糸乃こまりのストーリー

川柳と小説〜下町とチワワはhttps://plaza.rakuten.co.jp/daigotyokotan

シナリオ


ライター志望ランキング

40 紅海

2025-01-20 14:00:48 | 世界一周ひとり旅


 裕子は部屋で晩ごはんの時に着る洋服を選んでいた。船長のアナウンスが聞こえた。

「紅海に夕日が沈むのは左舷側です」

 裕子は左舷側の窓にへばりつく。少しゆがんで見えるが広い美しい夕日がもやに包まれていた。地平線の彼方にゆっくり沈んでいった。 

「パパ、一緒に見たいよ」

 涙が溢れる。

 化粧直しにバスルームの洗面所に向かうと 夕食の案内のアナウンスが聞こえた。

 裕子がクルーズ船のダイニングルームに近づいていくと何人かの女性たちの真ん中に聡美がいた。

 遠ざかろうと思った裕子だったがやめて思い切って聡美たちに近づいた。

「マサラマレン 貴女に神のお恵みを」   

 怪訝な顔の女性たち。お辞儀をして離れる裕子。ため息をもらすが少しほっとした顔になっている。

 裕子は後ろから肩を叩かれる。

 振り向くと聡美が笑顔で立っている。

「お隣りいい?」

「でも皆さんは?」

「貴女の神の恵みを 裕子さんはオマーンの言葉をよく覚える みんなきょとんとしてた」 

「この頃いつも何でも必死よ」

「裕子さん」

「聡美さん えっ! 泣いてるの?」

「マサカ 嬉しかったの」

 二人は自分たちが座れる席を見つけた。 

「ここにしません?」

 聡美もうなづきながら

「でも私 パパと聡美さんが浮気した夢見ちゃって 嫉妬しちゃって」

「ええ? 何それ?」

 座りながら舌を出す裕子。スタッフが二人に近づく。

「本日のスペシャルディナーでございます」

 二人の前にお品書きを置いていく。裕子は

「わぁ」

 とお品書きを読みながら

「このわたの小鉢 おひたし 次はエビ ホタテ えのき 鮭 しらたき ネギ 豆腐のお味噌仕立て鍋 サイコロステーキにサラダ

 漬け物 ごはん きしめん 和菓子 盛りだくさんだわ」

 くすくすと笑う聡美。

「食べるの大好き でも聡美さんと一緒に食べられるのが幸せ気分」

 テーブルにこのわたの小鉢が来る。

「あー おいしそう 聡美さん おビールいただいちゃおうか」

「賛成」

 と聡美がスタッフを呼んだ。

 その後クルーズ船のデッキをウォーキングしている裕子と聡美。夜の海は真っ暗闇。星だけがまたたく。

「宇宙の孤独ってこんなものかしら? それともこれが死の世界?」

「裕子さん」

「あっ!?」

「裕子さん どうしたの?」

「紅海に感動したんだけど 写真撮るの忘れてた ほんと私ってうっかりもの」

「裕子さん かわいい人よ」

 嬉しそうな裕子だった。 


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今日いち-2025年1月18日

2025-01-18 15:20:36 | 下町
〜今年もよろしくお願いします〜
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39 ラクダかシカか

2025-01-18 14:21:35 | 世界一周ひとり旅

一方裕子と聡美はバスに乗りサラーラ博物館見学はじめ ゴールドスーク見学 アルプスん宮殿 アルバラード遺跡など車窓観光していた。

 最後にラクダのいるところでバスを降りて自由に写真を撮れた。

 聡美は前も船に乗ったこともあっていつもみんなに認められて中心にいる。だが裕子はそうでなく今度も一人でラクダの写真を撮っていた。

 ガイドがいった。 

「ここではラクダの数はいつも登録されています。ラクダが車道を横切る時には必ず車は止まらなければいけません。運悪くラクダをはねてしまったら罰金を払わなければいけません」

 撮り終えた裕子が聡美を探すと聡美は他の何人かの女性と話をしていた。みんなの楽しそうな声が聞こえた。裕子は「聡美さん」と呼んだが聞こえないようで諦めて一人でバスに戻った。

 しばらく経つと聡美がバスに戻って来た。真っ青な聡美。

「裕子さん 探したわ」

「私も探したわ」

「気がつかなかったわ」 

「聡美さんはファンが多いから」

「そんなこと」

「それより昔のこと思い出したの」 

「何?」

 言いながら席に座った聡美。

「日本にはラクダ事件はないけど大昔奈良で鹿事件があったの 自分の家の前で鹿が死んでいるとその家の者はみな処刑されるから早起きして自分の家の前にもし鹿が死んでいたらよよその家の前に置いて来たそうよ 鹿は春日さん 春日神社の神様のお使いとされていたから」

「そんなこと知らなかったわ」

「子どもの頃オバァちゃんがそんな話をしてた 子どもの頃のことをよく思い出すの」

「生き物も命はみんな一つだものね」

「サスガ聡美先生」

「もう」

 クスクス笑う二人。バスが走り出した。


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38 ベッドメイキングのE子

2025-01-18 14:10:26 | 世界一周ひとり旅


E子はベッドメイキングルームにいた。

31 パパのヤキモチ

の次の日だった。

 ドアを叩く音が聞こえたのでドアを開けた。それが片山さんだった。

「片山と申します」

 そうは言ったけど真っ青な顔をしていた。

「片山さま お客様とうなさいましたか?」

「私はシーツは毎日は変えないの」

「お客様によってシーツをどう変えるか お好きに言ってくだされば」

「ちょっと汚しちゃったから 変えたくて それを言いに来たけど道に迷ってぐるぐる 一時間は経ってるんじゃないかしら」

「一時間ですか お電話くだされば伺います シーツを変えます」

「でもドッチャラかっちゃらで部屋の中を見せたくないの」

「はぁ」

「それに部屋にネズミがいるの」

「マサカ 船にはネズミはいませんよ」

「本当? だけどタイタニック号にはネズミがいたでしょ」

「この船はタイタニック号ではありませんから」

「あぁ そうだったわね」

 と楽しそうにクスクス笑った。あんなに真っ青で困った顔をしていたのに違う人のようだった。結局E子はシーツを持って片山さんを部屋の近くまで送って行った。本当にネコは飼っていないのかわからない。

「片山さま ネズミはいないと思いますけどネコはいませんか?」

「ネコ? いいえ 私は動物は苦手なの 娘は何とかいう小さい犬が大好きでそれはそれは可愛がってるけどね」

 にこやかに答えた裕子だった。それならいいけどね。片山さんについてはかなり心配だとE子は思った。でも片山さんがネコは苦手でよかった。実は誰にも言っていないけどお客様が飼っていたネコが逃げ出して頼まれて追いかけたとき捕まえた。なのにうっかり海に落としてしまったのだ。もちろん誰にも言えない言わない言うわけがない。そしてそれ以来ネコが怖くて怖くてたまらなくなってしまった。

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37 3番のトキメキ

2025-01-18 14:01:18 | 世界一周ひとり旅


E子に会えると思った3番は小走りになっている。デッキに出るとE子は海を見ていた。若い頃年上の女性たちはみんな上から目線で何を言っても相手にされなかった。それが今は自分が上から目線で誰のこと信用しなかった。それがE子だけは違った。若くて可愛くて爽やかで賢い。付いた3番はE子の背中に言った。

「お待たせ」

 振り向いたE子は答えた。

「船で走ってはいけませんよ」

「そうだったわね」

「それでどうでしたか?」

「片山さんはオプショナルツアーのバスに乗ったみたい だけど片山さんの部屋に行ったら彼女がいて」

「彼女って今日の午前中は休みだった人?」

「そう だけどスタッフの格好をしてたわ」

「ナゼですか?」

「わからない でも片山さんのことは心配みたい」  

「気になりますね」

 E子はまるで探偵みたいだった。 

「私は先日飲みすぎた片山さんを送った時に初めて会話を交わしたけど別に ただ部屋はドッチャラかっちゃらだから近づかないでって途中で返されたわ」

「とにかく片山さんはおかしいです」

「お客様よ」

「私も心配なんです 船にネズミがいるって言うけどそれはネコじゃないかと」

「マサカ」

「どっちが」

「どっちも」

「船にはどちらもいないわ」

「でも前に乗ったときこっそりネコを連れていらしたお客様がいらして 結局ネコは死んでしまいお客様は海に飛び降りたりするかと心配で心配で」

「へぇ そんなこともあったんだ」

 そう答えながら3番は別のことを考えていた。どちらかといえばネコがいい。ネコになってE子のペットになりたい。マサカ同性でしかもずっと年下の女性に惹かれるなんて思ってもみなかった。どうしてこうなったのか考えるのも怖かった。

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36 貴女に神のお恵みを

2025-01-18 13:50:51 | 世界一周ひとり旅
バスに乗る裕子と聡美。
 裕子はバッグの中をひっくり返している。 「裕子さん どうしたの?」
「あれが見つからない!!」
「あれって?」
「あれあれ」 
「スカーフ?」
「そうそう スカーフスカーフ この頃なんて言ったらいいか忘れちゃうことがあるの」
「みんなそうよ」
「でもスカーフ部屋に取りに行かなきゃね」
「裕子さん忘れたら困るから二つ持って来たの 裕子さんのピンクのスカーフほどキレイじゃないけど」
 子どもみたいに飛びつく裕子。
「よかった!! それでスカーフはどうするの?」
「バスでご説明しますわ」
「聡美先生 よろしくお願いしま〜す」
 ますますはしゃぐ裕子。
 バスに乗ってアル·パリード遺跡を通りヨブの墓をお参りした。
 聡美は話始めた。
 ヨブと言う人は色々な困難に会ったがただひたすらにアッラー(神)を信じたんです。それゆえに恵みを受け救われて以前より幸せな人生を送ったと言われているの。心境心の厚い人だったそうよ。そこをお参りするには必ず素足にならなければいけませんよ。そして女性は必ず頭にスカーフのようなものをかぶらなえれば行けなかったんです。
 聡美が裕子に黄色いスカーフをかけた。白いブラウスとよく合っていた。まるで裕子は妹のように見えた。
「オマーンの言葉で サラマレコン」 
「サラマレコン?」
「サラマレコン 貴女に神のお恵みを」
「貴女に神のお恵みを」
 抱きしめる二人。
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35 ピンクのスカーフ

2025-01-07 17:00:28 | 世界一周ひとり旅
すっかりルンルン気分の裕子と聡美は裕子の部屋を去って行った。朝から大騒ぎだったがあとは聡美さんという神が守ってくれるんだろう。29番はそう思った。もう二人が去って誰もいない廊下に思い切り深く頭を下げた。さてと午前中は実は休みなので帰って一眠りしようかなどと思った29番。だが何気なく裕子の部屋のドアを振り向いた彼女が「ん?」「えっ?」。裕子の部屋のドアの下の隙間からちらりと見えた物。29番は見ていなかったが
23 インド洋の海水
にも登場したピンクのスカーフだった。片山さんがバッグに入れたはずの大切なモノ。ひっぱり出して持っていかなければと29番はしゃがんでひっぱった。スルスルと出てきた。ところがある程度出てきたのに最後までは出て来ない。何かに引っかかっているようだ。
「どうしよう!?」
 さらにしゃがんで中をのぞき込んだ。その時
「何してるの?」
 廊下の隅から走って来たのが3番だっだ。ヒャ〜どうしようどうごまかそうか! 焦る29番だったが意外と走って来た上司に叫んだ。
「廊下を走ってはいけません」
「あぁ そうね」
 とゆっくり近づいて来た。
「どうしたの?」
「片山さんがスカーフをお忘れのような
ので」
「じゃあ お届けして」
「でも出て来ないんです」
「ナゼ?」
「わかりません」
「ねぇ」
「はい?」 
「あなたは今日の午前中 お休みなのよね?」
「実は」
「なのにスタッフの格好」
「はい」
「ナゼですか?」
「わかりません」
「ん? 部屋のドアの向こうはお客様だけのものです しゃしゃくり出てはいけません」
「でも」
「スカーフが出て来ないなら元に戻さないと」
 そう言って3番は押し込んだ。そして立ち上がった。
「私に何か言うことはありますか?」
「何もありません」
「そうですか? それでしたら午後までゆっくりお休み下さい」
「はい」
 そう言って離れて行く3番。彼女の頭の中で何人かの問題児客が既に登場しているが片山さんは少々酒に弱い人だぐらいにしか思っていなかった。だがチラッと振り向くと29番はまだ片山さんの部屋のドアの隙間から中を覗き込んでいた。



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34 29番の悩み事

2025-01-07 16:55:56 | 世界一周ひとり旅
やはり待合場所にはまだ誰もいなかった。と思った29番だったが一人だけ椅子に座った女性がいた。慌てて近づいて
「聡美さんという方 ご存知ではありませんか」
「スタッフさん どうなさったの? 私も聡美です」
 29番はホッとして聡美の隣りに座った。凛とした美しい女性だった。29番はこれこれと説明して二人は裕子の部屋に向かった。
「でも裕子さん 私の部屋に来ないでーーいつも言ってましたよ」
「どうしてでしょう」
「私の部屋がドッチャラかっチャラって 私そんな言葉初めて聞いて笑っちゃった」
「今日は聡美さんと約束があって遅れたら悪いからと」
「あの人いつも遅れるから最初は30分前 今は1時間前」
「待ちくたびれたりしないんですか?」
「裕子さんは廊下で迷うの 同じところをぐるぐる回るの 得意じゃないみたい」
「それって」
「それって?」
 廊下の向こうの方から声が聞こえた。
「聡美さん 聡美さん」
 裕子だ。ドアが少しだけ開いている。
「裕子さん 廊下の声は小さく小さく」
そういうとドアが閉まった。
「あら?」
と29番が小走りで向かう。
「スタッフさん 走っちゃだめですよ」
「すいません」
 聡美が裕子の部屋に近づいてドアを叩いた。
「裕子さん 支度できましたか?」
「やっと見つけたけどこれで良いのかしら?」 「ドアを開けて見せて」
「ドッチャラかっちゃらだからイヤ」
「船長さんがアナウンスしていたのに聞いてないの?」 
「シャワーしてたの」 
「船長さんはね 外出の際はノースリーブやミニスカートなど肌の露出した服装をなさらないようにくれぐれもご注意下さい そう言ってらしたわよ」
 と聡美は29番の顔を見た。大きくうなづく29番だった。ドアが少しだけ開いた。
「じゃあ 長袖のブラウスにスラックス これで大丈夫ね 見て見て」
 裕子は細いドアの隙間から廊下に出ようとしていた。29番は「わっ」といい聡美は「だめよ」と叫んだ。裕子は怪訝な顔。裕子は廊下に出てきてドアが閉まった。イヤ閉まりかけた。聡美が靴を出してとドアが閉まらないようにした。
「ヤダ聡美さん ドッチャラかっちゃらは見ないで」
「裕子さん 鍵を持たずに出て行ったら入れなくなるのよ 注意しなくちゃ」
「だって」
「スタッフさんが大変になるでしょ」
「ごめんなさい」
 聡美は小さなドアの隙間から部屋の中を見た。これがドッチャラかっちゃらだ。やっと真実に気づいた聡美。もう少し開けるとベッドの脇のテーブルに写真が置いてあった。サラーラの写真。聡美は前にも見たことがあった。
「裕子さん あれサラーラの写真でしょ」
 裕子は廊下から部屋に戻ったが写真を見ても首をかしげるだけだった。
「サラーラって?」
「今ついたところ」
「あー そうね」
「あの段ボールの上にスカーフがあるしょう? スカーフもいるからね 鍵とスカーフをバッグに入れて来て 私廊下で待ってるから」
 そう言ってドアを閉めた聡美。嬉しそうに「はーい」
とはしゃぐ裕子。
 廊下で聡美は29番をハグした。そして小声で言った。
「よろしくお願いします 私も出来るだけのことはします」
 聡美はまるで女神のように見えていた。



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33  サラーラ

2025-01-07 16:51:35 | 世界一周ひとり旅
サラーラはアラビア半島南部の港町でオマーン南部のドファール特別行政区の行政中心都市である。
 サラーラの資料がテーブルに置いてあった裕子の部屋。化粧を終えて洗面所から出てきた裕子。
 サウジアラビア半島の南東部を占めるオマーンは日本の約3/4の広さである。長らく半鎖国状態が続き、1970年に現カブース国王が王位につき石油の自由輸出が始まった。サラーラはアラビア半島で唯一ハリーファと呼ばれるモンスーンの恵みを受けていたそうだ。(平成10年以前資料)
 部屋のドアでノックの音がした。
「はい」
 ドアを開く裕子。立っていたのはスタッフ。
32 ライブラリー
に登場した29番だ。
「あっ スタッフさん でもまだお名前も聞いてなかったわ」
「そんなことはいいんです」
「わたくし今日わね」
「片山さんは今日オプショナルツアー半日観光ですよね」
「何でもご存知ね」
「船長のアナウンスでもお気をつけて下さいと言ったのですが」
「えっ! なになに? 怖いところ?」
「ではなくて ただ宗教はいくつかの宗派があって主にイスラム教に基づく習慣伝統が守られているそうで」
「どういうことなんですか!?」
「お渡しした資料にも書いてあったんですけど洋服にも気をつけないと」
「資料って?」
「ですよね とりあえず失礼します」
 と29番が裕子の部屋に入ろうとするが
「やめて〜散らかってるから それより聡美さんと待ち合わせしてるの 遅刻したら申し訳ないわ」
「まだ早いですから大丈夫です」
「でも聡美さんは何でも知ってるから」 
「えっ」
「呼んできて」
「わかりました あと洋服は長袖と長ズボンですから」
 待ち合わせの方向に走り始めてしばらく経ってから立ち止まった29番。
「聡美さんだけでわかる?」
 戻りかけたがやめてまた走る29番。スタッフは船の中で走ってはいけないのに。



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