・怪獣重量表記の始まり
その1みたいなことを考えたり調べたりしていて、一つ思ったのは特撮界の基準であるゴジラの身長と重量、50m2万トンと言う数字はいったいいつ出てきたのか? という疑問だ。このうち身長50mは1954年の映画「ゴジラ」第一作の本編の中に登場するセリフなので事実上最初から決まっていた。厳密に言えば脚本段階ではまだ未定だったが特撮の見栄えを優先して50mになったらしい。一方体重2万トンという数字。これはどこにも出ていない。1956年製作怪獣もの三作目の「空の大怪獣ラドン」では100トンという数字が出ているゆえに万トン単位が当たり前になっていない。また、以前1968年映画「怪獣総進撃」の復刻漫画を読んだときに掲載された一覧表に各怪獣のデータが記載されていたのだが、登場怪獣11匹のうちアンギラスとバランだけ身長と重量の具体的な数字がなく、アンギラスは「ゴジラより大きいと言われる」、バランは「ゴジラと同じくらい」と文章記載があるのみだった。特にアンギラスに「怪獣総進撃」まで体重の公式データが存在しなかったことから、ゴジラものであっても体重はすぐに決まっていたものではなく、もっと後で使われるようになったことになる。
最初はこの切れ目を、明らかに怪獣の重量設定の仕方が違う1965年映画「フランケンシュタイン対地底怪獣」当たりだと考えていた。ここで資料として、またしても講談社の「ゴジラ全映画DVDコレクターズBOX 」付録をひっくり返してみた。すると、前年1964年「三大怪獣地球最大の決戦」のパンフレットで各怪獣に重量のデータがあり、ラドンの1万5千トンもこの時決まっていたことが判明した。バラゴンはあくまで例外であって基準以前の存在ではなかったのだ。「ゴジラの逆襲」より後、「三大怪獣地球最大の決戦」より前で怪獣に重量の数字がデータとして付け加えられるに足る理由がある作品は一つしかない。1962年映画「キングコング対ゴジラ」だ。
「キングコング対ゴジラ」はあらゆる意味で怪獣映画のターニングポイントとなった画期的な作品である。初の対決を前面に押し出した映画であり、これ以降の主流となる。ましてキングコングはアメリカからやってきた怪獣だ。対決ムードをあおるために宣伝として両怪獣のデータを併記した表を掲載、その際にプロレスラーやボクサーのように体重を一緒に載せる、これ以上の重量表記標準化の理由もあるまい。しかし「ゴジラ全映画DVDコレクターズBOX」も「キングコング対ゴジラ」オリジナル版のパンフレットがなかなか見つからず(さきほど再整理して発見しました。ちゃんとオリジナルパンフは復元されてます。この時は見つけてないということで)、困っていた。しかし、幸いなことに昭和37年、つまり1962年の少年サンデーに掲載された記事があった。これにははっきり「キングコング 体重20,500トン」「ゴジラ 体重20,000トン(象5,000頭、ライオン100,000頭分と同じ)」と記載がある。その一つ前に作られた1961年映画「モスラ」ではパンフレットその他に幼虫成虫の重量表記はなく、卵に50トンとあるのみである。また、東宝チャンピオン祭り版のパンフレットやプレスリリースにも同様の記載、同じ文面が使われているので、どちらもオリジナル版をコピーして使用している可能性が高い。キングコング説明文が「29才」「老巧」「スタミナ 年はとっているがまだまだおとろえていない」になってるとか(笑)。これはオリジナル「キング・コング」が1933年映画なことを踏まえてのものだろうけど、なにかヘン。またトン表記だけでは少年にはピンとこない可能性も踏まえてかキログラムが掲載されたものもあるが、ゴジラが「2万トン(2千万キログラム)」なのはいいとしてもキングコングが「2万5百トン(2千5百万キログラム)」と、変換が間違っているのは如何にも初期らしくてほほえましい。どちらにしてもキングコングの方が尻尾のあるゴジラよりも体重が上としているのは驚き。格闘技では体重のある方が強いとされることが多いので、強者感を出したかったのかも。
・2万トンの出どころ
かくして怪獣の重量「万トン」の始祖はキングコングとゴジラ、と断言していいだろう。最後の謎は、どこから2万トンという値が出てきたかと言うことだ。絶対に計算で出した値ではない。資料をひっくり返していた時に、ふと1964年映画「モスラ対ゴジラ」のポスターを飾るキャッチが目に入った。
マッハ3の巨蛾か! ミサイル重戦車のゴジラか!
怪獣を兵器に例えているのだ。マッハ3という言い回しも単に飛行機を差すというより戦闘機、おそらく当時の最新鋭戦闘機と同等かそれ以上の速度を記載しているのではないか、という感が強い。怪獣の強さを強い兵器に例えるというやり方が当時は使われていた。なら、怪獣の重量2万トンもひょっとしたら兵器から来てるんじゃないか・・・。と思った。他の重量から持ってくるよりあり得そうに思えたからだ。しかし、戦闘機だろうと重戦車だろうと万トンには遠く及ばない。それだけの重量を持ち、ゴジラの基準に使いたくなるような強力で大きくてかっこいい兵器はひとつ。戦艦だ。
映画は時代を反映する、というのはわたしが古い映画を見るときに必ず意識してみるテーマの一つ。まずは同年代の他の映画に、何か影響を受ける、あるいは同一のものから影響を受けたような要素がないか・・・。と簡単に見てみたが、それっぽいものがない。タイトルだけで判断してはいけないのかも知れないが、「奴隷戦艦」「戦艦バウンティ」「豚と軍艦」・・・。これもゴジラのようなイメージとは程遠いものしか連想できない。映画にヒントがないのなら実際の戦艦に大きな話はなかったか? と探ってみたらあった! 戦艦三笠の復元が1961年に行われているのだ。
三笠は日露戦争の日本海海戦の際に旗艦として参戦した戦艦で、第一次世界大戦後のワシントン海軍軍縮条約によって軍艦の保有数が制限された際に現役を退いている。しかし日本としては日露戦争勝利の立役者としてのイメージが強く、破棄されることなく記念艦として残されることになった。ただ、第二次世界大戦後ソ連から解体を要求され、大砲をはじめ艦橋など上部の設備の大半を撤去。遊興施設に改造されたうえに放置されてボロボロになったところを復元され、昔に近い姿に戻されたのが1961年。当時はそれなりに話題になっていたのではないだろうか。三笠の排水量(≒重量)が約1万5千トン。ゴジラは三笠よりすごい、ってことで2万トン・・・。あるいは単に戦艦から閃いて有名なドレッドノート級、所謂弩級戦艦の2万トンを連想したか・・・。単なる妄想だがあり得ない話ではない気がする、多分。もしかしたらキングコングの2万500トンというのもそのくらいのアメリカの戦艦があったからじゃなかろうか。これは全く手掛かりなしなのでこれ以上は無理。
ちなみに「戦艦」と聞いたら多くの人が三笠より先に連想するだろう大和の排水量は6万4千トン。数字を聞いただけでどれだけ無茶苦茶な存在だったのかよくわかる。
・モスラの卵の公正価格
ただし、その重量定義はあくまで宣伝広報止まりで製作の現場には別だったようだ。それを示すのが、1964年「モスラ対ゴジラ」にあるモスラの卵の価格に関する劇中のセリフだ。
「一体いくらで売ったんですか?」
「122万4560円」
「えらく半端だな」
「何言ってんだ君、公正価格だよ。鶏の卵卸しで一個8円。この卵はだいたい15万3820個分とにらんでだよ、それ掛ける8円だ」
「122万4560円」
「えらく半端だな」
「何言ってんだ君、公正価格だよ。鶏の卵卸しで一個8円。この卵はだいたい15万3820個分とにらんでだよ、それ掛ける8円だ」
だれもが思うのが「15万3820個の個数も充分半端だ、どこが"だいたい"だ」ということ。そこで止まらずに捻くれた考えを持つのがわたし。15万3820個がどこから来たか、計算で出してみよう。まずは鶏の卵の重さ。当時1個8円卸の卵が何グラムなのか全く分からないので、一般的に売られている卵、よくあるサイズのM玉L玉のほぼ中間で一番キリのいい重量である65グラムとしておこう。うちにあった卵を測ったら68グラムあったが、これはL玉だからしょうがない。で、153820×65グラムで答えは9998300グラム。ほぼ10トンである。したがって卵の買主は卵の重さをだいたい10トンととらえて個数を割り出していると思われる。そのセリフが省略されているわけで(脚本でも10トンという記載はないが)これなら"だいたい"であってもなんの不思議もない。より10トンに近づけるなら9999990グラムになる15万3846個にしたいところだが、掛ける8円で1224560という面白い数字の並びになるほうを優先したのだろう。ただ、153820x8円だと本当の答えは1230560円なので間違ってるんだけど、脚本通りなので勢いで書いたのか、それとも少しでもケチろうとしたのか。ちなみに122万4560円にするのなら153070個になり、ほぼ10トンになる153846×8円だと123万768円。これも面白い並びだとは思うけど。
さてこの10トン、先の2万トンとは全く違うから宣伝と制作現場では意思統一が図られていないことが分かる。それゆえに適当に出したものとは思わない。このままだとあまりに不自然だからだ。鶏の卵の長径が約6cm、うちの卵もそうだった。体積が15万3820倍になるとすると、およそ53.58の三乗になるので一辺の長さは6cm×53.58で321.48cm。たったの3m21.5cmで「ゴジラVSメカゴジラ」に出てきたゴジラザウルスの卵より少し大きいくらいしかない。あとで料金とって見物させるのならこのくらいの方がやりやすいと思うけど、映像は別。ゴジラとの比較だと3mどころか30mくらいある気がする。仮に一辺10倍とすると10x10x10の体積1000倍で卵1億5382万個分になる。だとすると公正価格は12億2456万円(あるいは12億3056万円)だ! こ、これは元値段が安すぎる。作中ではケチって卵一般公開が始まるまで金は支払わない契約だと突っぱねて支払いを拒否していた興行側だが(そのくせ領収書だけはしっかりとっていた)、むしろさっさと払ってしまって漁師が気が付いても後の祭り、にした方がよかったんじゃないか? もちろん重さは脅威の1万トン。同じ比重なら、の前提だけど鶏の卵って重いんだなぁ・・・。これと並ぶとゴジラの2万トンが非常に自然な重さに見えてくるから不思議だ。
・1/5計画
10トンをこうした詐欺に使おうとしたのが理由だったとしても、それはそれで面白いと思うが、劇中にそうした描写はない以上10トンには別の意味があったと思われる。ここで気が付いたのが1961年「モスラ」だ。先も書いた通りパンフレットでは卵の重さは50トン。「モスラ対ゴジラ」の卵は10トン。ここから導き出される答えは「「モスラ対ゴジラ」のモスラはゴジラに合わせて重量体積ベース1/5に縮めます」という宣言だ。
「モスラ」でのモスラは翼長250m、体長80mとされ、大きすぎてゴジラと絵になる対決が出来ない。なのでゴジラに合わせて縮める必要があったわけだが、その基準が1/5ということなのでそれを脚本に組み込んだ結果ではないだろうか。ちなみに1/5と言ってもミニチュアのスケールベースではなく重量体積ベースだから一辺は1/1.71にすればいいだけなので数字の上ではそれほど縮まない。成虫の翼長250mは146.2mに、体長80mは46.8mに、幼虫体長40m(ふ化直後の時点)は23.4mになる。劇中の映像を見ても、これに近い気がする。
・お願い
「全部妄想」「単なる偶然」「よくある話」「ただのこじつけ」等々様々な意見はあるだろうが、暇にかまけて無い知恵絞って考えたのだ。あざ笑うより苦労をねぎらってもらう方がありがたい。わたしは子供のころからの習慣で物事を考えるときに歩き回るクセがあり、歩かないと思考が働かない体質になっている。前回今回のネタを考えている期間中はスマートウォッチ計測で毎日一日5千歩くらい多く歩いていた。家の中をうろうろしているだけなのでたいした運動にはならないだろうけど、それでも座りっぱなしよりはいいだろう。わたしにとって思考は座りっぱなしを避ける一番の好物なのだ。
有名どころと比較すると
超合金Z製の鉄の城マジンガーZが全長18m、重量20t(イメージよりずっと軽い)
ガンダムRX-78-2が全長18m、重量43.4t(意外にもマジンガーZと身長が同じでZより重い)
我々の世代で最も身長と体重が有名なコンバトラーVが身長57m、体重550t(装甲のサーメットは実在の合金)
オリジナル版の宇宙戦艦ヤマトが全長265.8m、基準排水量62000t
ですから東宝・円谷系に比べればどれもスカスカなんですよね。
ウルトラマンは身長40m、体重35000t。かの名著(迷著か?)ウルトラマン研究序説では未知の金属で構成された金属生命体と推定されるがそもそもどうやって体重を計測したのか教えてほしいとのたまっていたと記憶しています。
それにしても見事な考察です。「東宝特撮研究序説」を執筆されてはいかがでしょうか(笑)
不思議なもので東宝系怪獣は一桁多い、円谷系はさらに三倍くらい多い、なのにロボット系は逆に一桁少ないという・・・。なぜか中間がないのが不思議。
ヤマトは大和に重量合わせたからでしょうね。少し軽いのが謎ですが。波動砲積んでいる分重くなりそうなものですが。
謎本ブームの時ならともかく公式データ無視したもの書くと東宝さんの許可は出ないでしょうね。それにこの手のネタの答えはある日突然降ってくるので何年も来ないことも珍しくなく、ネタのストック不足が補いきれません。
円谷系だとスカイドンというぶっ飛んだやつもいますね。ロボットものの場合は基本的には金属が素材ですし玩具という名のミニチュアがあるので現実的な重量が出やすいのかなと思います。ヤマトはオリジナル版では大和の改造ってことになっているので深く考えずに合わせたんでしょうね。波動エンジン等による重量増を未来の新素材でチャラにしてると考えるとまあありなのかな思います。
スカイドンは怪獣の重さ、という点にスポットを充てた、という点で画期的でした。おかげで怪獣の重量のインフレが止まりましたし。ロボットは当初は玩具の重さを基準に出している可能性ありますね。コン・バトラーVで確立しましたし(笑)。
ヤマトの重量に関しては深読みすると面白くなりそうなんですが、アニヲタでない身としてやめておきます。
でも人間水だから
「ウルトラマン研究序説」においてウルトラマンのデータ身長40m、体重35000tからその比重を約40g/cm3と割り出しています。鉄の比重は7.874g/cm3、金で19.32g/cm3、天然元素で最も重いオスミウムでも22.59g/cm3なので鉄どころか既知の天然元素ではどうやっても説明がつかないんです。
人間水、ってところが何を差しているのか分かりませんが、鉄じゃ間に合わないですし、少なくとも換算はしてないです。
>913dさん
ゴジラはウルトラマンより比重面ではマシですが、それでも金属相当にはなっちゃいますね。ただ、ウルトラの場合円谷プロが最初から用意していた設定なのか、ゼットンの一兆度のように後日書籍で決まった設定なのかで解釈は分けるべきなので判断は難しいです。