10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。
☆☆☆☆☆
ダイス(英:dice):サイコロを意味する単語(複数形。単数形はdie)。
譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。
9歳年上の恋人、奈実に元夫から手紙が来た。
しかもクロフネを探っている怪しい男も現れて…。
☆☆☆☆☆
『転がるダイス』~その5
〈譲二〉
奈実が以前の仕事の後輩の伊藤という人からのメールをみせてくれた。
単なる直感だが、クロフネを見張っている男はこの伊藤という人ではないだろうか?
奈実がメールでクロフネに住んでいることを教えてから謎の男は現れているし、辻褄はあう。
奈実を誘い出そうとしているようなのも気になる。
もっともこれは俺の単なる嫉妬かもしれない。
〈奈実〉
和成さんから手紙の返事がきた。
『奈実へ
丁寧な手紙をありがとう。
もしかしたら、返事は来ないかもしれないと思っていたので、君からの封筒を見たときはうれしかった。
でも、君にとって俺は元夫で過去の人間なんだな。
奈実と別れてもう10年経つものね。
俺は奈実のことが好きなままだけど、奈実はもう違う人生を生きているんだな。
とても寂しいけど、俺も少しずつ前向きに生きて行こうと思う。
それを気づかせてくれてありがとう。やっぱり、10年ぶりに奈実に会えて、奈実に手紙を出してよかったよ。
さようなら。
和成
p.s.年賀状のやり取りくらいはしてもらってもいいかな? 未練たらしくてごめん。』
奈実「この手紙の返事は書かなくてもいいかな?」
譲二「そうだね。今度の正月に年賀状を書く位でいいんじゃないかな」
奈実「よかった」
これでもう何も心配することはない。
私は安堵のため息を漏らした。
その6へつづく
☆☆☆☆☆
『転がるダイス』~その6
〈奈実〉
伊藤くんからメールが頻繁に入るようになった。
その日にあったこととか、仕事でのちょっとした話とか他愛もない話題なのだけど、毎日メールがくる。
その合間に、食事の誘いやちょっと会えないかという誘いが混じっている。
譲二「今日は何件入ったの? 例の伊藤さんからのメール」
奈実「今のところ3件かな? まだ返信してないよ」
譲二さんが伊藤くんのメールをチェックする。
譲二「うーん。こっちも和成さんへの手紙みたいに文面を考えてメールをだすか…」
『伊藤くん
先日からいっぱいメールをもらってるけど、全部に返信できてなくてごめんね。
伊藤くんが私のことを気にかけてくれるのはありがたいけど、私にとっての伊藤くんは元の職場の後輩でそれ以上でもそれ以下でもありません。
だから、たくさんメールをもらうと私には負担になって、伊藤くんのことが嫌いになってしまいそうで困っています。
どうか、懐かしい同僚のままでいてください。
奈実』
奈実「こんな感じかな」
譲二「こんなもんかな」
2人で同じようなことを同時に言ってしまい、顔を見合わせて笑った。
譲二さんが私の唇に軽いキスをした。
譲二さんは顔をあげて窓の外を見ると、突然こわばった表情になった。
譲二「奈実、ここにいて!」
譲二さんは叫ぶと、店の外へと走り出た。
どうしたんだろう? 不安な気持ちでしばらく待っていると、譲二さんが帰ってきた。
奈実「どうしたの?」
譲二「さっき奈実にキスをして顔をあげた時、窓から男が覗き込んでいたんだ。
俺と視線が合うと逃げ出したんで、追いかけたんだけど…逃げられた」
奈実「和成さん?」
譲二「いや…、多分ちがうと思う。見たことのない男だった」
それじゃあ、前に譲二さんが言っていたように伊藤くんだろうか?
〈譲二〉
クロフネを覗き込んでいた男…。残念ながら逃がしてしまった。
この頃頻繁に奈実にメールを送りつけている伊藤という男の可能性が高い。
それにしても、まずいところを見られてしまった。
商店街で聞き込みをしたみたいだから、俺たちが恋人だということは知っているだろうが…。
(話で聞くのと実際に目でみるのとは違うからな…。いちゃつく俺たちをみて、激昂しなければいいんだが…)
その7へつづく
『転がるダイス』~その7
〈奈実〉
さっきのメールを送って間もなく、伊藤くんから電話がかかった。
伊藤「奈実さん?」
奈実「もしもし。伊藤くん? どうしたの?」
伊藤「奈実さん…。今住んでいるクロフネのマスターと付き合ってるんですか?」
奈実「え? どうして、そんなことを?」
伊藤「俺が奈実さんのことを心配して、色々力になりたいと悩んでる間もその男と楽しく暮らしてたってわけですか?」
奈実「あのね。私は譲二さんとは…」
伊藤「名前で呼び合う間柄なんですね…」
奈実「それは…その」
伊藤「なんでそんな男に引っかかるんです。奈実さんも俺の気持ちは分かっていた筈でしょう?」
奈実「伊藤くん、私は伊藤くんを大切な仕事仲間ってずっと思ってた…」
伊藤「嘘だ。一緒に仕事をしていたときも、俺が毎日家まで送っていたときも、愛しい気持ちを込めて俺を見つめてくれたじゃないか。
この間久しぶりに携帯で話したときだって、俺に好意をもっているような話し方だった」
奈実「そんな…」
異変に気づいて譲二さんが声をかけてくれる。
譲二「奈実、大丈夫?」
伊藤「あの男が側にいるのか?」
奈実「ねえ、伊藤くん落ち着いて…。私は伊藤くんが言うみたいに伊藤くんに特別な感情は持ってなかったから…」
伊藤「嘘だ! いつも俺のことを誘っていたくせに!」
奈実「そんな…」
譲二「ちょっと貸して」
私は携帯を譲二さんに手渡した。
譲二「もしもし、伊藤さん?」
伊藤「お前! 奈実に手を出してるのか?」
譲二「すみませんが、彼女が怖がっているんです。そんな脅すような物言いは止めて落ち着いてください」
伊藤「お前は奈実のなんなんだよ!」
譲二「俺は…奈実の恋人です。だから、俺の恋人にこんな電話をしてもらっては困ります」
伊藤「奈実! 聞こえるか? 今まで散々俺の気持ちを弄んどいて、覚えてろよ!」
譲二「切れた…」
譲二さんは携帯を置くと私を抱きしめてくれた。
怖い。
伊藤くんがあんなことを思っていたなんて…。
今まであんなに感情的になる人だとは思ってなかった。
譲二「奈実…。俺が守るから、心配しないで…」
私は譲二さんを抱きしめる手に力を込めた。
『転がるダイス』おわり