糸乃こまりのストーリー

川柳と小説〜下町とチワワはhttps://plaza.rakuten.co.jp/daigotyokotan

シナリオ


ライター志望ランキング

35 ピンクのスカーフ

2025-01-07 17:00:28 | 世界一周ひとり旅
すっかりルンルン気分の裕子と聡美は裕子の部屋を去って行った。朝から大騒ぎだったがあとは聡美さんという神が守ってくれるんだろう。29番はそう思った。もう二人が去って誰もいない廊下に思い切り深く頭を下げた。さてと午前中は実は休みなので帰って一眠りしようかなどと思った29番。だが何気なく裕子の部屋のドアを振り向いた彼女が「ん?」「えっ?」。裕子の部屋のドアの下の隙間からちらりと見えた物。29番は見ていなかったが
23 インド洋の海水
にも登場したピンクのスカーフだった。片山さんがバッグに入れたはずの大切なモノ。ひっぱり出して持っていかなければと29番はしゃがんでひっぱった。スルスルと出てきた。ところがある程度出てきたのに最後までは出て来ない。何かに引っかかっているようだ。
「どうしよう!?」
 さらにしゃがんで中をのぞき込んだ。その時
「何してるの?」
 廊下の隅から走って来たのが3番だっだ。ヒャ〜どうしようどうごまかそうか! 焦る29番だったが意外と走って来た上司に叫んだ。
「廊下を走ってはいけません」
「あぁ そうね」
 とゆっくり近づいて来た。
「どうしたの?」
「片山さんがスカーフをお忘れのような
ので」
「じゃあ お届けして」
「でも出て来ないんです」
「ナゼ?」
「わかりません」
「ねぇ」
「はい?」 
「あなたは今日の午前中 お休みなのよね?」
「実は」
「なのにスタッフの格好」
「はい」
「ナゼですか?」
「わかりません」
「ん? 部屋のドアの向こうはお客様だけのものです しゃしゃくり出てはいけません」
「でも」
「スカーフが出て来ないなら元に戻さないと」
 そう言って3番は押し込んだ。そして立ち上がった。
「私に何か言うことはありますか?」
「何もありません」
「そうですか? それでしたら午後までゆっくりお休み下さい」
「はい」
 そう言って離れて行く3番。彼女の頭の中で何人かの問題児客が既に登場しているが片山さんは少々酒に弱い人だぐらいにしか思っていなかった。だがチラッと振り向くと29番はまだ片山さんの部屋のドアの隙間から中を覗き込んでいた。



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34 29番の悩み事

2025-01-07 16:55:56 | 世界一周ひとり旅
やはり待合場所にはまだ誰もいなかった。と思った29番だったが一人だけ椅子に座った女性がいた。慌てて近づいて
「聡美さんという方 ご存知ではありませんか」
「スタッフさん どうなさったの? 私も聡美です」
 29番はホッとして聡美の隣りに座った。凛とした美しい女性だった。29番はこれこれと説明して二人は裕子の部屋に向かった。
「でも裕子さん 私の部屋に来ないでーーいつも言ってましたよ」
「どうしてでしょう」
「私の部屋がドッチャラかっチャラって 私そんな言葉初めて聞いて笑っちゃった」
「今日は聡美さんと約束があって遅れたら悪いからと」
「あの人いつも遅れるから最初は30分前 今は1時間前」
「待ちくたびれたりしないんですか?」
「裕子さんは廊下で迷うの 同じところをぐるぐる回るの 得意じゃないみたい」
「それって」
「それって?」
 廊下の向こうの方から声が聞こえた。
「聡美さん 聡美さん」
 裕子だ。ドアが少しだけ開いている。
「裕子さん 廊下の声は小さく小さく」
そういうとドアが閉まった。
「あら?」
と29番が小走りで向かう。
「スタッフさん 走っちゃだめですよ」
「すいません」
 聡美が裕子の部屋に近づいてドアを叩いた。
「裕子さん 支度できましたか?」
「やっと見つけたけどこれで良いのかしら?」 「ドアを開けて見せて」
「ドッチャラかっちゃらだからイヤ」
「船長さんがアナウンスしていたのに聞いてないの?」 
「シャワーしてたの」 
「船長さんはね 外出の際はノースリーブやミニスカートなど肌の露出した服装をなさらないようにくれぐれもご注意下さい そう言ってらしたわよ」
 と聡美は29番の顔を見た。大きくうなづく29番だった。ドアが少しだけ開いた。
「じゃあ 長袖のブラウスにスラックス これで大丈夫ね 見て見て」
 裕子は細いドアの隙間から廊下に出ようとしていた。29番は「わっ」といい聡美は「だめよ」と叫んだ。裕子は怪訝な顔。裕子は廊下に出てきてドアが閉まった。イヤ閉まりかけた。聡美が靴を出してとドアが閉まらないようにした。
「ヤダ聡美さん ドッチャラかっちゃらは見ないで」
「裕子さん 鍵を持たずに出て行ったら入れなくなるのよ 注意しなくちゃ」
「だって」
「スタッフさんが大変になるでしょ」
「ごめんなさい」
 聡美は小さなドアの隙間から部屋の中を見た。これがドッチャラかっちゃらだ。やっと真実に気づいた聡美。もう少し開けるとベッドの脇のテーブルに写真が置いてあった。サラーラの写真。聡美は前にも見たことがあった。
「裕子さん あれサラーラの写真でしょ」
 裕子は廊下から部屋に戻ったが写真を見ても首をかしげるだけだった。
「サラーラって?」
「今ついたところ」
「あー そうね」
「あの段ボールの上にスカーフがあるしょう? スカーフもいるからね 鍵とスカーフをバッグに入れて来て 私廊下で待ってるから」
 そう言ってドアを閉めた聡美。嬉しそうに「はーい」
とはしゃぐ裕子。
 廊下で聡美は29番をハグした。そして小声で言った。
「よろしくお願いします 私も出来るだけのことはします」
 聡美はまるで女神のように見えていた。



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33  サラーラ

2025-01-07 16:51:35 | 世界一周ひとり旅
サラーラはアラビア半島南部の港町でオマーン南部のドファール特別行政区の行政中心都市である。
 サラーラの資料がテーブルに置いてあった裕子の部屋。化粧を終えて洗面所から出てきた裕子。
 サウジアラビア半島の南東部を占めるオマーンは日本の約3/4の広さである。長らく半鎖国状態が続き、1970年に現カブース国王が王位につき石油の自由輸出が始まった。サラーラはアラビア半島で唯一ハリーファと呼ばれるモンスーンの恵みを受けていたそうだ。(平成10年以前資料)
 部屋のドアでノックの音がした。
「はい」
 ドアを開く裕子。立っていたのはスタッフ。
32 ライブラリー
に登場した29番だ。
「あっ スタッフさん でもまだお名前も聞いてなかったわ」
「そんなことはいいんです」
「わたくし今日わね」
「片山さんは今日オプショナルツアー半日観光ですよね」
「何でもご存知ね」
「船長のアナウンスでもお気をつけて下さいと言ったのですが」
「えっ! なになに? 怖いところ?」
「ではなくて ただ宗教はいくつかの宗派があって主にイスラム教に基づく習慣伝統が守られているそうで」
「どういうことなんですか!?」
「お渡しした資料にも書いてあったんですけど洋服にも気をつけないと」
「資料って?」
「ですよね とりあえず失礼します」
 と29番が裕子の部屋に入ろうとするが
「やめて〜散らかってるから それより聡美さんと待ち合わせしてるの 遅刻したら申し訳ないわ」
「まだ早いですから大丈夫です」
「でも聡美さんは何でも知ってるから」 
「えっ」
「呼んできて」
「わかりました あと洋服は長袖と長ズボンですから」
 待ち合わせの方向に走り始めてしばらく経ってから立ち止まった29番。
「聡美さんだけでわかる?」
 戻りかけたがやめてまた走る29番。スタッフは船の中で走ってはいけないのに。



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32 ライブラリー

2024-12-14 13:58:33 | 世界一周ひとり旅


「ライブラリー」と書いた部屋があった。こっそり開ける裕子。中で壁に本が飾られている。何人かの人が静かに本を読んでいる。キレイな鈴の音が聞こえた。奥から一人のスタッフが登場。 

31 パパのヤキモチ 

で裕子はこの人たちのおかげでずいぶん助かったのだ。

「片山さん」

「スタッフさん 先日はありがとうございました わたくしスタッフさんの名前を聞くこともなくて」

「スタッフには名前がないんです」

「えっ」

「いろいろな国の方がいらっしゃるので名前を聞いたり覚えたりするのが大変なので全て数字になっています」

「ほう」

「先日の一人は3で私は29です」

「それぐらいでしたらわたくしも覚えられますね」

「本をお探しですか?」

「わたくしも今まではお買い物に大騒ぎしてましたけどそれより次に行く国を勉強しておかなければと思いまして」

「奥にも本がありますから少し探して来ますね」

 29番が奥に入った。裕子もテーブルに座った。十何人かが座って本を読んでいた。白人もいるしアジア人もいる。また黒人もいる。国から離れるとその国の言葉が恋しくなるんだなぁ。私もそうなんだ。向こうの壁に船の帰路が書いてあったので立ち上がって近づいた。この前はボンベイだったなぁと思った裕子だったがしばらく眺めていたが自分はナゼ今ここにいるのがわからなくなってしまった。やがて裕子は黙って部屋を出ていった。奥から戻った29番。裕子がいない事に気づいたが持ってきた本の何冊かの中の文章をコピーした。

 資料を持った29番だったがもし3番に聞いたらお客さまの部屋まで開けさせたりしないでドアの下の隙間から資料を入れた方がいいというだろう。だがやはり29番は裕子の部屋に近づいてしまっていた。何も考えないようにと裕子の部屋を叩いた。

「片山さま スタッフです」

 ドアが空いた。

「あっ スタッフさん 先日はありがとうございました お二人のおかげで助かりました」

「いいえ」

「スタッフさんのお名前も聞くのを忘れてしまいました」

「スタッフには名前がないんです 色々な国のお客さまがいらっしゃるので名前を聞いたり覚えたりするのが大変で 全て番号にしています もう一人が3番で私は29番です」

「なるほどねぇ ところで今日は?」

 言われた29番は冷静になければいけないと思った。資料を見せて

「今度の寄港です」

「わぁ ありがとうございます まるで心が通じたようですね」 

「何でもおっしゃって下さい」

頭を下げてから離れていく29番。ドアを閉める音がしないから振り向くとドアを開けたままお辞儀している裕子だったが部屋の奥までよく見えた。段ボールがまだいくつも重なって置いてあるしその上に洋服やバッグやスカーフが乱雑においてあった。29番には大体なことはわかった。ただそのことを3番にいうかいうまいか悩みが尽きないだろう。

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31 パパのヤキモチ

2024-12-14 13:55:02 | 世界一周ひとり旅


「裕ちゃん」

「パパ どうしてここに」

「私はあなたの父親じゃない」

「子どもから見たらパパでしょ」

「そんなことより手を繋いでるのは誰だ?」

「お医者さんです あっ!! 大変 先生の名前を聞いていなかったわ」

「片山さん 片山さん 船に戻りましたよ」

 それでようやく裕子は目を開けた。スタッフに起こされたのだがバスの一番奥で壁に寄りかかっていてヨダレが出ていた。裕子はキョロキョロしながら

「あら 先生は?」

「先生は途中降りて日本に向かったなんです」

「えー」

「片山さんがあまりによく眠ってましたから起こすのは悪いと」

「先生帰っちゃっんですか」

「実は先生」

後ろから近づいてきたもう一人のスタッフが「しっ!」

と止めた。

 やっと裕子は思い出した。ガンディ記念館のそばのレストランでオードブルをいただき白ワインもいただき上機嫌で2杯飲んだところまでしか憶えていない。裕子はガーンと思った。先生も呆れていたんだろうなと。

 船でも二人のスタッフが両側に立って歩いていた。さん人の後ろから声が掛かった。

「裕子さん 大丈夫? ホントに具合が悪かったのね」

 チラッと振り向けば例のツッコミ。

「はぁ まぁ」

「裕子さんは行けなかったホテルでいいもの買えたのよ 後で部屋まで見に来ません?」

 そう言われて前の裕子だったらはしゃいで「後で伺うわぁ」などと言っただろうけど言わなかった。そして突然言い出した。

「ガンディさんをよく知っていますか?」

「えーよくは知りません」

「私はガンディさんの本を買いました。後でお見せしたいわ」

「あ! 結構ですわ」

 ツッコミとボケは去って言った。スタッフのおしゃべりの方が

「お買いになったんですか?」

「ガンディ記念館にあった本を買おうとしたら先生は日本語じゃないからねって」

「でも記念で飾りで買いたいって言ったら」

「ハイ」

「飾りはいりません 大事なのは本当の心です」

「ホー まるで学校の先生みたいですね」

「そうなの そうなんですよ」 

裕子はすっかり医師のファンになっていた。今だに名前は知らなかったけれど。 

 

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30 印度とは?

2024-12-14 13:47:53 | 世界一周ひとり旅

印度にはカーストという特別な制度があった。親の職業をそのまま子どもが引き継ぐのが当たり前とされていた。

 農家に生まれた子が

「病気で苦しんでいる人のために医者になりたい」

とか 

「料理が好きだからコックになりたい」

という本人の希望は印度では許されなかった。

 最近ではカースト制度による差別は見られなくなかったそうだが地方では今なお差別が根強く残っているそうだ。

「だからマハトマ·ガンディのような人が現れたんです」

 二人はマニ·ババン·ガンディ記念館を歩いていた。医師はまるでガイドのように説明する。この記念館は1917年〜1934年までボンベイにおけるガンディ運動の本部として使われていた。ここからガンディは真理と非暴力という不滅の理想に基づいて国家を築きあげていきました。1919年にはガンディが初めて自由を勝ち取るための大衆闘争を繰り広げ英国支配の基盤を揺さぶりました。

 建物の一階にはガンディの生涯や思想の本の図書館になっていた。そのあたりから裕子は自然に左腕で医師の腕に絡まった。パパとよくこんな風には歩いていたと懐かしく思っていた。

 二階にはガンディの部屋がそのまま保存されていた。そして1932年ガンディはいつも睡眠してお祈りするテラスのテントで逮捕されたという。裕子は立派な指導者の悲痛な最後に胸を打たれた。だからろくにガンディのことも知らずホテルでバッグや宝石をいかに安く買えるかそんなことばかりの自分がとても恥ずかしくなっていた。

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29 医者の世界

2024-12-08 06:23:08 | 世界一周ひとり旅

21 浅野内匠頭

に登場した医師と裕子はバスに乗っていた。

 医師はホテルのタクシーなら安心だと言っていたがスタッフに連絡したら反対されたらしい。タクシーでなくバスでと言われ しかもスタッフの二人も乗るといった。バスに乗っていたのはほとんど外国人。医師はバスの一番うしろの窓際に裕子を座らせた。もちろんその隣に座った。スタッフ二人は前の方に座っている。バスが走り始めてからずいぶん経っている。スタッフは船の客と医師が勝手にバスから降りてどこかに行ってしまったら大変だから前に座っているんだわ。もしスタッフが後ろに座ってグズグズしていたら二人がどこかに行ってしまう それを心配しているんだと裕子は妄想中。デートなんて言ってたけど何も言わないのねと医師の横顔を見つめる裕子。その時医師が裕子の方を見た。裕子はドギマギ。

「片山さん」

「はい」

 あれ? さっきは片山裕子さんだったのに片山さんに戻ってしまっていた。

「片山さんのご主人のお父さまも医師でしたか?」

 え!? これがデートの会話?

「サラリーマンでした ただ主人が小児麻痺にになってしまって よくなって歩けるけど走ることが出来なくなってしまったんです 医者になって子どもたちを治したいと思ったそうです」

「素晴らしい話ですね」

「先生のお父さまはやはり?」

「はい 高校に入った途端言われたけど嫌で嫌で でも母親に泣かれてね」

「お優しい」

「印度はカーストでね」

「カースト!?」

「意味は生まれです」

「あぁ 聞いたことあります 主人も印度にいたらお医者さんになれなかったんですよね」

「船に乗っていろんな国に来たのに意外と見物してなくて特に印度にはどうしても会いたい人がいて」

「初恋のインド人?」

「会ったことない人です」

「えぇ!?」

「昔のひとですよ」

 それっきり医師は遠くを見ていて何も言わなくなってしまった。これデートかな? 首をかしげる裕子だった。

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28  印度は寂しくないところ

2024-12-07 17:20:55 | 世界一周ひとり旅
大きなバスから男性が降りてきたらドアが閉まって走り出した。もしかしたらあのバス!? と思って裕子はバスを追い掛け始めた。
「片山さん どうしましたか?」
 とバスから降りた男性が言った。はたと立ち止まった裕子。
「あっ先生!!」
21 浅野内匠頭 に登場した医師だった。 「片山さん バスに忘れ物でも?」
「あぁ そうじゃないんです でも私の名前をおぼえていてくれるなんて」
「カルテに名前のある方のことは毎日考えますよ 今日もお健やかかと それが医師の務めです」
 ガタガタと裕子の身体が崩れ落ちて座り込んだ。 
「大丈夫ですか?」
「先生 見て下さい ホテルの入口に二人の女性がこちらを見ているでしょう?」
「えぇ」
「私 あの二人と一緒にいるのが嫌になってしまって」
「それはよくあることです」
「えっ」
「私がお断りしてきますよ」  
「先生にそんなことさせるなんて」とってと
「私も船のスタッフの一人ですから 私のあとをゆっくり歩いて来て下さい」
 とさっさと歩いて行く医師。裕子は立ち上がりホテルの入口を振り向くと医師の背中が見えた。この先生こんなに背が高かったかな? 何だかとっても魅力的に見えて来た。
 ホテルの入口に戻ったらもうツッコミとボケはいなかった。
「片山さんはお疲れなので少し休ませますと言っておきました」
「ありがとうございます わたくしも助かりました」
「ホテルのお買い物に行かないようでしたら お付き合いいただけませんか?」
「えっ」
「他のスタッフに連絡しておきますから ホテルのタクシーなら安心です」
「どこに行くんですか?」
 医師は何も言わない。裕子は心の中でわたくしをデートに誘うおつもり? と聞いた途端医師が言った。
「まるでデートですね 片山裕子さん よろしいですか」 

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27 続印度は寂しいところ

2024-12-07 17:16:35 | 世界一周ひとり旅

バスがホテルの地下駐車場にぐるっと回って行った。止まると船のグループたちかゾロゾロと一緒に出て行く。裕子と聡美はよくバスの前の方の席に座っていたが一人っきりの裕子はバスから離れなければいけないのになかなか出ていけないでグズグズしていた。バスの通路を通っていった女性の一人が裕子を振り向いた。
「あら 裕子さん? よね」
「えぇ」
 裕子は心の中でしまったと思っていた。自分の名前を知っている人の名前がわからない。どうしよう?
「一緒の方は裕子さんのお嫁さんと同じ名前で嫁はイマイチだけどあの方はとてもいい方って」
「私そんなこと前に言ってました?」
 かなり自分が恥ずかしくなる。
「後ろの方たちも待っているから急ぎましょ。裕子さんも私たちと一緒にホテルでお買い物しません?」
 裕子のお尻がぐぐっと軽くなった。彼女ともう一人の彼女に付いてやっとバスを降りた。だが3人で歩いているとやはり二人連れにはみ出した人が一人。そんな感じ。そして二人で歩いているとたいていおしゃべりとそうでもない人。漫才のツッコミとボケみたい。駐車場のガラスの向こうがホテルの地下2階。向こうにある大きな花瓶にあふれるほどの真っ赤なバラが挿してあるのが見えた。ガラスのドアが開いた途端ツッコミが振り向いて言った。
「彼女の噂話知ってる?」
 裕子はよく話を聞かず彼女の向こうのバラに見惚れていた。
「キレイ!! 印度でもやっぱりバラですね」
「悪いわね 私はキレイじゃなくて」
「えっ そんなこと」
「裕子さんと仲いい方」
「聡美さんのこと? ご主人は貿易会社の社長さんで時々港で会うそうですよ。ポンペイでデート。いいわね 夢みたい」
「夢じゃなくて嘘でしょう?」
 ボケが横でクスクス笑った。ボケはあくまで無口だ。
「聡美さんが嘘つきなんて」 
「信じていらっしゃるならそれでよろしいですけど」
 ツッコミはそう言ってボケとスタスタと歩いて行った。こんな人たちと一緒にいたくないと裕子は思った。二人の後ろ姿に
「ごめんなさい バスに忘れ物しちゃいました 後で行きますから」
 と走り出した。
 戻っていく裕子に
「ここで待ってますよ」
 ボケはやさしいがうっとうしい生き物だ。
 裕子はバスに戻ろうとしたけど見つからない。忘れ物なんてないけどどうしよう!? 聡美の悪口をいうあの二人とじゃ嫌だけど一人では何も出来ない裕子だった。さてどうすることやら

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26 印度は寂しいところ

2024-12-02 14:28:58 | 世界一周ひとり旅



3/2に横浜を出て22日の朝8時頃にボンベイ港に着く。印度といえば広い国、男の人は頭にターバンを巻き白いタプタプの衣服をまとい、裸足で砂の上を歩いている風景を裕子は想像していた。そろそろお出かけしようかと裕子は化粧品をパタパタとつけていた頃船の船長のアナウンスが聞こえた。

「ボンベイの港が見えて来ました。埋立地に高層ビルが林立しているのがポンペイの港です」

 裕子は急いで窓に近づき目の前の風景にカルチャーショックを受けていた。

 支度を済ませた裕子はたまたま階段の途中で聡美に会った。今日も一緒にいられる聡美が裕子は大好きだった。

「聡美さん、印度のこと、色々教えて!!」

「ポンペイは印度の西の玄関口で経済活動で政治の首都はニューデリーよ」

 船に初めに乗った裕子と違って聡美は何でもよく知っている。

「印度は都会なのね〜失礼しました」

 聡美は何故か早足になっていた。慌てて裕子も早足になる。

「でも公園では女性が裸の赤ちゃんを抱いて物乞いをしているのに仰天した人がいるそうよ」

「え〜」

「だけどよく聞いてみると赤ちゃんは1日いくらで借りるらしいの」

「すごい話で日本では考えられ」

 裕子の会話の途中で少し先を歩いていた聡美が少し大きな声を上げた。

「あー、ごめんなさい」

 と立ち止まり振り向いた。

「聡美さん、どうしたの?」

「今日は久しぶりに主人に会うの」

「あっ」

「ごめんなさい、急いでるから」

 小走りで去って行く聡美。がくんと元気がなくなってしまった裕子だった。
印度は寂しいところ






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