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「お友達連れて来たよ。その子を先に着せ替えてから由愛ちゃんのオムツ換えてあげる。また写真いっぱい取ろうね」
そう言って箱を覗いた笹本が下卑た微笑みを浮かべた。
いやだいやだいやだっ
そう叫びたいが、そんなことをすればまた頬や頭を殴られるだろう。お仕置きだと言って大事なところをつねられるのも痛くて恥ずかしくて悲しかった。
「うっ」
急に声を詰まらせた笹本が驚いた表情を浮かべ、後ろを振り返った。
「なめんなよ、てめぇ」
荒々しい女の子の声が聞こえる。
笹本は呻きながら崩れ落ちて箱の縁から消えた。
由愛は恐る恐る箱から顔を出した。
金色の髪の少女が笹本の背中からナイフを抜いている。血がどくどくと溢れ出し笹本の下に血溜まりを作っていく。
折りたたんだナイフをジーンズのポケットに差し込むと今度は笹本の上着を探り始めた。
スマホを見つけてそれもポケットに入れ、由愛をしばらくじっと見つめてからガレージを出て行った。
その少女が通報したのか、しばらくしてパトカーが到着し、箱の中で動けないでいた由愛は救助された。
笹本はすでに失血死していた。
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車の窓ガラスに付着した大量の指紋により容疑者の一人として早川保が任意の事情聴取を受けた。凶器の遺留もなく早川の犯行だという証拠はなかったが、方々から通報されていた不審者と一致したことですぐ釈放とはいかなかった。
早川は笹本と一緒に去った金髪少女が何らかの理由を知っているはずだとあの日の出来事を全部告白した。
だが、そのような少女を目撃したものは他に誰もおらず、被害者の少女にも聴取したが知らないという答えしか返ってこなかった。
通報してきたのは確かに被害者より年上の声だったが、それが早川のいう金髪の少女なのか、それともほかの誰かなのかは不明で、笹本のスマホの行方とともにいまだ謎のままである。