グラナダの観光客が集まるバルやレストラン街の電信柱や壁には、フラメンコショーのちらしや看板が所狭しと並んでいる。
グラナダに着いた翌日、長くグラナダに在住する日本人男性が開設している情報センターへ行ってみた。フラメンコギターの製作や販売も行っているという彼は、ギターをとって数節演奏した後、手馴れた様子でてきぱきと情報を提供してくれた。フラメンコを見る場所について訊くと、「お勧めのショーはここ。質も内容もいい」とサクロモンテにあるタブラオ(フラメンコショーの店)のカラーパンフレットを広げた。1ドリンク付1時間のショーで25euro(4000円弱)。バックパッカー旅行者にとっては、ちょっと贅沢なショーだ。
滞在先のホステルに戻ると、掲示板にフラメンコショーの紹介があることに気付いた。多くは25か30euroなのだが、8euroというタブラオもある。オーナーのマニュエル(Manuel)に訊いてみた。
「料金による違い?うーん、8euroも25euroも同じ、時間も内容も」と返事は素っ気無い。
だって、3倍も違うんだから、何か違うでしょ。
「あえて言えば、25euroはバスの送迎付きで観光客向き。出演者が複数出る場合もあるしね。それに、旅行業者も扱っている。でも、同じだよ」
何だかよくわらからないが、「同じ」なら安い方がいいに決まっている。
ショーの開始時間は、どこも22時か22時半だ。大きなタブラオでは、真夜中の0時過ぎからショーの2回目が始まるという。
バルセロナのサッカー開始時間で洗礼を受けたので、スペイン人の生活時間にはそろそろ慣れてもいい頃なのだが、えっと思うことはまだまだ多い。スペイン人にとって、22時は夕食が終了する時間、お遊びはそれから、ということなのだ。
バルで簡単に夕食を済ませ、8euroのタブラオに行ってみた。ホステルから歩いて15分程度。タブラオ(踊り場)が集中するサクロモンテ地区の入り口にそのタブラオのバーはあった。ワンドリンクを付けると12euro。悪くない。
入り口のカウンターでワインのレモン割りを注文し、店内奥に入ると、薄暗く小さな洞窟の空間になった。狭い洞窟の正面に15センチほど高い木のステージが設えてある。その前に低いスツールと壁際に長いすが置かれ、全員入っても40人程度。薄暗い明かりの洞窟内で見るフラメンコを想像するだけで迫るものがある。
22時半を過ぎた頃には狭い会場の席に20人ほどの影が埋まり、やがて、ギターを手にした青年と黒い上着を着てお腹がたっぷり出た男性が、観客の間を通ってステージの上の椅子に座った。
深い感動を覚える1時間だった。
フラメンコが、これほど情緒豊かに喜怒哀楽を表現する民族芸能だとは知らなかった。歌に踊りにギターの調べに、切ないほど熱いメッセージが伝わってくる。
最初に登場した男性がギタリストに合わせて朗々と歌い始めた。確かにフラメンコのリズムだが、物悲しく響く。節の切れ目に、ギタリストが「オレィ」「アザァ」などの掛け声を静かに入れる。歌声に力が入り、男性は体を震わせたと思うと立ち上がって手の平を握り締めながら、洞窟中に大きく響く力強い声でトーンを伸ばし、そして、歌い終わった。感極まって出た涙を、手で拭る姿に打たれるものがあった。もちろん観客からは盛大な拍手。歌詞の内容を理解できないことがちょっと悔しい。
続いて、フラメンコ特有のフレアで飾られた衣装を着た女性ダンサーが観客の間から登壇した。ギタリストと歌手が席を横に除け、彼女の場所を作る。
男性の哀しげな歌に変わって、軽快なリズムがギターの弦からたたき出されると、彼女は座っていたスツールから立ち上がって、激しく足を踏み鳴らし、両腕を頭上でしなやかに交差させながら踊り始めた。歌とギターと踊りの3者が掛け合いながらひとつの世界を創り上げていく。目の前に繰り広げられる幻想的かつ情熱的な世界に観客たちは息の呑んで見入った。
長い一曲を踊り終わった彼女は、肩で息をするほど呼吸が荒かったが、笑顔で休憩に向かった。
「フラメンコショー」と呼ぶにはあまりに小規模で素朴だったが、受けた感動は規模には無関係だった。恐らく大きなショーを見たときの感動とは別の何か体の奥でわいていた。
別のタブラオを見たくなった。どのタブラオも出演者は毎日変わると言う。それだけグラナダには踊り子も歌い手もギタリストも大勢いるということだ。
カンテCanteと呼ばれる歌、バイBaileと呼ばれる舞踊、そしてトーケToqueと呼ばれるギター演奏。3者がそれぞれの個性を放ち、絡み合いながらつくる幻想的な空間に身を置く心地よさ。
東方からアンダルシアに流れ着き定住したジプシーたちの生活に根ざした歌や踊りから発生したいというフラメンコは、言葉の意味がわからない異邦人をも魅了する。
↑フラッシュを焚けば明るいが、背後の照明ひとつだけの暗く小さなステージは、洞窟に生活したジプシーをイメージさせる。
↑洞窟風に造られたタブラオ内部
↑翌々日に行った別のタブラオの入り口。こちらも小規模な洞窟スタイル。
↑こちらのタブラオの歌い手は若い女性だったが、ハスキーボイスの搾り出すような切ない声で哀歌を奏でた。彼女の声と歌があまりに印象的で、CDを買った。
グラナダに着いた翌日、長くグラナダに在住する日本人男性が開設している情報センターへ行ってみた。フラメンコギターの製作や販売も行っているという彼は、ギターをとって数節演奏した後、手馴れた様子でてきぱきと情報を提供してくれた。フラメンコを見る場所について訊くと、「お勧めのショーはここ。質も内容もいい」とサクロモンテにあるタブラオ(フラメンコショーの店)のカラーパンフレットを広げた。1ドリンク付1時間のショーで25euro(4000円弱)。バックパッカー旅行者にとっては、ちょっと贅沢なショーだ。
滞在先のホステルに戻ると、掲示板にフラメンコショーの紹介があることに気付いた。多くは25か30euroなのだが、8euroというタブラオもある。オーナーのマニュエル(Manuel)に訊いてみた。
「料金による違い?うーん、8euroも25euroも同じ、時間も内容も」と返事は素っ気無い。
だって、3倍も違うんだから、何か違うでしょ。
「あえて言えば、25euroはバスの送迎付きで観光客向き。出演者が複数出る場合もあるしね。それに、旅行業者も扱っている。でも、同じだよ」
何だかよくわらからないが、「同じ」なら安い方がいいに決まっている。
ショーの開始時間は、どこも22時か22時半だ。大きなタブラオでは、真夜中の0時過ぎからショーの2回目が始まるという。
バルセロナのサッカー開始時間で洗礼を受けたので、スペイン人の生活時間にはそろそろ慣れてもいい頃なのだが、えっと思うことはまだまだ多い。スペイン人にとって、22時は夕食が終了する時間、お遊びはそれから、ということなのだ。
バルで簡単に夕食を済ませ、8euroのタブラオに行ってみた。ホステルから歩いて15分程度。タブラオ(踊り場)が集中するサクロモンテ地区の入り口にそのタブラオのバーはあった。ワンドリンクを付けると12euro。悪くない。
入り口のカウンターでワインのレモン割りを注文し、店内奥に入ると、薄暗く小さな洞窟の空間になった。狭い洞窟の正面に15センチほど高い木のステージが設えてある。その前に低いスツールと壁際に長いすが置かれ、全員入っても40人程度。薄暗い明かりの洞窟内で見るフラメンコを想像するだけで迫るものがある。
22時半を過ぎた頃には狭い会場の席に20人ほどの影が埋まり、やがて、ギターを手にした青年と黒い上着を着てお腹がたっぷり出た男性が、観客の間を通ってステージの上の椅子に座った。
深い感動を覚える1時間だった。
フラメンコが、これほど情緒豊かに喜怒哀楽を表現する民族芸能だとは知らなかった。歌に踊りにギターの調べに、切ないほど熱いメッセージが伝わってくる。
最初に登場した男性がギタリストに合わせて朗々と歌い始めた。確かにフラメンコのリズムだが、物悲しく響く。節の切れ目に、ギタリストが「オレィ」「アザァ」などの掛け声を静かに入れる。歌声に力が入り、男性は体を震わせたと思うと立ち上がって手の平を握り締めながら、洞窟中に大きく響く力強い声でトーンを伸ばし、そして、歌い終わった。感極まって出た涙を、手で拭る姿に打たれるものがあった。もちろん観客からは盛大な拍手。歌詞の内容を理解できないことがちょっと悔しい。
続いて、フラメンコ特有のフレアで飾られた衣装を着た女性ダンサーが観客の間から登壇した。ギタリストと歌手が席を横に除け、彼女の場所を作る。
男性の哀しげな歌に変わって、軽快なリズムがギターの弦からたたき出されると、彼女は座っていたスツールから立ち上がって、激しく足を踏み鳴らし、両腕を頭上でしなやかに交差させながら踊り始めた。歌とギターと踊りの3者が掛け合いながらひとつの世界を創り上げていく。目の前に繰り広げられる幻想的かつ情熱的な世界に観客たちは息の呑んで見入った。
長い一曲を踊り終わった彼女は、肩で息をするほど呼吸が荒かったが、笑顔で休憩に向かった。
「フラメンコショー」と呼ぶにはあまりに小規模で素朴だったが、受けた感動は規模には無関係だった。恐らく大きなショーを見たときの感動とは別の何か体の奥でわいていた。
別のタブラオを見たくなった。どのタブラオも出演者は毎日変わると言う。それだけグラナダには踊り子も歌い手もギタリストも大勢いるということだ。
カンテCanteと呼ばれる歌、バイBaileと呼ばれる舞踊、そしてトーケToqueと呼ばれるギター演奏。3者がそれぞれの個性を放ち、絡み合いながらつくる幻想的な空間に身を置く心地よさ。
東方からアンダルシアに流れ着き定住したジプシーたちの生活に根ざした歌や踊りから発生したいというフラメンコは、言葉の意味がわからない異邦人をも魅了する。
↑フラッシュを焚けば明るいが、背後の照明ひとつだけの暗く小さなステージは、洞窟に生活したジプシーをイメージさせる。
↑洞窟風に造られたタブラオ内部
↑翌々日に行った別のタブラオの入り口。こちらも小規模な洞窟スタイル。
↑こちらのタブラオの歌い手は若い女性だったが、ハスキーボイスの搾り出すような切ない声で哀歌を奏でた。彼女の声と歌があまりに印象的で、CDを買った。
私は、二つ目に訪れた洞窟タブラオで聴いた女性のハスキーな歌が耳に残り、CDショップでCasa Limonというスペイン女性のアルバムを買いました。よろしければ下記で視聴できますので聞いてみてください。http://www.sternsmusic.com/disk_info/82876742912
このアルバム4曲目の「Amarte despacito」に良く似た旋律が洞窟の薄明かりの中で歌われました。ブログの最期の写真がそれです。ちなみに、フラメンコの曲調とは違いますが、アルバムの5曲目Dime pronto、7曲目Sientoも気に入りました。
これを聴いているうちに、スペイン語を学びたくなりました。