恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

茶倉譲二:続編第四話~その4

2015-09-30 07:50:21 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二ルート続編のお話を彼氏目線で眺めてみました。
ネタバレありです。
 

☆☆☆☆☆

茶倉譲二 続編第四話~その4

〈譲二〉

芝生の上で家族連れがお弁当を広げたり、ボール遊びをしている。

そう、みんな楽しそうで…幸せそうだ。

ぼんやりと物思いに耽っていると百花ちゃんに声をかけられた。



百花「なんだかぼんやりしてましたけど…どうかしたんですか?」

譲二「うん…そういえば昔、一度だけこうやって家族で公園に遊びに来たことがあったなーと思って」

百花「そうなんですか…」

譲二「確か、それ一度きりだったけどね」

譲二「俺と兄貴がどうしても行きたいってせがんで」

譲二「でも、弁当は両親が忙しかったからメイドに作ってもらったんだ」

百花「メイドさんに…」



百花ちゃんに説明する。

俺の家では忙しい母親は料理をしなかった。

食事は基本的にメイドが作るから、母親の手料理はほとんど食べたことはない。

そして、あの時の弁当は、重箱にぎっしりといろんな料理が入ってて、すごく豪華だった。


百花ちゃんがポツリと言った。


百花「どんなにおいしいお弁当でも、大切な人に作ってもらわなきゃ、意味ないですよね…」

譲二「え?」

百花「私だったら…すごいシェフに作ってもらう豪華な料理よりも」

百花「じーじの作るサンドイッチの方が美味しいと思いますよ!」

譲二「そうか…確かにそうかも」


(あの頃はそれが当たり前だったから、喜んで食べたけど……)

(そうだなぁ。普通の家ではきっと母親の手作りの弁当を持って出かけるんだろうなぁ)



急に黙りこんだ俺を気遣うように百花ちゃんは話題を変えた。


百花「公園に行った時は、お兄さんと木登りしたんですか?」

譲二「どうだったかな。木登りはしてないけど、虫はつかまえたかも」

譲二「あと、川に入って遊んたりね」

百花「それ、お兄さんも言ってました。よく川で遊んだって」


百花ちゃんは、兄貴から聞いたという俺たちが小さい頃の話をしてくれた。

それを聞いて、また色々と記憶がよみがえる。


譲二「意外と兄貴の方が覚えてるんだなあ」

百花「だけど、譲二さんだって色々覚えてるんですよね?」


聞き上手の百花ちゃんに、俺も兄貴とのことを話した。

友達と遊ぶ時間はなかったから、いつも兄貴と一緒だったこと。

兄貴はなんでもできるから、一緒にいると楽しかったこと。


あの頃は何でも出来る兄貴のことが大好きで、いつも尊敬の眼差しで見てたっけ。



百花「お兄さんも同じこと言ってましたよ。譲二さんは器用で、自分の前を行く子だったって」

譲二「兄貴が?」


俺はちょっと驚いた。

俺にとっては兄貴の方が追いつきたい手本だったから…。


百花「走るのも勉強も、全部自分より上だったって」


兄貴はそんな風に思ってたのか……。


譲二「…勉強や習い事をサボると、よく兄貴に叱られたんだ」

譲二「前も言ったけど、兄貴はエリート志向のうちのやり方を受け入れてたからね」

譲二「俺も兄貴みたいに、なんの疑問も持たずにいられたら…もうちょっと、楽だったかもしれないよね」


あの頃の胸の苦しさがよみがえる。

兄貴みたいになりたくて…。

でも、兄貴のようには成れなかった俺……。

だからだんだん反発するようになったんだ…。


百花「だけど…そうなってたら、私は譲二さんに会えませんでしたよ」


百花ちゃんにそう言ってもらえて、少し気分が救われた。

家族との確執……。

家族への反発とそうやって反抗していることへの後ろめたさ。

そういうものから逃げ出すためにあの公園に行ってたんだけど、それがなかったら百花ちゃんには会えなかった。


俺を真剣な目で見つめる百花ちゃんの柔らかな髪の毛をそっと撫でた。

今、彼女とこうしていられるのが、あの時の苦しさのお陰なら…。

色々と苦しんだことすら、すべて受け入れられる。



☆☆☆☆☆

トイレから帰ってきて百花ちゃんに声をかける。


譲二「百花ちゃん、お待たせ。向こう側、人がすごくて」


あれ? 百花ちゃん、一人じゃない……。

一緒にいる……このお年寄りは…。


譲二「って…じいさん!?」

男性「譲二!?」


百花ちゃんが驚いて目を見張る。


百花「え?」

譲二「なんでここに…」

男性「お前こそ…」


『じいさん』ってのは、俺の祖父の茶倉緑太郎なんだけど……。

なんで、そのじいさんが百花ちゃんと一緒にいるんだ?!

兄貴や明里の話だと倒れて入院しているはずなのに…。


じいさんも驚いて俺を見つめている。

そんな俺たちを、百花ちゃんは代る代る見比べていた。


茶倉譲二 続編第四話』おわり



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