台風一家

プジョーの自転車

子供達が連れ出されたので、突然自分の時間が出来た。
とりあえず仕事をこなした後、独身の頃に購入し、大事にしていたプジョーの自転車に乗ろうと庭に出る。
一人でいる時間が無く、かなり前に乗ったきり放置されていたため、前輪がパンクしていた。
空気を入れても「ぷしゅー…」と音を立てて空気が抜けているのがはっきりわかる。
せっかく貴重な自分の時間なので、蒸し暑さを吹き飛ばすつもりでプジョーに乗りたかったのだが、パンク修理のため、数キロ離れた大きな自転車屋に行くことにした。

リムが痛んではいけないので、空気をしっかり入れ直し気合い充分で出発。
かなり暑い日で、湿気も高く、すぐにだらだら汗をかき始めた。
最寄りの自転車屋までは1キロほどだったと思うが、本当に小さな自転車屋におじさんが一人、である。
色々聞きたいこともあり、大きな自転車屋が良いだろうと思い大きな自転車屋まで行くことにしたのだが、実際に炎天下の中を歩いてみると苦行であった。

まず近所の坂道や下り坂のアップダウンに早くもばて始めた。
登りはプジョーが重く、乗れば爽快なはずの下りは歯がゆいばかりで、本来の目的も忘れて自転車が邪魔に思えたくらいだ。
暫くすると車やバイクがバンバン通る広い道に出て、狭い歩道を大きめのプジョーを押しながら進む。
おばさんたちのママチャリに抜かれ、子供に「何で乗らないの?」とでも言いたげに眺められながら、ひたすらプジョーを押して歩き続けた。

数キロ歩いた頃、本当に嫌になってしまった。
服はバケツの水でもかぶったように汗でびしょぬれだし、すでにお昼の時間である。
何だか足も「かかかっ、かかかかっ…」と笑いつつあった。
いつも車で通りすぎるあの自転車屋はこんなにも遠かったか…
肩で息を繰り返しながら前方を見ると、小さな自転車屋が。
「こうなったら、修理費だけでも聞いてみるか…」とクタクタで扉を開けるとおばちゃんが出てきた。
修理費がいくらか聞くと千円もするという。
しかも「1時間かかります」。
えー!?と思い理由を尋ねると「お父さんにご飯食べさせなあかんからねぇ」と。
冗談じゃない、とその自転車屋を後にし、もう浮気はしない、と決意も新たに歩き出した。

幾つもの信号とパチンコ屋をすぎ、その自転車屋に着いたときは、大袈裟なようだが感無量であった。
対応してくれたのは男性と見間違えるボーイッシュな女性で、手をグリスで真っ黒にしながら丁寧に修理をしてくれ、きしむ部分にしっかり油をさしてくれた。
聞きたかったのは、プジョーに子供椅子を付けられるかと言うことだった。
いっくんを乗せることが出来れば、放置していてパンクするのは防げるとおもったのだが、「趣味性の高いモデルですからね~、無理ですね~」とのことだった。
子供が出来るとは思っていない頃に購入した品である。
しかも、自分の時間を作ってただ自転車に乗るだけのことがこんなに大変とは思っていなかった。
思い出の自転車であり手放しがたいが、このまま放置してしまっては、またパンクと苦行の繰り返しである。
店員さんに相談し、タイヤを保護するためのスタンドを購入して、帰り道は気分も爽快なライディングとなった。

出発前、後で喫茶店にでも行こうと思っていたが、膝は笑うし汗は凄いし、とにかく疲れていたのでローソンで冷たくて甘いコーヒーとブルーベリーのクレープを購入して帰宅した。
結局疲れすぎて昼ご飯も食べらなかったが、それだけ頬張ってまたプジョーで出かけた。

「一人は楽しいなぁ」なんていいながら、子供達が帰宅して笑顔を見ると肩の力が抜けたようだった。
やはりプジョーを楽しみつつも、心のどこかでずっと子供達の心配をしている。
何も考えずにプジョーを乗り回せるようになるのはもう少し先のようだ。
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