10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。
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譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。
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思いがけないひと~その1
〈奈実〉
???「奈実!」
呼びかける声に振り向いた。
譲二さんと食事をした後、ウインドショッピングをしながら、ぶらついていた時だった。
声の主に気が付いて、凍りついた。
中年のスーツ姿の男性。
???「やっぱり奈実じゃないか。久しぶり」
彼は懐かしそうに私を見つめる。
譲二さんが私の隣りに立って、訝しげに尋ねた。
譲二「この方は?」
奈実「彼は…」
私は口ごもる。
???「ああ、連れの人がいたのか。ごめん。つい懐かしくて…」
???「元気にしてた?」
奈実「ええ。和成さんは?」
和成「相変わらずさ。仕事の虫なのは変わらない」
和成さんはもっと話をしたそうにしていたが、譲二さんを見ると、会釈して「じゃあ、またね」と言って去って行った。
残された私たちは気まずい空気のまま、歩き出した。
私は和成さんのことを譲二さんにどう説明したらいいか、迷っていた。
譲二「それで…、彼とは一体どんな関係なの?」
いつも優しい譲二さんの声が冷たく聞こえる。
私は立ち止まった。
奈実「ごめんなさい…。私、今まで譲二さんに隠していたことがあるの」
譲二「それは大事なこと?」
奈実「ええ…。私、以前結婚していたことがあるの。
10年前に離婚したんだけど…。今の和成さんは元夫なの…」
譲二さんがため息をついた。
譲二「今まで、どうして話してくれなかったの?」
奈実「…譲二さんにはバツイチって知られたくなかったから」
譲二「年齢を正直に言う人がそんなことを隠すとは思わなかったよ」
譲二さんはとても悲しそうな目で私を見つめた。
譲二「それに、そもそも俺と結婚することになったら、隠し通せないだろ?」
奈実「ごめんなさい。譲二さんとは結婚なんてできないと思っていたから」
譲二「それはどういうこと?」
奈実「私は結婚しても、譲二さんの子供は産んであげられないし…。
譲二さんが結婚するのはもっと若い女性だろうと思ってきた。
だから、少しでも、譲二さんの前では背伸びして、かっこ付けようとしてた」
譲二「そんなの…。俺は奈実のことを全部知りたい。好きな人のことはみんな知りたい。そういうもんだろ?」
奈実「ごめんなさい」
譲二「それと…俺は奈実以外とは結婚しないから…」
奈実「え?」
譲二「今は…俺の方が結婚出来るような状況じゃないからプロポーズはしないけど…。
奈実以外の女(ひと)とは結婚しない」
私は譲二さんの顔を見上げた。
譲二さんは私を優しく見つめていた。
譲二「こんな道端じゃ、奈実にキスもできないな…。残念」
譲二さんは私の肩を抱き寄せた。
譲二「さ、行こうか?」
奈実「うん」
その2へつづく
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思いがけないひと~その2
〈譲二〉
奈実はバツイチだった…。
その事実よりも、奈実がそれを俺に隠していたこと、そして奈実の元夫に会ってしまったことが俺を動揺させた。
その夜、いつものように俺の部屋で奈実を愛した。
彼女を抱きながら、心の中で彼女に問いかける。
(あの男に抱かれる時もそんな可愛い顔をしていたの?
あの男にもこの可愛い声を聞かせていたの?
俺はまだ薄暗い中でしか抱かせてもらえないけど…、あの男には眩しい光の中で抱かれていたの?
あの男の背中にも爪を立てて、腰に足を回していたの?
そして…そんな潤んだ瞳でみつめていたの?)
余韻にひたってボーッととしてる奈実を抱き寄せて、唇に軽くキスをした。
奈実「譲二さん…、怒ってる?」
譲二「どうして? 怒ってなんかないよ」
奈実「だって…いつもと違ってずっと黙ってた…」
譲二「…考え事をしていたから…」
奈実「私を抱きながら?」
譲二「ああぁ。ウジウジしててもしかたがないな。奈実の元旦那にヤキモチを妬いてた」
奈実がクスクス笑い出した。
譲二「笑わないでよ…。みっともないけど…ちゃんと白状したんだから…」
奈実「ごめんなさい…。そんな譲二さんがヤキモチを妬くほどの人じゃないから…」
譲二「だって…あの男は奈実と何年も一緒に暮らしていたんだろ?」
奈実「そうだけど…」
奈実はボツボツと結婚生活のことを語ってくれた。
あの男性、明石和成さんという名だそうだ。
(ということは、奈実は元夫の姓を名乗っていたのか…)
会社の同僚の紹介で知り合ったのだそうだ。
そして、奈実の結婚生活は8年間だったそうだ。
その頃やっていた仕事にやりがいを感じていたので、結婚後もすぐには子供を作ろうとはしなかった。
30歳も過ぎたし、そろそろ子供を作ろうとしたら、なかなか出来なかった。
不妊治療も選択肢として上がって来た頃、会社の特別プロジェクトの担当に選ばれた。
その時一緒に仕事をすることになった後輩の男性との仲を夫に疑われたのだそうだ。
特別プロジェクトで難しい仕事だったから、深夜にかかる残業もあり、後輩は奈実が夜道を1人で帰るのを心配して毎日のように送ってくれたそうだ。
譲二「その人に恋愛感情は持ってなかったの?」
俺はその後輩にも少し嫉妬する。
奈実「ぜーんぜん。だって4つも年下なんだよ! あ、ごめんなさい…」
譲二「俺より…5つも上なんだ…」
奈実は俺の胸にしがみつく。
奈実「もう…。譲二さんは特別なんだから…」
その3へつづく
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思いがけないひと~その3
〈譲二〉
奈実はバツイチだった…。
そして、なぜ離婚したかを話してくれた。
仕事上のパートナーの後輩との仲を疑われたのだと奈実は言う。
しかし、その後輩が奈実に全く好意を持っていなかったとは考えられない。
それから10年経った今だってこんなに魅力的なんだから…。
だから、元夫の直感は正しかったのだろう…。
奈実のことを信じることはできなかったみたいだけど…。
そんな時に諦めていた赤ちゃんを授かった。
だが、ギクシャクしていた夫にはなかなか言い出せないうちに、夫が泥酔して帰って来るということがあった。
些細な言い合いから喧嘩になり、そんな時に言うつもりではなかったのに妊娠したことを口にしたそうだ。
夫は後輩との不倫の子だろうとののしり…、誤って奈実を突き飛ばしてしまった。
打ち所が悪く、奈実は肋骨にヒビが入り、子供も流産した。
その後色々と揉めて、夫への愛情が冷めた奈実は離婚を求めたが、奈実を愛していた夫はなかなか離婚してくれなかった。
調停を1年ほど繰り返し、やっと離婚したそうだ。
奈実「だからね。私は男なんてもうコリゴリ、恋愛なんてしないって思ってたの…。譲二さんに会うまでは…」
譲二「ありがとう」
奈実「え?」
譲二「そんな嫌な思い出があったのに、俺のことを好きになってくれて」
奈実「だから…譲二さんは特別なの…」
俺は奈実に『好きな人のことはみんな知りたい。そういうもんだろ?』と言って責めてしまったけど…。
奈実がどうして言いたくなかったのかがよくわかった。
俺だって、明里のことを『振られ続けた子供の頃からの元婚約者』と面白おかしく話したけれど、明里への失恋の苦しみについては奈実に語っていない。
奈実は結婚生活の話をさらっと語ってくれたけど、本当は地獄のような苦しみを経験したんじゃないだろうか?
そんな苦しい体験を話してくれなかったと責める気持ちになっていた自分を恥ずかしく思った。
もし、まだ奈実が話せていないことがあったとしても、それは自然に奈実が話したくなるまでまとう…。
それぐらい許せる余裕のある男になろう。
〈奈実〉
譲二さんに離婚経験があることがばれてしまった。
なんだか騙したみたいで申し訳ない。
9歳も年上なだけでなく、結婚の経験もあることを知られたくなかった…。
だけど、辛かった結婚のことを正直に話すと譲二さんは、隠していたことを優しく許してくれた。
ごめんなさい。もう、隠し事なんてしません。
譲二さんには誤魔化してもすぐ見透かされてしまう。
そして、何もかも頼り切ってしまっている私がいる。
本当は私の方が年上なのに…。
その4へつづく