・かつての本
かつて「ゴジラは生まれた瞬間、即死する」という一文を謳って発売された本があった。その名は「空想科学読本」。もちろん買って、笑わせていただいた。ゴジラの体重2万トンは重すぎて耐えられず、つぶれて死ぬ、という考察が語られていたのだ。ただし体重として正しいサンプルとしてティラノサウルスを引き合いに出すというのはその時の知識としても間違っていると思った。「体形がほぼ同じ」と書いてあるのにゴジラとティラノサウルスじゃ体形が違いすぎて単純に比較できるものじゃないと思っていたからである。なので現在の版では差し替えられて即死はなく、水と比較してどうのこうの、という考察に改められている。キャッチコピーに使っている記事を差し替えてどうする!? 本の根本が違っちゃうじゃないか。
このやり方は間違っている、と指摘だけするのは簡単。わたしの場合思ったのは、「だったら自分でも何が正しいのか考えてみよう」だ。それで自分でゴジラの重量はどのくらいだったら正しいのか、考えてみよう。なお、細部をやたらと切り捨てたり四捨五入したりしているのは、わたしの性格がいい加減なので計算しやすくなるのを優先しているためである。
・計算で出すゴジラの重量
ゴジラに一番体形が近い存在は何か。そりゃ決まっている、映画の撮影に使うゴジラのスーツである。これに演技者が入ったものが一番作品中のゴジラに近い存在なはずだ。ではゴジラスーツの重量はどのくらいだったのか・・・と調べてみるがピンとこない。演技者の中島春雄氏が亡くなられた際に「100キロ以上のぬいぐるみに入った」と書かれているものが目立つが、これはちょっと違う気がする。第一作の一号スーツは150キロというとんでもない重さのものになってしまったために動けず、切断されて下半身や上半身のみが映るシーンで使われたはず。二号スーツは別なはずだ。80年代以降のVSシリーズでは撮影の際に重量感を出すため、意図的に重く80~100キロほどに作られていたようなので、この手のことを考えた当初はこれを基準に考えていた。が、欲しいのは1950~70年代の第一期やチャンピオン祭りで活躍した身長50mゴジラのデータなので、今回はさらに調べることにした。以前講談社から発行された「ゴジラ全映画DVDコレクターズBOX」という雑誌の付録に当時のパンフレットの復刻がある。ここを見てみると・・・なんと「ゴジラの逆襲」のパンフに第一作のゴジラのぬいぐるみの目方が書いてるではないか。これはほぼ公式の記録と考えて間違いない。その目方は・・・約十二貫。およそ45キログラム。あれ~? 思ってたよりかなり軽いぞ。いくら公式の書籍に書かれていたものとは言え、本当かな?
ただ、納得する理由もある。「ゴジラの逆襲」ではひっくり返されたアンギラス反撃のキックでゴジラが吹き飛ばされるシーンがある。ワイヤーアクションなどの補助なしで怪獣がキックをやるのは珍しいので印象深く覚えているのだが、その直後ゴジラは明らかに自力で立ち上がっている。これはスーツの重さが80キロもあったら無理だ。それ以前に片足キックくらいであんなに飛ばないし、倒されること自体演技者にとって危険である。実際90年代のメイキングによるとゴジラが倒れるシーンでは画面には映らないものの、必ず下にクッションが敷いてあるし、立ち上がるシーンでは複数のカットを連続で繋げてあたかも自分で起き上がっているかに見せかけているが、実際には倒れた後の起き上がりにもスタッフの補助が必要なほど90年代ゴジラのスーツは重い。そう考えると、明らかに自力で立ち上がっている箇所が多くの作品で見られる身長50mゴジラのスーツは90年代よりかなり軽い、と思っていいだろう。なので45キロを通すことにした。これに演技者が入るわけだが、同じく「ゴジラの逆襲」によると演技者の手塚勝巳氏は二十一貫の巨漢とある。資料によると主にゴジラのスーツに入ったのは中島氏の方だったらしいので、手塚氏というとゴジラは補助、「逆襲」でアンギラスの演技者のイメージが強いが、中島氏の体重は不明なので手塚氏の二十一貫、約79キロを演技者の量さにしよう。合わせて124キロ。これがゴジラ撮影時の重さである。
追記:「大怪獣バラン」のパンフレットでは中島氏の談で「ゴジラは50キロ」とありますので、50mゴジラスーツは45~50キロでいいと思います。ちなみにバランはなんと20キロ以下とのこと。
撮影ゴジラの身長はおよそ2m。映画ゴジラは50mなので体重は25倍・・・にはならない。立体なのでタテ×ヨコ×タカサの倍率を掛ける必要がある。撮影ゴジラと映画ゴジラは完全に体形は一致している相似形なので25×25×25で15625倍になる。124キロに15625を掛けると総計は1937500キログラム。1937.5トン・・・端数切り上げでもおよそ2000トンにしかならない。映画の設定・身長50m体重2万トンの1/10以下だ。やっぱりゴジラは生まれた瞬間つぶれるしかないんじゃなかろか。ちなみに2万トンになるには2m時に1.28トンが必要になる。どう考えてもつぶれる。
と書くと「撮影用のぬいぐるみと劇中の怪獣じゃ比重が全く違って当然だろ」という反論もあると思う。わたしも思う。だが、この考え方で体重が想定されたと思われる怪獣がいるのだ。それは「フランケンシュタイン対地底怪獣」に登場するバラゴン。これはパンフにも記載してある身長25m、体重250トンという東宝怪獣にしては異質の設定をしている。こいつを2mに直すと・・・なんと128kg! バラゴンに入っているのは中島氏なので少し切り上げが行われた可能性はあるが、撮影ゴジラとほぼ同じ重量なのだ。バラゴンはゴジラと違ってモンスターものに近い怪獣なので、よりリアルな設定が求められた結果ではないだろうか。ゆえに撮影時の総重量を基準に考えるのはアリだと思う。つまらない仮定としてはゴジラと同じ比重にするつもりで計算したら2500トンだったのを0一つ入れ忘れた、って可能性もあるんだけど、それをやるなら東宝怪獣は割とハッタリくさい数を重量にするので5千トンくらいにして500トンになってるんじゃないかと思う。
・計算で出すラドンの重量
さて、ここまでは前座。いよいよ本番。東宝怪獣もの第三弾「空の大怪獣ラドン」に登場したラドンの体重は計算上どのくらいが正しいのか、という考察である。ラドンは飛行生物なのでゴジラと同じ方法は取れない。公式設定によるとラドンは身長50m、翼長120m、体重1万5千トン。ゴジラに近い体格でやや軽いという扱いとなっているが、ちょっと待って欲しい。「空の大怪獣ラドン」は珍しく怪獣の体重に触れている作品なのだ。あとは「ゴジラVSモスラ」のメインスクリーンにゴジラが「Weight:60000t」と、「ゴジラVSメカゴジラ」でメカゴジラを総重量を15万トンとディスプレイに表示されているものくらいしかわたしは知らない(WOWOW配信で見直したので追記および訂正しました)。「空の大怪獣ラドン」によると
翼長は270フィート、体重は100トンを超える
とある。なんで長さはヤード法で重量がメートル法やねん。長さをフィートで呼ぶのが知識人っぽくてかっこいいからだろうか(ちなみに「ゴジラVSモスラ」によるとゴジラの全長656.168ft=200.0000064m、身長328.084ft=100.0000032m。無理やりフィートにしなくてもいい典型)。それはさておき「超える」の一言が体重のみなのか翼長込みなのかはっきりしないが、両方ということにしよう。これをもとにラドンの体重を100トンとする人もいるようだがそれは早計。このサイズは割れていた卵の殻から計算したものなのだ。よって生まれたばかりの幼体のみがこのサイズとみていい。劇中で卵からうまれた個体と街中で暴れた個体ではやや容姿が異なる。よって個人的な意見では生まれた幼体は暴れた二匹のいずれでもなく、そのまま地下に閉じ込められて「三大怪獣地球最大の決戦」でようやく地上に出られた個体だと考えている。したがってラドンの成長した個体では重量も多くなるはずだ。少々容姿のバランスが違うのは無視したうえで、翼長を頼りに体重を計算してみよう。270フィートとは82.3m。これを120mまで伸ばすとざっと1.46倍。これを3乗して100トンを掛けると・・・311トン。これが映画設定での成長したラドンの計算上正しいはずの体重である。
・ラドン対プテラノドン
さて、劇中の説明ではラドンはプテラノドンと比較されている。ゴジラとティラノサウルスを比較するのは間違っているが、ラドンとプテラノドンを比較するのは正しい行為なのだ。おそらく劇中の計算もプテラノドンをベースにしているだろうから、プテラノドンがラドン並の身長になったらどのくらいの重量になるのか調べてみよう。
しかし、これが参った。プテラノドンはネットで検索しても身長がなかなか出てこない。出てくるサイズは翼長ばかり。プテラノドンとラドンを比べると明らかにプテラノドンの翼の方が横に長いので、翼長で合わせるとプテラノドンの体が小さくなりすぎてしまう。とにかくキーボードを叩きまくった結果、翌長7~9m、体長1.5~1.8m、重量15~20キログラムというバランスのものを載せている人がいたのでこの大きい方をプテラノドンの基本データにしよう。概ねそんな感じだろうし。ちなみに恐竜などのデータに良く使われる「体長」だと尾の長さを含むので私の知りたい「身長」よりも長くなるが、プテラノドンは尾が無いので体長と身長はイコールでほぼ差し支えない、としておこう。もし劇中比較がランフォリンクスだったら全部投げ出していた。
しかしこんなに大きいのに体重20キロって、本当かいな。こんなバランスの生物本当に存在していたのか・・・と毎度気になるプテラノドン。これをラドンと同じ身長50mまで伸ばすと、27.8の三乗で・・・なんと重量430トン! ラドンの311トンより重いのだ。先にも書いたようにプテラノドンの翼はラドンよりもだいぶ長いし、トサカなどの装飾も大きい。プテラノドンの方が重いのも当然と言えば当然なのだ。また仮に20キロはもっと大きいプテラノドンのことだったと想定して1.8m15キロで計算すると、驚きの322トン!! ラドンとほぼ同じになるのである。ここから考えるにラドンの「270フィート、100トン」は科学的に見ても正しかった、ということになる。これはさすがにビックリ。適当に決めただけの数字じゃなかったのね。さすが電子計算機がはじき出した数字だ。
・全部台無しやり直し
と、一見キレイにまとまったかに見えたのだが・・・。これを全部ぶち壊してしまうシーンが、ラドン二度目の登場となる「三大怪獣地球最大の決戦」に存在する。ゴジラをラドンが高く持ち上げて飛ぶシーンである。あああああああああ。
翼竜のものを持ち上げる能力は知らない(映画では人間くらい軽々と持ち上げている)が、現代の大型飛行生物である猛禽類だと「自分の体重よりも重い獲物を持ち上げることは出来るが、2倍を超えると難しい」らしい。だとすると重量2万トンのゴジラを持ち上げるのにラドンの重量は1万5千トンくらいは必要、と考える公式設定は全く持って正しいことになる。これが「怪獣大戦争」くらいの低空飛行な持ち上げだったら二怪獣のダッシュの勢いを利用した、くらいにごまかせるが「三大怪獣地球最大の決戦」の持ち上げ方だとそんなごまかしは通用しない。じゃぁゴジラの体重2万トンを持ち上げられるようにラドンを成長させるとすると・・・311×(3.46の三乗)が1万5千トンだから身長も3.46倍に伸ばす必要がある。メートルにすれば182m。キングギドラより圧倒的にでかくなってしまう。うーん、どう屁理屈を並べてもそうは見えない。
ここで最初に戻る。わたしが計算で出したゴジラの重量1937.5トン。これを「三大怪獣地球最大の決戦」でのゴジラの重量にしてしまえ。そうすればラドンは3/4の重量でゴジラを持ちあげられるのだから1453トンで済む。311トンを1453トンにするにはおよそ1.67の三乗倍だから身長の増加は1.67倍の83.5mだ。これならなんとか・・・とみるか、これでもデカイとみるか・・・。
考えてみたらゴジラは身長60mを超えるガイガンとほとんど同じ身長に見えることがあるぞ。おそらくゴジラはその闘気で相手にプレッシャーを与え、身長を本来より大きく見せる能力があるのだろう。ラドンと並ぶときは怪獣王の威厳にかけて小さく見えないように猛烈な闘気で自分を同じくらいまで大きく見せていたに違いない。キングギドラとかヘドラとか何考えてるのかわからないやつらには通用しなかったけど、ラドンならいけるってことで。これで万事解決、めでたしめでたしだ。
いやーこういう無駄で役に立たないことを考えながら計算するのは楽しいなぁ。筆が乗って仕方ないのでもう少し書こう。第二弾ではちょっと趣旨を変えて謎解きをする。
わたしの翼竜に対するイメージは「想像できない」であって理屈じゃないんです。
ムササビのような明らかに飛べない程度の被膜ならともかく、翼竜は本記事でも書いているようにほぼ翼長でしかデータが記載されていないほど大きな翼をしています。にも拘わらず大昔から羽ばたかなかったと言われ続けている、現代に翼長で語られ飛べるのに羽ばたかない、こんな生物は居ません。飛ぶのがヘタでも羽ばたきはするやつならいますが。なのでいくら理屈を仕入れてもその生態が想像できない、なのです。
昆虫と翼竜、鳥類の飛び方は基本的に違います。
昆虫は外骨格生物であり、羽もその延長(翼とは言いません)。基本的に比重が軽いので羽ばたきで浮力を稼ぎ、空気(風)に浮かんでる感じです。羽自体も小さいし、筋肉そのものも脊椎動物の筋肉とは違うので、高速で羽を振動させて羽ばたき続けることができます。滑空の必要はあまりありません。
翼竜や鳥類の脊椎動物は昆虫とは進化の系統が違う別の動物(生物が動物と植物に分かれた頃には共通の祖先がいた程度でしかない)です。当然ながら昆虫の飛行能力とは別の仕組みで空を飛びます。翼竜と鳥類も別の進化過程で飛行能力を得ていますが、生物的に比較的近縁であったため、外観上は似たような形態に進化しています。(昆虫の羽は足とは全く別の器官ですが、翼竜も鳥類も翼は前足が進化したものです)
脊椎動物は体格も大きく構造的に比重も大きいので、昆虫のように高速に羽ばたくことはできません。羽ばたきの浮力だけで空気に浮かぶということもできないので、現在の鳥類でも羽ばたきで(地上から飛び立ち)落下を防ぎながら滑空してるという感じです。現在の鳥類の大きさだと羽ばたきで飛び立つことが可能ですが、中生代の始祖鳥の頃は体系が大きく、とても飛び立つことはできなかったでしょう。現在もダチョウなんかは飛べないし、恐竜絶滅後に地球を支配したという巨大鳥類も飛べなかったと思います。
現在の鳥類は体型をかなり小型化しています。体が大きいほど羽ばたきによって浮上力を得るには不利なので、小型化によって飛ぶための適性進化を遂げたのでしょう。映画とかに出てくる翼竜とか始祖鳥のイメージは現代人が現在の鳥類を参考したうえで作り上げたものですので、現実は色々と違うかと。
当時の他の捕食者(大型爬虫類)や獲物(小型動物)の生息密度とか遭遇機会とか考えると(現実には図鑑や映画で描かれてるような密集した棲息はしてないと思われますので)、翼竜にとっては羽ばたけない翼が邪魔と言うほどのものではなかったのかと思います。滑空によって獲物を得る範囲を広く取れることが最も重要だったのかもしれません。羽ばたけない代わりに現在の鳥類やコウモリと違って(翼の先端の)前足はある程度は物を掴めたらしいですし。
はい、だから成体まで育った場合を想定して大型化する計算をしているんです。
それはよく言われる説ですが、個人的には羽ばたかなければ翼は邪魔としか見えないので貧弱なプテラノドンというのはイメージできないです。蝶や蚊でも羽ばたきで飛んでますしね。映画に出てくる翼竜も背景化しているやつを除けば大抵羽ばたいていますし。むしろラドンが一番滑空しているくらいです。
ちなみに筋肉があまりないので、プテラノドンは羽ばたくことができません。崖の上とかから飛び降りて滑空してたぐらいかと。滑空して獲物を採って、その後は地道に歩くか走って崖の上まで戻っていたのでしょうか。
ラドンは確実に羽ばたいているので、筋肉や骨格の付き方とか膜の構造はプテラノドンとはかなり違ってそうです・