「裕ちゃん」
「パパ どうしてここに」
「私はあなたの父親じゃない」
「子どもから見たらパパでしょ」
「そんなことより手を繋いでるのは誰だ?」
「お医者さんです あっ!! 大変 先生の名前を聞いていなかったわ」
「片山さん 片山さん 船に戻りましたよ」
それでようやく裕子は目を開けた。スタッフに起こされたのだがバスの一番奥で壁に寄りかかっていてヨダレが出ていた。裕子はキョロキョロしながら
「あら 先生は?」
「先生は途中降りて日本に向かったなんです」
「えー」
「片山さんがあまりによく眠ってましたから起こすのは悪いと」
「先生帰っちゃっんですか」
「実は先生」
後ろから近づいてきたもう一人のスタッフが「しっ!」
と止めた。
やっと裕子は思い出した。ガンディ記念館のそばのレストランでオードブルをいただき白ワインもいただき上機嫌で2杯飲んだところまでしか憶えていない。裕子はガーンと思った。先生も呆れていたんだろうなと。
船でも二人のスタッフが両側に立って歩いていた。さん人の後ろから声が掛かった。
「裕子さん 大丈夫? ホントに具合が悪かったのね」
チラッと振り向けば例のツッコミ。
「はぁ まぁ」
「裕子さんは行けなかったホテルでいいもの買えたのよ 後で部屋まで見に来ません?」
そう言われて前の裕子だったらはしゃいで「後で伺うわぁ」などと言っただろうけど言わなかった。そして突然言い出した。
「ガンディさんをよく知っていますか?」
「えーよくは知りません」
「私はガンディさんの本を買いました。後でお見せしたいわ」
「あ! 結構ですわ」
ツッコミとボケは去って言った。スタッフのおしゃべりの方が
「お買いになったんですか?」
「ガンディ記念館にあった本を買おうとしたら先生は日本語じゃないからねって」
「でも記念で飾りで買いたいって言ったら」
「ハイ」
「飾りはいりません 大事なのは本当の心です」
「ホー まるで学校の先生みたいですね」
「そうなの そうなんですよ」
裕子はすっかり医師のファンになっていた。今だに名前は知らなかったけれど。