10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。
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譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。
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『忍び寄る影』~その1
〈奈実〉
伊藤くんからメールがきた。
『先輩、その後いかがですか?
奈美さん(と呼んでもいいですか?)
あれから元旦那さんからは何かありましたか?
どうなったか、気になっていたのですが、仕事が忙しくて連絡できず、すみません。
もしよかったら、近況など教えてください。
伊藤』
『ごめんなさい
伊藤くんには心配してもらったのに、連絡もせずすみません。
今のところ、彼からは何の接触もないのでホッとしています。
あれから、家には近寄っていません。
とりあえず、すぐに必要な物もないので。
今はクロフネという喫茶店の二階に間借りしています。
奈実』
伊藤くんのメールのことは譲二さんには話さなかった。
メールが来たとき、お客さんが立て込んでいて話しそびれてそのまま忘れてしまった。
思い出した時には譲二さんはちょうどお風呂に入っていてやはり話せなかった。
そして、前に伊藤くんの話が出たとき、譲二さんはちょっとヤキモチを妬いたみたいだったから、話さない方がいいかもしれないと思い直した。
男性は自分の前で他の男性の話をされると不機嫌になるみたいだし…。
その2へつづく
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『忍び寄る影』~その2
〈譲二〉
朝食の時に奈実が自分の家に行って取って来たいものがあると言い出した。
それも今日行って来るという。
譲二「明日では駄目なの?」
奈実「仕事に必要なものだから、どうしても今日行きたいの。
それにそろそろ秋冬物の服も取って来ないと」
今日は昼から商店街の寄り合いがあって、どうしても彼女に付き合うことができなかった。
しかし、奈実一人で行かせる気にはどうしてもならない。
彼女を説得しようとあーだこーだと言っていると、ひょっこりと理人が現れた。
理人「あー、眠い…。マスター、コーヒーちょうだい」
俺はコーヒーを出しながら尋ねた。
譲二「りっちゃん、今日は暇?」
理人「今日は特に用はないけど…、マスター、なんかあるの?」
俺は奈実が自分の家から取って来たいものがあるが、寄り合いがあって俺がついて行ってやれないという話をした。
理人「つまり、僕に奈実さんのナイトをして欲しいってこと?」
譲二「ああ、そうだよ」
俺は気が進まないものの、そう答えた。
寄り合いに行かないといけない時間はだんだん迫っているし、奈実を一人で行かせるのは心配だ。
理人は奈実と2人で出かけるということで、妙にテンションが上がっている。
理人「奈実さん、僕と恋人のふりをして行こうね?」
奈実「恋人というより母親と息子のふりをしようよ?」
俺はまたあのパーカーと野球帽を取って来た。
譲二「これを着て、りっちゃんの弟になりなさい」
理人「え?奈実さんが弟?」
譲二「そう。なるべく、女性には見えないように気をつけて。使い捨てマスクがあるからそれで顔を隠して」
奈実「ちょっと用心し過ぎじゃない?」
譲二「俺のいうことが聞けないなら、家に行くのは明日にしてもらうよ」
理人「奈実さんも大変だね。年下なのに亭主関白な恋人で」
譲二「りっちゃん!」
奈実はお腹を抱えて笑っている。
その3へつづく
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『忍び寄る影』~その3
〈奈実〉
自分の家から荷物を取ってくるために、りっちゃんと一緒に出発する。
譲二「俺も話しあいが終わったらなるべく早く帰ってくるから…。部屋への出入りはくれぐれも人に見られないように気をつけて…。
りっちゃん、頼んだよ」
理人「任せといて」
奈実「行って来るね」
理人「こういうの、探偵みたいで楽しいね」
奈実「そうでしょ?前の時は譲二さんも結構楽しんでたんだよ」
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久しぶりに自分の家に入った。
奈実「なるべく早く荷物をまとめるから、テレビでも観て待ってて」
理人「お構いなく…。あれ?電子ピアノがあるじゃん?」
奈実「ああ、前に大人のピアノ教室に通うので買ったんだけど、最近触ってないから埃被ってるでしょ?」
理人「待ってる間、弾いててもいい?」
奈実「あ、どうぞ。好きに使って」
私が荷物をまとめている間、りっちゃんは次々に曲を弾いて、リサイタル状態だった。
プロの演奏をタダで聴いて得した気分。
〈譲二〉
2人はまるで遠足にでも行くように楽しそうに出かけた。
俺は一つ溜息をついた。
心配だ…。
すごく心配だ。
奈実一人で行かせるよりはマシだけど…。
どうせ任せるならハルあたりが一番信頼できるんだが…。抜かりもないだろうし…。
だがまあ、仕方が無い。
〈奈実〉
りっちゃんと何事も無くクロフネに帰ってきた。
譲二さんはまだ帰ってなかったので、鍵を開け、りっちゃんにカフェオレを作って、飲んでもらう。
その間に急いで着替えて降りてくると、譲二さんから電話が入った。
譲二「今どこ?」
奈実「もうクロフネに帰ってるよ。りっちゃんにカフェオレを飲んでもらってるとこ」
譲二「そっか。何もなかった?」
奈実「うん、大丈夫」
譲二「よかった。俺ももう少しで帰れるから。りっちゃんにはありがとうって言っといてくれる?」
奈実「わかった」
理人「マスター?」
奈実「うん。そうだよ」
理人「奈実さん、愛されてるね」
奈実「そう? 心配性なだけだよ」
そう言いながら、まんざらでもなくて、私はふふっと笑った。
その4へつづく
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『忍び寄る影』~その4
〈譲二〉
奈実が荷物を取りに行ってから何日か経った頃だった。
一護が自分の作ったケーキを持って来てくれた。ハルも一緒だ。
譲二「あ、いらっしゃい。いつもありがとう」
一護「マスター、向かいの角に見たことのない男が立ってたぞ…」
春樹「俺たちがジロジロ見たら顔をそむけてた」
俺は店の奥を伺った。
そこでは奈実が百花ちゃんと楽しそうにおしゃべりしている。
譲二「どこにいるか教えてくれる?」
2人を伴って店の窓からそっと伺う。
道の向こうの角にスーツ姿の男が立っているが、少し遠くて、顔はよくわからない。
奈実の元旦那の顔を思い出そうとしたが、既にあやふやになっている。
一護「例の旦那なのか?」
譲二「いや、よくわからない」
春樹「俺、声をかけてみましょうか?」
譲二「いや、関係ない人間かもしれないし、俺たちが怪しんでいることは知られないほうがいいだろう」
もう一度、窓から覗くと男の姿は消えていた。
奈実には怪しい男のことはひとまず隠しておくことにした。
俺たちの思い過ごしかもしれないし、あやふやな状態で話して奈実を怖がらせるのもかわいそうに思えた。
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厨房の流しで、奈実と百花ちゃんが楽しそうにおしゃべりしながら食器を洗っている。
それを横目で見ながら、ハルがそっと話しかけて来た。
春樹「譲二さん。さっきの男がストーカーで、もしストーカー行為がエスカレートしそうだったら、俺に相談してください。
弁護士として、色々アドバイスは出来ると思います」
譲二「ハル、ありがとう。何かあったらまた相談するよ」
一護「マスター、俺はハルと違ってあんまり役に立たないかもしれないが、出来ることがあれば言ってくれよな」
譲二「ああ、一護もありがとう。それと、二人とも奈実に黙っていてくれて助かった」
その5へつづく