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台風一家

ガーデンリフォーム

友人が引っ越しをすることになった。
場所は我が家からほど近い70坪の豪邸だ。
と言っても取り壊して新築にすると言うのだからずいぶんバブリーな話で羨ましい限りである。
その彼女が植物好きの私に「取り壊しで捨ててしまう木があるんだけど、取りに来る?」と声をかけてくれた。
即オッケーであったが、取り壊しがすぐ始まると言うことで、女4人でその豪邸に向かうこととなった。
建物はかなり古びていたが、作りがかなりモダンで、庭には洋風の池や様々な四季折々の植物や藤棚などがもうけられ、以前の家主の愛着が手に取るように感じられた。
相続の関係で手放されてからは全くメンテナンスをされた気配はなかったが、それでもかなり手とお金をかけた立派な庭であることは素人の私にも良く分かった。

門扉を開けて中に入ると、すぐ左手に見慣れた梅の葉がしげっていた。
下には梅の実が大量に散らばっており、そばにはもう一本小さな梅の木が植えられていることから梅の実を楽しむために家主が植えた物かもしれない。
散らばった梅の実は、手入れが滞っていたであろうにもかかわらず、かなりの大きさと量である。
すぐに一目惚れして、もらい受けることにした。
幹の一番太い部分は私のふくらはぎほどもあり、夏に向けて伸び始めた枝は3メートルはありそうだ。
普段こうゆうことをしなれない女4人での作業は困難を極めた。
伸びすぎた枝や根を切りながら掘り進み、やっと我が家に移動したときはあたりが暗かった。
私の趣味のためだけに惜しみない労力を提供してくれたYUちゃんママ、AKちゃんママ、ITちゃんママには感謝感激である。

さて、惚れ込んだ梅の木を持って帰ったは良いが、どこに植えるべきか…。
と、ここでいつも、何故か偶然、とっても頼りになる私の両親が、である。
1週間ほど前から紀伊半島あたりをPキャンプで旅していて、伊勢に行ったり、松阪牛などを食べ歩き定年で自由な毎日を過ごしていたが、その帰りに我が家に寄ると言う。
渡りに船とはこのことである。
三日ほど梅の木を水揚げのため樽に入れて置いたが、日曜日、1キロの肉やお土産を持って我が家を訪れた父に、池の部分に梅の木を植えて貰うようにお願いしたのだ。

梅の木一本植えるだけ、初めは軽い気持ちだったのだ。
ところがこのお願いが壮大なリフォームへと発展を遂げるとは、このとき誰も思わなかっただろう。
「どうも良くない」
空手5段、岩をも動かす勢いを持つ、完璧主義の父は、問題を見つけ始めると自分を止められない。
「池はジャマ」との結論から、コンクリートで固められた池の石を壊し、自分の体重よりも重い岩を伴侶とともに撤去。
「家が暗くなる」との理由で隣家との堺にずらりと並んで植えられた大きなマキノキや椿を根ごと抜き去り、丸鋸であっという間にばらばらにしてしまった。
残された千両や花々は、花壇のように残されたマキノキがあった区画に配置された。

出来上がってみれば、別人ならぬ別庭である。
マキノキのせいで暗く、池のでっぱりで子供がつまずいていた小さな庭が一気に広く、明るくなり、なんと6人で松阪牛を囲んで焼き肉パーティーを出来るほどに。
みんなで食べた松阪牛は甘く、柔らかく、子供たちはご飯を忘れるほど大量に食べた。
幸せを噛みしめながら、たっぷりと味わい、堪能した。
これなら夏にプールをさせるときにも広々と安心して遊ばせてやれる。
手の小指を怪我し、足に無数の傷を作り、汗をバケツいっぱいほど流しながら必死に作業してくれた父の体力と愛情には、言葉がないほど有り難く思う。
翌日には実家に帰ると言うことなので、突然の労働をさせてしまい、長い帰路に影響しては、と大変心配した。

翌朝、子供たちを幼稚園に送ろうかと言う頃、父と二人で庭を眺めながら、またもや私は些細なお願いをしてしまった。
「椿がある場所と千両が逆だったらな~…」
それを聞いた父は、「わしもそう思った!」とさっそく作業に乗り出した。
「ごめんね~」と思いつつ、幼稚園のバスが来るため、子供たちとバス停に向かい、帰宅して驚いた。
何と父は「千両」と「キンモクセイ」を勘違いして思いこみ、2メートルはあるであろう大木のキンモクセイを一人で抜いていたのだ。
すでに移植先の椿もすっかり抜かれて、地面には大きな穴が出来上がっている。
すぐ近くのバス停に子供たちを送りにいった数分間に、なのだから超人的だ。
朝日を邪魔するキンモクセイを移植したいとは思っていたが、まさか抜くことが出来るとは夢にも思わなかったのだ。
私が「千両って言ったんだけど…」と言うと「ほーか、まぁ、この方がええ」と意に介さない様子で、キンモクセイの足下に前日崩された重い岩を運んでリメイクしてくれた。
棚からぼた餅というか、痒いところに手が届く父である。

そしてこの後、完璧主義の父は椿を盆栽風に剪定し、大きな鉢に植え付け、その時こぼれた黒土で「地面が汚れた」とコーナンに行き、まさ土を二袋購入して運び、敷き詰めた。
「子供たちを幼稚園に見送ってから帰る」と言っていたのだが、結局お昼ご飯も3人で食べ、何度も庭を眺め、更に庭仕事をして「もうお迎えのバス30分前」になってから漸く両親は実家に向けて出発した。
デリカに乗り込んだ二人に「あれ?もう帰るの!?晩御飯食べて帰らない!?」とふざけて驚いてみせるとちょっとだけ寂しそうに、けど、おかしそうに笑った。
両親が帰ってしまって、庭を改めて眺め、石に座ると、どしりとした岩の重みが伝わるようだ。
言葉にならない感謝の気持ちを感じつつ、今も、父の怪我をした指が化膿していないか、遠くからとても心配するのだった。
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