吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二ルート続編のお話を彼氏目線で眺めてみました。
ネタバレありです。
☆☆☆☆☆
茶倉譲二 続編第九話~その5
〈譲二〉
そして…また店の戸が開いた。
カラカラ~ン♪
現れたのは兄貴だった。
譲二「なんで…」
驚く俺に、兄貴はいつものごとくつっけんどんに言った。
紅一「言っておくが、お前のために来たんじゃない」
そして百花ちゃんの方を見ながら、「彼女に招待されたからだ」という。
百花「ごめんなさい…どうしても、紅一さんに来てほしくて」
紅一「隅の席へ案内してもらってもいいだろうか?」
百花「はい。こちらへどうぞ」
紅一「コーヒーを」
譲二「…ああ」
驚きが隠せないまま厨房に入り、コーヒーを淹れはじめた。
(とびきりの美味しいコーヒーを淹れないとな…。そうだ!)
俺は急いでサンドイッチも作るとコーヒーと一緒に運んでいった。
譲二「お待たせ」
紅一「…なんでサンドイッチまで」
譲二「うちの看板メニューなんだよ」
紅一「サンドイッチが?」
俺は黙って頷いた。
コーヒーもそうだけど、クロフネ最後の日の今日、兄貴にはクロフネの看板メニューをじっくり味わってもらいたかった。
俺が道楽でクロフネをやってたわけじゃないってこと、できればわかって欲しい。
後ろではみんながバタバタしている。
入ったオーダーを「俺が作る」と一護が言ってくれたのが聞こえた。
本当は兄貴を置いて厨房に入るべきなのだろうが、今は兄貴の感想が聞きたかった。
兄貴は黙ってサンドイッチを一口齧り、コーヒーを飲んだ。
後ろでは相変わらず、みんなの声が聞こえる。
兄貴がポツリ、と言った。
紅一「…ずいぶんと若くて賑やかだな」
譲二「え?」
百花が一生懸命、普段はもう少し静かで落ち着いてるとフォローしてくれる。
今日は最後の日だから賑やかなのだと…。
紅一「ああ…何度か来たから、普段の雰囲気も知っているが」
紅一「最後だから来てくれるというのは、この店が愛されている証拠だ」
百花「え?」
紅一「ここは…良い店だな」
そうつぶやくと、また黙々とサンドイッチを食べ、コーヒーを飲んだ。
譲二「兄貴…」
俺は兄貴の言葉が無性に嬉しかった。
こんなふうに兄貴に褒められたのは子供の頃以来かもしれない。
そうだ…。
俺は昔から兄貴に褒めてもらいたくて、色々と頑張ってきたんだよな…。
その気持ちを久しぶりに思い出した。
その6へつづく