録画人間の末路 -

人は記録をしながらじゃないと生きていけない

幻のゴジラ対戦候補 「ガンヘッド」

2022-06-28 11:52:42 | 特撮・モンスター映画
映画の円盤を買っていると嫌でも実感できるのですが、理由はよく分からないのですが国産映画・邦画の国内販売用円盤は高額です。特にBDなら再生環境はそれほど問題ないので急がずかつ大きなこだわりがないのなら海外販売版を輸入して購入したほうが安いくらいです。海外だとむしろ安いソフトなんですよねぇ、邦画って。
ただ、それを自覚してか国内販売の、特にBDはこだわりを持った特典映像が満載で収録されているものが多くあります(あるいはそれが販売価格を一段上に上げる理由の一つなのかも知れませんが)。最近は簡単に見るのなら配信で済ませる人も多いでしょうから、だからこそ販売BDはコレクター向けのアイテムとしての付加価値を目指すのでしょう。そしてその特典映像こそ主役と言っていいほどになっているのが今回取り上げる映画BD、「ガンヘッド」です。
この「ガンヘッド」、公開当時かなり酷評されていたんですよ。「よく分からない」とか「邦画なのに洋画かぶれしてる」とかなんとか。当時はお金もないし、それほど映画を見ていなかったこともあって、当時見るのをパスしちゃったんですよね。結果現在に至るまで一度も劇場で見たことがなく、テレビ放送で見たのがかなりたってから、ということもあってどうしても公開当時の酷評の声が長年の下地として強く残り、わたしは本作を十分楽しめない体になってしまっています。同じ酷評対象でも84年度版「ゴジラ」は公開当時に見に行っているのでその思い出が下地となって後で見返した時にちゃんと面白く見ることが出来たので、本当に自分で見ることって大事なんだなと・・・。なので「ガンヘッド」と「さよならジュピター」(こいつも当時酷評で見に行かなかった)の二本に関しては見なかったことを後悔しています。しかし1980年代ころの邦画特撮って何やっても叩かれてたんだなぁ。当時の邦画なら「叩くのがマニアの証」くらいに思っていた人も多かったのかも知れません。

「ガンヘッド」に話を戻しましょう。実は同作の映画ソフトを購入したのは今回が初めてです。今回は川北紘一監督によって作られた後年のプラスチックモデル宣伝用映像「ガンヘッド2025」が特典映像として収録されていていることもあって購入を決意。この映画、東宝単独ではなくアニメ制作のサンライズと提携しており、他に出版社の角川書店(現:KADOKAWA)、さらにバンダイやIMAGICAらが共同で製作したということもあって東宝特撮のDVDマガジンのような企画には収録されない(ディアゴスティーニでも特別販売という形式だった。しかも高かったので買わなかった)作品なのでまともに見るのは本当に久しぶりです。とはいえ、特に思い入れもないので当初はブログに書いたりするつもりはありませんでした。が、パッケージを見るやいなや「これは何か書きたい」という思いが沸々と湧いてくるではありませんか。何かすごいって。先に書いたわたしが初めて本作を見たテレビ放送版、あれがわざわざ単独ディスクで収録されているんですよ。
「ガンヘッド」酷評の理由の一つに俳優が日本語と英語で会話しているのに、まるで本人同士の間だけ翻訳機でも存在しているかのような話し方をしている点があります。外国人は英語で話しているのに日本人はそれに日本語で応える。それを当たり前として映画は進行していくのですが、その都度字幕部分に視点が動くので見づらいし会話に集中しづらいのは紛れもない事実。それを解消するため、テレビ放送の際には英語部分は登場人物はもちろんナレーターや登場メカの"ガンヘッド"(こいつも劇場版では英語で会話していた)のセリフが声優による日本語に差し替えられました。それだけではなく、劇場版では日本語でしゃべっていた日本人俳優の声も全部新たに収録しなおしているのです。ただ一人少年役の原田遊人氏(監督の原田眞人氏のお子さんだそうです)は推測するに変声して当時の声が出せないからか声優の坂本千夏氏が代役していますが、あとはオリジナルと同じです。邦画なのにわざわざ音声再収録!というこの無駄に豪華な感じがたまりません。オリジナルの俳優さんたちも前回の反省あってかあるいは共演している声優に引っ張られる感じか、特に主役の髙嶋政宏氏の声が断然聞き取りやすくなっており、さらに若干セリフも変更されていていることもあってストーリーがオリジナル版と比べても分かりやすくなっていました。
しかもこのテレビ放送版のBD、映像部分も劇場版をただ切貼してつないだだけではありません。冒頭の回想シーンなどは記録映像を意識したのか、一部アナログ的なノイズ・・・というより傷が残っており、古い感じを醸し出しています。なによりテレビ感再現のため、映像全体がわざわざインターレースの29.97fps収録です! もちろん劇場版はBDですからプログレッシブ23.976fps収録されているのに、です。こういう無意味一歩手前くらいのマニアックなこだわりが古めの邦画のBDを買う醍醐味だよなぁ。だから価格が少しくらい高くても見逃してしまうのですよ、わたしは。
画質は最近はやりのキチキチしたものではなく黒味のややフワフワした感じ。最近はデジタル映像を見慣れた人が多いこともあってキチキチした画質を高画質と評する傾向にありますが、少なくとも今回のリマスターを行った人はフィルムの質感の再現を狙って作ったように感じます。わたしもその方が好きです。

「ガンヘッド」は当時、なぜか特撮ではなくSFXと語り、「映画史上初のSFXロボット・アクションムービー!!」と予告編で謡っていました。製作メンバーも"超"の字を入れてもいいほど豪華で、エンディングのスタッフロールでもキャストより各パートの担当スタッフ名の方が先に出てくるくらい自慢したくなる製作陣だったこともあって、相当売り込みに力を入れた作品だったと思われます。偶然か歴史の必然か、アメリカがほぼ同時期に「ロボ・ジョックス」という巨大ロボットものを、しかもサンライズ製作のアニメ「チョロQダグラム」をパクったとしか思えない(わたしだけ?)点が随所に見られたものだったので、ちょっとライバル心もあったかも知れません。
特撮は当時の総力を結集しただけあって素晴らしいの一言。宣伝と半分セットを兼ねて作られた実物大ガンヘッドと遜色も違和感もほとんど感じないミニチュアガンヘッドは想定サイズが大きくないこともあってセットを大きく作って使うことが出来、かえって巨大感が増しています。何より変形シーンの凄さ。これを眺めているだけでも円盤を買った価値を感じるくらいです。ただ、ラストバトルがやっぱりわかりづらいのです。せっかく人型に近づくスタンディングモードで決戦に挑み、かつそこまででガンヘッドは武器をあらかた使い切っているので無茶を覚悟で接近戦を挑むしかないという絵作りにしかたったはずなのですが、敵のエアロボットがよく動くのにガンヘッドはアームも大して動かないというちょっとカタルシスに欠ける展開になってしまっていました。正直あのままなら安定感の高そうな戦車モードの方がまだ強そうです。それでも、ウェザリングもきっちりなされていて無骨な感触は如何にも兵器らしく、CGがまだ使い物にならなかった(本作も一応使ってはいるがワイヤーフレームのイメージくらい)時代ならではの映像の魅力が詰まっています。先入観なしで見たかった作品ですね。
「ガンヘッド」のスタッフロールの中に「協力」としてハドソンの名があります。現在はKONAMIに吸収されてブランドとしてもなくなってしまいましたか、「ボンバーマン」や「桃太郎電鉄」などをシリーズ化させていたゲームメーカーのハドソンのことです。作品内でどう協力したのかはわかりませんが、当時ハドソンは「ガンヘッド」の名を冠したタイアップゲームを作り、かつ当時行っていた全国キャラバン大会というゲーム大会の公式ゲームとして採用されました。「ガンヘッド」の名を使うなら戦車のゲームなどがあっている気がしますが実際の中身は戦闘機を使った縦スクロールのシューティングものであまり映画とあっていない気がします。このゲーム、完全ではありませんが「PCエンジンミニ」に収録されています。ただPCエンジンミニは版権ものを避ける方針にあった感じなので「ガンヘッド」もそのタイトルでは収録されていませんが、海外モードを利用して「BLAZING LAZERS」のタイトルで収録され、隠しモードでキャラバン大会用2分ないし5分タイム制限ありのモードも遊ぶことが出来る点がニヤリ。先日SEGAからメガドライブミニ2が発表され、すでに収録ゲームにいくつか版権ものが見えています。だったらPCエンジンも2を出して版権もの入れてくれないかなぁとPCエンジン派だったわたしは妄想中。

最後に当時の噂。「ガンヘッド」の後に特撮はほぼ同じスタッフがスライドして作られた「ゴジラVSビオランテ」公開当時、わたしが入っていた映画サークルの会報紙に「ゴジラの次回作の対戦相手はガンヘッドらしい」という記事がのっていました。もちろん素人が書いたいい加減なものなので別に責任を持って書いたわけでもなんでもありませんが、そういう噂があったのは確かでしょう。しかもその話、全く根拠がなかったわけではありません。実は84年度版ゴジラの前後に東宝社内企画でゴジラの次回作を募るものがあり、その中に当時東宝で製作をやっており、のちに作家として独立して「ゴジラVSキングギドラ」のノベライズ版などを書かれた田中文雄氏の企画に「ゴジラ対アスカ要塞」というものがあったのです。わたしは同氏のインタビュー記事くらいしか知らないので詳しい内容はわからないのですが、閉塞した要塞の中でストーリーのほとんどが進む点やコンピューターが暴走したあげく最終的に自我を持ち、巨大ロボットも登場させるなど「ガンヘッド」を連想させる内容。しかも検討用の脚本は付き合いからかあの関沢新一氏に書いてもらっています(同氏最後の脚本らしい)。一応田中文雄氏も脚本を書いたらしいのですが、これに関しては本気で語りたくなかったようです。まぁ採用はされなかったものの田中文雄・関沢新一両氏の企画ともなると東宝も軽く扱えず、何かしら「ガンヘッド」企画のたたき台になった・・・と考えても不思議ではありません。会報紙の記事を書いた人もなんらかの形でその企画を聞きつけて書いたのでしょう。
ゴジラとガンヘッドが直接戦うことはありませんでしたが、「ゴジラVSモスラ」公開時の次回作特報にてガンヘッドが形を変えて登場することになりました。当初の特報はゴジラしか映像には出ず「今度の敵は最強最大 ゴジラ5」のナレーションが当たるだけ、で一番最後に無理やり差し込む形で「ゴジラVSメカゴジラ」のタイトルが静止画で発表されたもので、わたしは劇場ではこっちしか見ていないのですが、途中から第2版の特報に差し替えられ、ゴジラとちょっと見えにくいカットが使われているものの「ガンヘッド」の戦闘シーンが流用され、「史上最強の超バトルマシーン登場 果たしてゴジラは勝てるのか? この戦いですべてが終わる」のナレーションと、手前にメーサー車などメカを並べた奥に映画用ポスターが貼ってあるものになっていたそうです。一応形は変わったもののゴジラとガンヘッドは戦ったことになります。しかも映画のポスターに描かれたメカゴジラの分離状態をイメージしたと思われる戦車はガンヘッドに似ており、ますます「ゴジラVSメカゴジラ」は「ゴジラ対ガンヘッド」の感を出しています。残念ながらメカゴジラの合体は別戦闘機ガルーダとのスーパー合体のみになってしまいました。が、「ガンヘッド」と同じ髙嶋政宏氏が主役となり、すぐ余計なことをして左遷されるものの実は優れたメカニックで自分が開発主任だったガルーダを勝手にいじってパワーアップさせたり、最終決戦でも一度は沈黙したガルーダをコクピット内の制御だけで再起動させて戦闘に復帰させるなどやはりメカニックだった「ガンヘッド」主人公を彷彿とさせる活躍をさせる点に「ゴジラ対ガンヘッド」のにおいくらいは感じさせてくれる作りになっていました。あの記事は未来を予測していたのです。

 
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4 コメント

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Unknown (siinamon)
2022-06-28 13:08:59
こらまた懐かしいネタを…世代ですwww
自分は当時特撮はファンではなく、TVものを適当に見ている勢でした。
ただアニメには傾倒しており、ガンヘッドはニュータイプ連載の麻宮騎亜版が好きで映画も見たのですが…全くの違いっぷりとメカの動かなさでしょんぼりした記憶があります。
ただ若かりし高嶋さんは見ておいてよかったなと今になって思います。

また当時はハードSFにも傾倒しており、小松左京や海外SF(というかほぼ早川SF文庫ファン)がすきで、さよならジュピターも原作ファンでした。なので映画版は…orz

とはいえ今になって思えばこれら作品の挑戦があってこそ今につながっていると思います。
ま、まあSFジャンルは今でも結局海外の足元にも;;
むしろ日本はそれを教訓としてアニメや特撮に活路を見出した感があります。ヘタに金を使わず、リアルさに拘らず、ジャンルとしての様式美というか。
というかどうやってもハリウッドレベルの特撮とCGの融合が図れないんですよね…最新の鋼錬なんかは前よりいいけど、Drストレンジの戦闘の方が理想に見えてしまう…
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Unknown (krmmk3)
2022-06-28 23:56:30
>siinamonさん
懐かしいネタではありますが、ガンヘッド大隊の攻撃は2025年なので間もない未来の話なのです。
映画はどうしても時間的制約が大きいのでコミカライズや小説版の再現が難しいのはありますが、どう要素を選択するか・・・で印象変わっちゃいますね。結局特撮映像の割合を増やす方に傾いてストーリーは二の次になりがちですから、原作ファンだとガッカリするのは仕方ないかな。
CGは、才能ある人がみんなアメリカに逃げちゃったからなぁ。特撮とアニメならまだ道が残っているのはアメリカに逃げ場のない分野であるから、と思ってます。
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Unknown (まじかるぱす)
2022-06-29 00:33:02
『さよならジュピター』は微妙なところですが、『ガンヘッド』は見ておくべき映画でしょう。ただ髙嶋政宏というと『ZIPANG』とか『ヤマトタケル』とか思い浮かんでくるので、そのへんの映画のイメージに引き摺られがちです。
 ただ難を言えば映画の冒頭と終わりがナレーションで、映像で見せないものを語ってるというのが減点なんですよね。シリーズ化されてその辺も作品化されてりゃ話は別なんですが、そうでないなら、映像で見せる部分だけにしてほしかった。舞台背景なんかは途中で登場人物が語るぐらいで良かったはず。
 ところで、ニンジンを齧りたくなりませんか?
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Unknown (krmmk3)
2022-06-29 21:08:07
>まじかるぱすさん
「ZIPANG」はもちろんですけど「ヤマトタケル」は自称はどうあれ中身はファンタジーなのでわたしはそれほど引っ張られないかな。そういえば「ヤマトタケル」も当初三部作を構想していたのにやらなかったってことは興行的に良くなかったってことですよね。あれで信用落としたのかなぁ。
冒頭のナレーションや字幕で説明が入るとたいていB級ですからね。ただ、「スター・ウォーズ」という成功例があったのがまずかったと思ってます。
あのニンジン、あれだけ油火薬まみれの戦場を潜り抜けたのにまだ食えるのか? 腹壊すんじゃ・・・が心配です(笑)
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