糸乃こまりのストーリー

川柳と小説〜下町とチワワはhttps://plaza.rakuten.co.jp/daigotyokotan

シナリオ


ライター志望ランキング

32 ライブラリー

2024-12-14 13:58:33 | 世界一周ひとり旅


「ライブラリー」と書いた部屋があった。こっそり開ける裕子。中で壁に本が飾られている。何人かの人が静かに本を読んでいる。キレイな鈴の音が聞こえた。奥から一人のスタッフが登場。 

31 パパのヤキモチ 

で裕子はこの人たちのおかげでずいぶん助かったのだ。

「片山さん」

「スタッフさん 先日はありがとうございました わたくしスタッフさんの名前を聞くこともなくて」

「スタッフには名前がないんです」

「えっ」

「いろいろな国の方がいらっしゃるので名前を聞いたり覚えたりするのが大変なので全て数字になっています」

「ほう」

「先日の一人は3で私は29です」

「それぐらいでしたらわたくしも覚えられますね」

「本をお探しですか?」

「わたくしも今まではお買い物に大騒ぎしてましたけどそれより次に行く国を勉強しておかなければと思いまして」

「奥にも本がありますから少し探して来ますね」

 29番が奥に入った。裕子もテーブルに座った。十何人かが座って本を読んでいた。白人もいるしアジア人もいる。また黒人もいる。国から離れるとその国の言葉が恋しくなるんだなぁ。私もそうなんだ。向こうの壁に船の帰路が書いてあったので立ち上がって近づいた。この前はボンベイだったなぁと思った裕子だったがしばらく眺めていたが自分はナゼ今ここにいるのがわからなくなってしまった。やがて裕子は黙って部屋を出ていった。奥から戻った29番。裕子がいない事に気づいたが持ってきた本の何冊かの中の文章をコピーした。

 資料を持った29番だったがもし3番に聞いたらお客さまの部屋まで開けさせたりしないでドアの下の隙間から資料を入れた方がいいというだろう。だがやはり29番は裕子の部屋に近づいてしまっていた。何も考えないようにと裕子の部屋を叩いた。

「片山さま スタッフです」

 ドアが空いた。

「あっ スタッフさん 先日はありがとうございました お二人のおかげで助かりました」

「いいえ」

「スタッフさんのお名前も聞くのを忘れてしまいました」

「スタッフには名前がないんです 色々な国のお客さまがいらっしゃるので名前を聞いたり覚えたりするのが大変で 全て番号にしています もう一人が3番で私は29番です」

「なるほどねぇ ところで今日は?」

 言われた29番は冷静になければいけないと思った。資料を見せて

「今度の寄港です」

「わぁ ありがとうございます まるで心が通じたようですね」 

「何でもおっしゃって下さい」

頭を下げてから離れていく29番。ドアを閉める音がしないから振り向くとドアを開けたままお辞儀している裕子だったが部屋の奥までよく見えた。段ボールがまだいくつも重なって置いてあるしその上に洋服やバッグやスカーフが乱雑においてあった。29番には大体なことはわかった。ただそのことを3番にいうかいうまいか悩みが尽きないだろう。

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31 パパのヤキモチ

2024-12-14 13:55:02 | 世界一周ひとり旅


「裕ちゃん」

「パパ どうしてここに」

「私はあなたの父親じゃない」

「子どもから見たらパパでしょ」

「そんなことより手を繋いでるのは誰だ?」

「お医者さんです あっ!! 大変 先生の名前を聞いていなかったわ」

「片山さん 片山さん 船に戻りましたよ」

 それでようやく裕子は目を開けた。スタッフに起こされたのだがバスの一番奥で壁に寄りかかっていてヨダレが出ていた。裕子はキョロキョロしながら

「あら 先生は?」

「先生は途中降りて日本に向かったなんです」

「えー」

「片山さんがあまりによく眠ってましたから起こすのは悪いと」

「先生帰っちゃっんですか」

「実は先生」

後ろから近づいてきたもう一人のスタッフが「しっ!」

と止めた。

 やっと裕子は思い出した。ガンディ記念館のそばのレストランでオードブルをいただき白ワインもいただき上機嫌で2杯飲んだところまでしか憶えていない。裕子はガーンと思った。先生も呆れていたんだろうなと。

 船でも二人のスタッフが両側に立って歩いていた。さん人の後ろから声が掛かった。

「裕子さん 大丈夫? ホントに具合が悪かったのね」

 チラッと振り向けば例のツッコミ。

「はぁ まぁ」

「裕子さんは行けなかったホテルでいいもの買えたのよ 後で部屋まで見に来ません?」

 そう言われて前の裕子だったらはしゃいで「後で伺うわぁ」などと言っただろうけど言わなかった。そして突然言い出した。

「ガンディさんをよく知っていますか?」

「えーよくは知りません」

「私はガンディさんの本を買いました。後でお見せしたいわ」

「あ! 結構ですわ」

 ツッコミとボケは去って言った。スタッフのおしゃべりの方が

「お買いになったんですか?」

「ガンディ記念館にあった本を買おうとしたら先生は日本語じゃないからねって」

「でも記念で飾りで買いたいって言ったら」

「ハイ」

「飾りはいりません 大事なのは本当の心です」

「ホー まるで学校の先生みたいですね」

「そうなの そうなんですよ」 

裕子はすっかり医師のファンになっていた。今だに名前は知らなかったけれど。 

 

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30 印度とは?

2024-12-14 13:47:53 | 世界一周ひとり旅

印度にはカーストという特別な制度があった。親の職業をそのまま子どもが引き継ぐのが当たり前とされていた。

 農家に生まれた子が

「病気で苦しんでいる人のために医者になりたい」

とか 

「料理が好きだからコックになりたい」

という本人の希望は印度では許されなかった。

 最近ではカースト制度による差別は見られなくなかったそうだが地方では今なお差別が根強く残っているそうだ。

「だからマハトマ·ガンディのような人が現れたんです」

 二人はマニ·ババン·ガンディ記念館を歩いていた。医師はまるでガイドのように説明する。この記念館は1917年〜1934年までボンベイにおけるガンディ運動の本部として使われていた。ここからガンディは真理と非暴力という不滅の理想に基づいて国家を築きあげていきました。1919年にはガンディが初めて自由を勝ち取るための大衆闘争を繰り広げ英国支配の基盤を揺さぶりました。

 建物の一階にはガンディの生涯や思想の本の図書館になっていた。そのあたりから裕子は自然に左腕で医師の腕に絡まった。パパとよくこんな風には歩いていたと懐かしく思っていた。

 二階にはガンディの部屋がそのまま保存されていた。そして1932年ガンディはいつも睡眠してお祈りするテラスのテントで逮捕されたという。裕子は立派な指導者の悲痛な最後に胸を打たれた。だからろくにガンディのことも知らずホテルでバッグや宝石をいかに安く買えるかそんなことばかりの自分がとても恥ずかしくなっていた。

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29 医者の世界

2024-12-08 06:23:08 | 世界一周ひとり旅

21 浅野内匠頭

に登場した医師と裕子はバスに乗っていた。

 医師はホテルのタクシーなら安心だと言っていたがスタッフに連絡したら反対されたらしい。タクシーでなくバスでと言われ しかもスタッフの二人も乗るといった。バスに乗っていたのはほとんど外国人。医師はバスの一番うしろの窓際に裕子を座らせた。もちろんその隣に座った。スタッフ二人は前の方に座っている。バスが走り始めてからずいぶん経っている。スタッフは船の客と医師が勝手にバスから降りてどこかに行ってしまったら大変だから前に座っているんだわ。もしスタッフが後ろに座ってグズグズしていたら二人がどこかに行ってしまう それを心配しているんだと裕子は妄想中。デートなんて言ってたけど何も言わないのねと医師の横顔を見つめる裕子。その時医師が裕子の方を見た。裕子はドギマギ。

「片山さん」

「はい」

 あれ? さっきは片山裕子さんだったのに片山さんに戻ってしまっていた。

「片山さんのご主人のお父さまも医師でしたか?」

 え!? これがデートの会話?

「サラリーマンでした ただ主人が小児麻痺にになってしまって よくなって歩けるけど走ることが出来なくなってしまったんです 医者になって子どもたちを治したいと思ったそうです」

「素晴らしい話ですね」

「先生のお父さまはやはり?」

「はい 高校に入った途端言われたけど嫌で嫌で でも母親に泣かれてね」

「お優しい」

「印度はカーストでね」

「カースト!?」

「意味は生まれです」

「あぁ 聞いたことあります 主人も印度にいたらお医者さんになれなかったんですよね」

「船に乗っていろんな国に来たのに意外と見物してなくて特に印度にはどうしても会いたい人がいて」

「初恋のインド人?」

「会ったことない人です」

「えぇ!?」

「昔のひとですよ」

 それっきり医師は遠くを見ていて何も言わなくなってしまった。これデートかな? 首をかしげる裕子だった。

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28  印度は寂しくないところ

2024-12-07 17:20:55 | 世界一周ひとり旅
大きなバスから男性が降りてきたらドアが閉まって走り出した。もしかしたらあのバス!? と思って裕子はバスを追い掛け始めた。
「片山さん どうしましたか?」
 とバスから降りた男性が言った。はたと立ち止まった裕子。
「あっ先生!!」
21 浅野内匠頭 に登場した医師だった。 「片山さん バスに忘れ物でも?」
「あぁ そうじゃないんです でも私の名前をおぼえていてくれるなんて」
「カルテに名前のある方のことは毎日考えますよ 今日もお健やかかと それが医師の務めです」
 ガタガタと裕子の身体が崩れ落ちて座り込んだ。 
「大丈夫ですか?」
「先生 見て下さい ホテルの入口に二人の女性がこちらを見ているでしょう?」
「えぇ」
「私 あの二人と一緒にいるのが嫌になってしまって」
「それはよくあることです」
「えっ」
「私がお断りしてきますよ」  
「先生にそんなことさせるなんて」とってと
「私も船のスタッフの一人ですから 私のあとをゆっくり歩いて来て下さい」
 とさっさと歩いて行く医師。裕子は立ち上がりホテルの入口を振り向くと医師の背中が見えた。この先生こんなに背が高かったかな? 何だかとっても魅力的に見えて来た。
 ホテルの入口に戻ったらもうツッコミとボケはいなかった。
「片山さんはお疲れなので少し休ませますと言っておきました」
「ありがとうございます わたくしも助かりました」
「ホテルのお買い物に行かないようでしたら お付き合いいただけませんか?」
「えっ」
「他のスタッフに連絡しておきますから ホテルのタクシーなら安心です」
「どこに行くんですか?」
 医師は何も言わない。裕子は心の中でわたくしをデートに誘うおつもり? と聞いた途端医師が言った。
「まるでデートですね 片山裕子さん よろしいですか」 

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27 続印度は寂しいところ

2024-12-07 17:16:35 | 世界一周ひとり旅

バスがホテルの地下駐車場にぐるっと回って行った。止まると船のグループたちかゾロゾロと一緒に出て行く。裕子と聡美はよくバスの前の方の席に座っていたが一人っきりの裕子はバスから離れなければいけないのになかなか出ていけないでグズグズしていた。バスの通路を通っていった女性の一人が裕子を振り向いた。
「あら 裕子さん? よね」
「えぇ」
 裕子は心の中でしまったと思っていた。自分の名前を知っている人の名前がわからない。どうしよう?
「一緒の方は裕子さんのお嫁さんと同じ名前で嫁はイマイチだけどあの方はとてもいい方って」
「私そんなこと前に言ってました?」
 かなり自分が恥ずかしくなる。
「後ろの方たちも待っているから急ぎましょ。裕子さんも私たちと一緒にホテルでお買い物しません?」
 裕子のお尻がぐぐっと軽くなった。彼女ともう一人の彼女に付いてやっとバスを降りた。だが3人で歩いているとやはり二人連れにはみ出した人が一人。そんな感じ。そして二人で歩いているとたいていおしゃべりとそうでもない人。漫才のツッコミとボケみたい。駐車場のガラスの向こうがホテルの地下2階。向こうにある大きな花瓶にあふれるほどの真っ赤なバラが挿してあるのが見えた。ガラスのドアが開いた途端ツッコミが振り向いて言った。
「彼女の噂話知ってる?」
 裕子はよく話を聞かず彼女の向こうのバラに見惚れていた。
「キレイ!! 印度でもやっぱりバラですね」
「悪いわね 私はキレイじゃなくて」
「えっ そんなこと」
「裕子さんと仲いい方」
「聡美さんのこと? ご主人は貿易会社の社長さんで時々港で会うそうですよ。ポンペイでデート。いいわね 夢みたい」
「夢じゃなくて嘘でしょう?」
 ボケが横でクスクス笑った。ボケはあくまで無口だ。
「聡美さんが嘘つきなんて」 
「信じていらっしゃるならそれでよろしいですけど」
 ツッコミはそう言ってボケとスタスタと歩いて行った。こんな人たちと一緒にいたくないと裕子は思った。二人の後ろ姿に
「ごめんなさい バスに忘れ物しちゃいました 後で行きますから」
 と走り出した。
 戻っていく裕子に
「ここで待ってますよ」
 ボケはやさしいがうっとうしい生き物だ。
 裕子はバスに戻ろうとしたけど見つからない。忘れ物なんてないけどどうしよう!? 聡美の悪口をいうあの二人とじゃ嫌だけど一人では何も出来ない裕子だった。さてどうすることやら

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今日いち-2024年12月2日

2024-12-02 14:32:56 | 保護犬2匹
隅田川沿いで
♥ひと休み♥
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26 印度は寂しいところ

2024-12-02 14:28:58 | 世界一周ひとり旅



3/2に横浜を出て22日の朝8時頃にボンベイ港に着く。印度といえば広い国、男の人は頭にターバンを巻き白いタプタプの衣服をまとい、裸足で砂の上を歩いている風景を裕子は想像していた。そろそろお出かけしようかと裕子は化粧品をパタパタとつけていた頃船の船長のアナウンスが聞こえた。

「ボンベイの港が見えて来ました。埋立地に高層ビルが林立しているのがポンペイの港です」

 裕子は急いで窓に近づき目の前の風景にカルチャーショックを受けていた。

 支度を済ませた裕子はたまたま階段の途中で聡美に会った。今日も一緒にいられる聡美が裕子は大好きだった。

「聡美さん、印度のこと、色々教えて!!」

「ポンペイは印度の西の玄関口で経済活動で政治の首都はニューデリーよ」

 船に初めに乗った裕子と違って聡美は何でもよく知っている。

「印度は都会なのね〜失礼しました」

 聡美は何故か早足になっていた。慌てて裕子も早足になる。

「でも公園では女性が裸の赤ちゃんを抱いて物乞いをしているのに仰天した人がいるそうよ」

「え〜」

「だけどよく聞いてみると赤ちゃんは1日いくらで借りるらしいの」

「すごい話で日本では考えられ」

 裕子の会話の途中で少し先を歩いていた聡美が少し大きな声を上げた。

「あー、ごめんなさい」

 と立ち止まり振り向いた。

「聡美さん、どうしたの?」

「今日は久しぶりに主人に会うの」

「あっ」

「ごめんなさい、急いでるから」

 小走りで去って行く聡美。がくんと元気がなくなってしまった裕子だった。
印度は寂しいところ






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25 ピエロのダンス

2024-12-02 14:24:17 | 世界一周ひとり旅

裕子はパーティ場の片すみで一人でダンスの練習をしていた。そばにいた人たちも彼女がそんなことをしてもさして興味を持たなかった。何しろこの夜は普通の人などいない仮面舞踏会だから。

 そして肩を叩かれた裕子は振り向いてホッとした顔になった。

「聡美さん」

だが首を振りながら

「はじめましてサトシです」

と答えた。仮面を付けた男装麗人だったからだ。

「ご主人の?」

「亡くなった父の。かなり古物」

「でもすごいわ! 似合ってる」

「それより何してるの」

「ピエロが私とダンスをしたいらしいの」

「私が右足を出したらあなたは左足を引く あなたが右足を出したら私は右足を引く 」

「サトシさんも同じこと言われたの!?」

「くるりと回ってオーレ!」

「オーレって掛け声でしょう?」

「スペインの闘牛士よ。真っ赤なファーの扇子みたいな色で牛を誘うのよ」

「私が牛?」

「それより写真撮ってくれるそうよ。裕子さんもステキよ」

 と手を引っ張った。サトシはいつもより強引だった。

 写真コーナーではそれこそ多種多様。大きなお腹のカエル、インドのサリー、ミツバチマーヤ、オテモヤン、日本髪の人、ヒョウにカンガルー。裕子は小声でこっそり

「私たちが一番まともよね」

 大きくうなづいてからサトシは

「でも一番の大物がいるわ!?」

 サトシが知っていた船の中で一番年上だった老婆が赤ちゃんの格好をしていた。その彼女を見て

「わぁ、みんないつかはああなるのね」 

大きくうなづく二人だった。

 酔っ払って部屋に戻った裕子は夢を見た。ピエロが船の中で一人で踊っていた。くるくる回って右手を上げて「オーレ!」。そう言ってグスグス泣き出した。

「ピエロどうしたの? 泣いたりして」

「ボクのこと忘れたんだね」

「えっ!?」

「一緒に船に乗ろうと言っただろ?」

 裕子はその声で目を覚ました。

「忘れてた」

 まだなんの整理も出来ていない段ボールの山。引っかき回している裕子。

「あったー」

 裕子は家から持って来たピエロの人形を裕の位牌と写真の隣りに置いた。そして裕子は自分がどんどん物忘れが酷くなることにまだ気づいていなかった。 



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24 仮面舞踊会

2024-12-02 14:19:17 | 世界一周ひとり旅
裕子はマフカレードナイトという東野圭吾の単行本があると人に聞いていたけどまだ読んでいない。マスカレードとは仮面舞踏会のこと。そしてある日そんなパーティが始まった。

 裕子は先日上海で購入したチャイナドレスをさっそく着ることにした。部屋で着てみて

「まんざらでもないじゃない!?」

 鏡の前でクルリと回って見せた。パーティ用の小さなキラキラバッグは持ってきている。だけどもう一つあった方が華やかだ。そういえば船に乗るのが初めての裕子と違って聡美は何でもよく知っている。

「船には衣装部があるのよ。パーティのときに足りないものがあったら何でも貸してくれるの」

「へぇ」

「でもみんな借りに来るから早く行かなくちゃね」

 そうだ!! 廊下を走りだす裕子。

 そして一夜の仮面舞踏会。

 裕子は衣装部に行ったりして遅刻してしまった。ドアを開けて驚いた。すごい人。元々この船では知っている人は少ない。その上チラッと会ったことのある人でも仮面では全くわからない。スタッフたちも仮面を付けている。

 ただ一人だけ仮面を付けていなかった。ピエロの格好をしていた。顔を真っ白にして赤い丸い鼻を付けている。仮面を付けたらこの良さはわからない。そして裕子に始めて近づいたのもピエロだった。

「踊りましょう」

「私踊れないんです」

 ピエロは泣きそうな顔をしていて突然向き合って裕子の両手を握った。裕子は右手にバッグ、左手にファーの真っ赤な扇子を閉じたまま持っていたが無理矢理握られた。

「私が右足を出したらあなたは左足を引く」

「えっ」

「今度はあなたが右足を出して私は左足を引く」

「ちょっと待って待って待って」

「右に2歩左に2歩 手を離してくるっと回って右手を上げてオーレ」

「何それ?」

「掛け声ですよ」

「へぇ」

「お酒取って来ますよ。ビールでいいですか?」

「えぇ」

「練習してて下さい」

 仕方なく練習を始めた裕子だった。
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