前にも書いたけど、吉恋本家の譲二ルートの3年後編には色々と不満がある。
久しぶりに吉祥寺に帰ってきた譲二さんとのラブラブな話のはずなのに、新キャラの紹介に使われてたり、色々とモヤモヤするものがあって、私の思う『勝手に3年後編』を書いちゃいました。
『譲二の勝手に3年後編』の始めの部分は本家の『譲二3年後編』とほぼ同じです。
そして、時々本家のエピソードに重なるものも入れながら、少しずつ離れていき、玉の緒ワールドの譲二さんの話になってます。
航くんは出てきませんが、本家の『譲二3年後編』では出てこなかった、懐かしいあの人とかあの人とか出てきます。
だから、ネタバレも少々あるものの、譲二ルートの3年後編とはまた別のお話と思って下さい。
☆☆☆☆☆
揺れる心~その8
〈百花〉
突然現れて、クロフネを自分に譲ってほしいと言い出した有栖川さん。
彼は、先代の黒船のマスターが写った写真を私たちに見せた。
眼鏡をかけ譲二さんと同じようなアゴ髭を生やしたとても優しそうな男性。
笑顔で笑った少年2人も一緒に写っている。
それは有栖川さんとお兄さんなのだという。
譲二さんは頬を緩めて、その写真に見入っている。
譲二「懐かしいな…本当に可愛いがってもらったんですよ…」
玲「アタシも父のことが大好きでした…でも事情があって疎遠になっちゃって」
玲「父と離れ離れになる前は楽しかった…」
玲「毎日楽しくて、父がよく美味しいコーヒーを淹れてくれて」
譲二「マスターのコーヒーは美味しかったですからね…」
りっちゃんが私と桃護さんに呟いた。
理人「あの人、なんか今度は情に訴える作戦できてない?」
桃護「マスター! 情に流されちゃダメですよ。冷静にならないと…」
譲二「いや、まあ…冷静だとは思うんだけど」
百花「譲二さん…まさか、この人に譲ってしまうなんてことは…私、クロフネが違う店になるなんて、絶対嫌です!」
理人「夜の店なんかになったら僕らはどうすればいいのさ?」
桃護「お客さんたちのことも考えてください」
譲二「うん…」
桃護さんに言われて、返事したものの、何だか煮え切らない譲二さん。
まさか本当に譲ろうなんて考えてないよね?
譲二さんの横顔を見つめるけど、その心の中はよく分からなかった。
玲「今すぐとは言わないわ。もしもアタシに譲ってくれるとしても、他に移るなら店舗を探す必要もあるだろうし」
譲二さんがハッとしたように有栖川さんを見返す。
譲二「他の場所…」
百花「他の場所に移ったら…そんなのクロフネじゃありません!」
私は必死で譲二さんに訴えかけるけど…。
譲二さんは目を逸らせて私を見てはくれない。
譲二「そうだよね…でも…いや、だけど…」
譲二「…とにかく、今日すぐに返事はできません。一度お引き取りいただけますか?」
玲「…分かったわ」
譲二さんはもう話すことはないというように、左手でドアを示した。
有栖川さんの方はまだなにか言いたそうだったが、首をちょっとかしげると踵を返してドアに向かった。
ドアを開ける前、もう一度振り向くと彼は言った。
玲「…譲ってもらえるまで、毎日でも来ます」
理人「なんか地上げ屋みたいだね」
玲「失礼ね」
そう言って、りっちゃんを睨みつけると、有栖川さんは今度こそ、振り返ること無く出ていった。
その9へつづく