涛のごとく』~その2

 

〈譲二〉
 結局、ハル達と一緒に駅前に出かけることになった。

 気休めだが奈実にはニット帽を被せマスクをさせた。



 駅前ではイベントも開かれていて、かなりの人出だった。

 5人で出かけたのに、いつの間にかハルたちとは離れ離れになる。

 俺は奈実の手をしっかり握って歩いた。


 あの伊藤という男のことがなかったら、とてもロマンチックな夜を過ごせたのに…。

 俺は周りの人混みに絶えず目を走らせる。

 奈実は…ただ無邪気に喜んで嬉しそうに俺に話しかけている。

 この一ヶ月、ずっとクロフネの中にカンヅメだったものな…。

 奈実が喜んでいるのがせめてもの慰めだ。



 ふと、視線を感じて周りを見渡した。

 気のせいだろうか?


 その瞬間、奈実と繋いでいた手が離れた。


 あっと思った瞬間、男が駆け寄って来る。


譲二「奈実! こっち!」


 奈実を引き寄せた途端、その男は横を通り過ぎた。


「ひったくりだ! 誰かー!捕まえてくれ!」


 誰かの叫び声がして、何人かの男性がその男を追いかけて行った。

 俺はほっとしてその行方を見送った。


 俺が奈実を振り返った時、目を血走らせコートの中に手を突っ込んだ男が小走りに近寄って来るのが見えた。

 男は何か長いものを引っ張り出した。


譲二「奈実! 危ない!」


 とっさに奈実を庇って抱きすくめた。


 背中にドン!という衝撃を感じた。

 


その3へつづく

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『怒涛のごとく』~その3

 

〈奈実〉
 ひったくりを追いかけ何人かの男の人たちが走って行った。

 その行方をぼんやり眺めていると、譲二さんの叫び声がした。


譲二「奈実! 危ない!」


 わけが分からないまま、譲二さんに抱きしめられる。

 ドン!という衝撃があって、2人ともよろけて踏みとどまった。
 

譲二「奈実、大丈夫?」

奈実「ええ、大丈夫、ありがとう」

譲二「…よかった」


 譲二さんの体が崩れ落ちる。



 まるで、スローモーションのように…。



 背中に回した手にぬるっとしたものがついた。


 私は悲鳴を上げた。

 


 



 私の悲鳴を聞きつけて人が集まって来る気配がする。

 倒れた譲二さんの下からは赤黒いシミが広がっている。

 周りでは、罵声や怒鳴り声が聞こえ、慌ただしい人の動きがあった気がする。

 でも、周りと私たち2人の間には厚い壁があって、私には譲二さん以外は見えないし、聞こえなかった。


譲二「…奈実…大丈夫…?」

奈実「私より…、譲二さん。今はしゃべっちゃダメだよ。」


 私はなす術も無く、譲二さんの手を握り続けた。


譲二「奈実は…怪我はない?」

奈実「私は大丈夫…」

譲二「よかった…」


譲二さんが目をつぶった。

 


 


その4へつづく


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『怒涛のごとく』~その4

 

〈譲二〉
 奈実の声が聞こえる。



 俺の名前を呼んでいる。



 今朝はまだ目を開けたくない。


 体がひどくだるくて眠たい。

 隣で眠っているであろう奈実の体を探る…。

 温かい手が俺のその手を握ってくれた。


 …ああ、奈実の手だ…。

 小さくて柔らかい。

 俺は安心して、また眠りについた。


〈奈実〉
 病室のベッドの横でずっと座っている。

 蒼白な顔をした譲二さんがずっと眠っている。


 一度薄目を開けたので、名前を呼んだら、弱々しく手で何かを探した。

 私がその手を握るとまた眠りについてしまった。


☆☆☆☆☆

 



 冬でコートを着ていたせいだろう、傷の深さは大したことはないということだった。


 手術の麻酔がよく効いて眠っているのだというお医者さんの説明だった。

 一度、ハルくんやタケくんやみんながお見舞いに来てくれたが、譲二さんは眠ったままだったのですぐに帰った。

 また明日も来てくれるそうだ。



 譲二さんの大きな手にそっと口づけた。

(大丈夫だよね? ちゃんと目を覚まして、私の名前を呼んでくれるよね?)

 


その5へつづく


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『怒涛のごとく』~その5

 

〈奈実〉
 眠り続ける譲二さんに心の中で語りかける。



 今、譲二さんの身体の中には私の血も流れているんだよ。

 正確に言うと私とリュウくんの血なんだけど…。



 あの時、伊藤くんは譲二さんを刺した包丁を抜いちゃったから、血がたくさん出て怖かった。


 私の悲鳴を聞いて、近くにいたハルくんとタケくんとリュウくんが駆けつけてくれて…。

 ハルくんは伊藤くんが手に持った包丁を足で蹴り上げてくれて、すかさずタケくんとリュウくんが伊藤くんを押さえ込んで…。

 その間にハルくんは警察と救急車を呼んでくれた。



 譲二さんの血液型はO型だったんだね。


 リュウくんはね、救急車にも一緒に乗ってくれたんだよ…。


 「俺はジョージと同じ血液型だから、役立つかもしれねぇ」って言って。


 救急車に乗るとき、ちょっとゴタゴタしちゃった。


 救急隊員は「付き添いは一人だけでお願いします」って言ったんだけど。

 リュウくんは血のついた私の手を見せて「この人も怪我人だ」って言ったの。

 隊員は「じゃあ、付き添いはこの女性にお願いします」って言って、リュウくんを乗せようとはしなかったんだけど。

リュウくんは「この人はショックで口が聞けねぇから、俺が付き添います」って強引に乗っちゃった。



 お医者さんへの説明もリュウくんが全部してくれたし…、私は横で泣きじゃくるばかりで何も出来なかった。


 ごめんね。


 私のせいで、痛い思いをさせて…。

 


その6へつづく


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『怒涛のごとく』~その6

 

〈譲二〉
 人の話し声がしている。



「マスターはまだ目を覚まさないの?」とか「もう麻酔は切れてるだろ」とかそんな内容だ。


 俺は目を開けて周りを見回した。

 白い天井と心配そうな奈実の顔、その向こうにはあいつらの顔がみえる。


春樹「やっと気がついたみたいだね」

百花「マスター、よかった」

竜蔵「ジョージ、えらく長いこと寝てたな」

一護「もう目覚めねぇのかと思ったぞ」

剛史「眠り姫みたいだった」

理人「だから、奈実さんにキスしてみたらって言ったんだよね」

譲二「…どれぐらい眠ってたの…?」

春樹「まる二日くらいかな…。中々目を覚まさないから、奈実さんもすごく心配してたよ」


 俺は青白い奈実の頬に手を伸ばした。

 そうだ!

 俺はあの伊藤とかいう男が奈実を襲おうとしたから、とっさに庇って…。


譲二「奈実! 大丈夫!? 怪我は?」

奈実「譲二さん…」



奈実が戸惑ったような顔をした。



理人「奈実さんは怪我なんかしてないよ。怪我したのはマスターだけだから…」

譲二「あの男は?」

剛史「警察に拘留されてる。俺とハルで警官に引き渡したから」

譲二「よかった…」


安堵すると途端に背中の傷が痛んだ。


奈実「痛む? ごめんね、私のせいで…」

譲二「なんで? 奈実のせいじゃないだろ?」

一護「さ、マスターも目を覚ましたことだし…、お邪魔虫な俺たちはもう帰ろうぜ」

竜蔵「え? もう帰るのか?」

春樹「リュウ兄、2人だけにさせてあげようよ」

理人「じゃあね、マスター」

剛史「また明日来る」

百花「また、お見舞いに来ますね」


 みんな気を使って口々に挨拶をして病室を出て行った。


譲二「奈実、心配かけたね」

奈実「もう、目を覚まさないんじゃないかと思って不安だった。でも、よかった…」


 奈実の伏せたまつげに雫が光った気がした。

 俺は元気づけたくて奈実の手をぎゅっと握った。

 すると奈実はにっこりと微笑んでくれた。

 


 

『怒涛のごとく』おわり




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