かおるこ 小説の部屋

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連載第62回 新編 辺境の物語 第三巻

2022-03-05 12:54:02 | 小説

 

 新編 辺境の物語 第三巻 カッセルとシュロス 11話

 第六章【ギロチン好きの王女様】①

 こうしてカッセル守備隊はバロンギア帝国のローズ騎士団と副団長のビビアン・ローラを打ち負かした。
 しかし、隊長のアリスには勝利の喜びなどはなかった。司令官のエルダを失ってしまったのだ。その復讐のため、エルダの命を奪った張本人ビビアン・ローラを処刑することにした。それも、この場で首を斬り死体を晒し者にするのだ。
 たちまち攻守逆転、今度はローズ騎士団の副団長ローラが首を刎ねられるのを待つ身となった。カッセル守備隊のベルネが死刑執行人となり、ローラの背後に回って首に剣を宛がった。
「その首が繋がっているのも、あと少しだけよ」
「はあ」
 逃げきれないと観念したのかビビアン・ローラは力なく俯いた。こうなっては騎士団にも月光軍団にも止める術がなくなった。
「アンナ、首を斬るのですか・・・もしかして、ギロチン?」
「そうです、ズバッと切り落としますよ。一秒もかかりません」
「切ったら血が出ませんか」
「もちろん。生きているんですから、ドビューと盛大に血が吹き出します。執行人は腕の立つベルネさん、剣は切れ味がいいとくれば、見事に頭と胴体がちょん切れます」
「ちょん切れる!」
「王女様、死刑はちょっとばかり怖いでしょう。お下がりになって、できれば後ろを向いてください。血が飛びますよ」
 ギロチン刑を間近で見せるのは王女様には刺激が強い。そのうえ、高価そうなドレスに血が飛んではいけないと死刑執行人のベルネが心配した。
 だが、
「いえ、見たいでーす」
 と、マリア・ミトラス王女様はにこやかに笑った。
「生処刑とあれば見逃せません。ギロチン、サイコー」
「首を切るんですよ、それでもいいんですか」
「でも、切った首は、また繋がるんでしょう」
「いえ、繋がりません。死ぬのですから」
「あら、アンナはこの間、人形の首が取れちゃったのを、針と糸で縫って直してくれたではありませんか」
「人形とはわけが違います。そもそも、あれは王女様が人形の首をハサミで切って、ギロチンごっこをしたから取れてしまったのではありませんか。私は王女様のイタズラの後始末をしただけです」
 ハサミで人形の首を切った・・・
 月光軍団のフィデスはカッセルで捕虜になっていたとき、アンナが人形の首を縫い付けていたのを思い出した。人形の首は取れてしまったのではなく、お嬢様がギロチンごっこをして切り落としたのだった。まさにギロチン好きの王女様だ。
 もしかしたら捕虜だった自分の首も・・・
 捕虜になっていたカッセルから無事に帰れて良かったとつくづく思った。

 そこへマギーとパテリアがツッコミを入れてきた。
「王女様はギロチンごっこをしているんですか」
「子供の頃から、ギロチンごっこが一番好きでした」
「悪い子、じゃなかった・・・活発だったのですね」
「じゃあ、二番目は何ですか」
「いい質問ですね。教えてあげましょう。二番目は牢屋ごっこです。家来を閉じ込めて棒で突いてイジメてました」
「ますます酷いじゃないですか、家来の人は嫌がってたでしょう」
「いえ、そんなことはありません、みんな泣いて喜んでました。感謝されたのですよ。いいことをしたのです」
「それは、王女様の個人的な感想です。相手の身になったら気の毒に決まってます」
「ふむ、そうだったのか。どうりで、みんなすぐにやめたと思った」
「そりゃあ、逃げたくもなるわ」
「ギロチン、牢屋とくれば・・・次は奴隷ごっこもしてたんじゃないの」
「残念。奴隷はごっこ遊びじゃないもん、本物の奴隷がいるんだから」
「ヤバイよ、マジの奴隷だと」
「子供の時から王女様だとかナントカ甘やかされ、我儘に育ったんだ」
「そうです、パテリアちゃんは人を見る目があるんですね」
「そこは感心してるところじゃない」

「いいですか、王女様。安泰の世の中に見えていても、公国の庶民の間には不平不満が溜まっているかもしれません。王政に反対して民衆が立ち上がったらどうするんですか」
 調子に乗ってふざけ過ぎの王女様をお付きのアンナが厳しく諭した。
「お菓子ばっかり食べて、遊び呆けている王女様などは、真っ先に断頭台に懸けられるでしょうね。国民が望んでいる如く、処刑台の王女様になる日が来ないとも限りません」
「ギクリ」
 いずれ「処刑台の王女様」になるだろうと言われてしまった。
「ご自分の時にジタバタしないように、この処刑をよーく見学してください。それでなくても、王女様はこの辺境に追放になって・・・」
「はいはい、分かってます」
 マリア・ミトラス王女様が慌ててアンナの言葉を遮る。
「明日は我が身ということですか」

「すみません、王女様」
 痺れを切らしてアリスが言った。
「王女様、お忙しいこととは存じますが、そろそろ死刑を執行してもよろしいでしょうか。ローラも焦らされているのは心臓に悪いはずです。早く首を斬って安心させてやりましょう」
「やっと処刑できるわ。ギロチン好きの王女様の目の前に首が転がるように斬りますので、よろしければ生首を拾ってください。そこですよ、そこ」
 ベルネが王女様の足元を指差した。
「さあ、1、2の3で行きます。バシッ、ドビュー、ゴロンですからね」
「あわわ」
 生首が転がると脅されてマリア王女様がアンナの背中に隠れた。
「それでは、ローズ騎士団副団長を処刑する」
 カッセル守備隊隊長アリスが処刑を宣言した。
「罪状は、カッセル守備隊司令官のエルダさんの命を奪ったこと。ルーラント公国第七王女様に剣を向けたことである」

 ところが、ここで思わぬところから死刑を止める声が掛かった。
 制止したのは月光軍団の副隊長フィデス・ステンマルクであった。フィデスは部下のナンリ、州都のスミレ・アルタクインに何やら囁くと王女様の前に跪いた。
「お待ちください。ローズ騎士団副団長の首を斬るのは、思い止まっていただけないでしょうか」
 フィデスは守備隊のアリスに向けて言い、さらに、月光軍団とローズ騎士団にも聞こえるように大きく声を張り上げた。
「私だけでなく、ナンリも州都のスミレさんまでもがローラには酷い仕打ちを受けました。ですが、王宮の親衛隊ともあろう者が、戦場で首を刎ねられたとあっては名誉に関わります」
 フィデスが切々と話している間に月光軍団のナンリがアリスに近づいて囁く。
「あたしたちがローラを殺す」

 フィデスが続けた。
「こちらの東部州都軍務部のスミレさんに身柄を預け、州都の軍事法廷で公正な裁判に掛けてもらうことにします。ローラの処刑はおやめください。いくらギロチン好きとはいえ、ルーラント公国の第七王女様がご臨席いただいている場で、死刑を執行したならば王女様にも累が及びかねません。それこそ両国の全面戦争に発展するでしょう。王女様を巻き込むことがないようにしてください」
 かくして、ローズ騎士団副団長ローラのギロチン刑は直前で取りやめとなった。

<作者より>

本日もお読みくださり、ありがとうございます。

あと二回で完結する予定です。



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