**
あれからひと月――
エイジは目覚めないまま原因不明の意識障害でまだ入院していた。
一人息子に何が起こったのかわからない両親は憔悴していたがダンダ、チャメ、ババクンの三人は何も語ろうとはしなかった。
いじめや喧嘩によるものだと周囲は疑っていたが、エイジの母親は四人の仲がよかったのを知っているので、ダンダたちを責めることはなかった。
だが、彼らが一様に口を閉ざしていることには困り果てていた。
その後――
チャメは一変して暗い性格になり、常に何かに怯えていた。
心配する母親と口もきかず学校を休みがちになり、やがて完全に部屋に引きこもった。
登校拒否になって三日目、異変に気付いた父親が施錠されたドアを蹴破って突入、ロフトベッドの柵に紐をかけ縊死している息子を発見した。遺書はなく、なぜ自死したのか理由は誰にもわからない。
ババクンは両親や他の誰とも口をきくことはなかったが、それ以外は学校を休むこともなく普段通りの生活を送っていた。
だが、チャメが自殺した二日後、悲鳴を上げながら何かから逃げるように路上に飛び出し、トラックに撥ねられ死亡した。
ダンダも以前のような活発さが消え、あの日から学校を休んだまま日々ぼんやりとしているだけだった。
真相を知りたくてエイジの両親が何度も訪れたが問いかけても返事はなく、チャメの自殺やババクンの事故死を知らせても何の反応もしなかった。
彼の父親は息子に無関心のまま毎日飲んだくれていたが、ある日包丁で腹をえぐられ死亡しているのが見つかった。その日からダンダの行方はわからない。
警察が重要参考人として捜索している中、隣県の海面で漂うダンダの衣服を発見、押収したが、ただそれだけで生死はいまだ不明である。
彼らの身に一体何があったのか誰も知る術はなく、この先も永遠にわからないまま――のはずだった――
**
ダンダが行方不明になってから数カ月後、唯一生き残ったエイジが突然意識を回復し、泣き叫び暴れ狂った。
彼の両親が病院に駆けつけた時はすでに鎮静剤を投与され興奮状態は収まっていた。
二人は担当医と看護師長に立ち会ってもらい、ダンダたちの末路を内緒にしたままで、一体何が起きたのか訊き出そうとした。
固く口を閉ざすエイジだったが、両親の説得でやがてぽつぽつと話し始めた。
その告白は両親にも担当医たちにも信じられないものだった。
夢か妄想か。
何かドラッグでも使用したのだろう。きっとダンダが勧めたに違いない。
母親は勝手に決めつけ憤慨し、チャメやババクンに申しわけないと思いつつもエイジが生き残ったことを喜んだ。
だが翌日、ダンダの件で事情聴取に来る刑事の到着を待たず、頭が割れるように痛いと訴え、エイジはそのまま絶命した。
両親の落胆は大きく、担当医に原因の追究を頼んだが、説明のつけられない事象が増えただけだった。
エイジの頭部は外傷もないのに頭蓋骨が陥没し、脳の一部が破壊されていたのである。
救急搬送された際やもちろん入院中にも何度も検査が行われ、意識障害以外の異常はなかった。
にもかかわらず、硬いもので殴打されたような損傷が内部にあるのだ。
医師たちは両親の了承を得てこの理解不能な死因を伏せ、エイジの死を病死とした。
真相を知る一握りの関係者は幽霊屋敷の累を恐れて決して口を開くことはなかった。
だが、どこからどう漏れ出たのか、エイジたちの件はウワサになり広まった。
そして年月が流れ――
*
誰も住んでいない荒れ果てた一軒の小さな空き家。
この家は幽霊屋敷と呼ばれ、様々なウワサが流れていた。
夜な夜な老人が窓を叩いている――
血に濡れた灰皿を持った女が仁王立ちしている――
家に入り込んだ少年たちが全員不審死を遂げた――
酒を持ち込んでどんちゃん騒ぎをした若者が互いを殺し合った――
眠る場所を求めたホームレスが灰皿を振り回して町の人々を襲った――
新しいウワサが生まれるとしばらくは誰も近寄らない。
だが、恐怖が風化するとまたここに誰か来ては新しいウワサが一つ生まれ、幽霊屋敷は大きく育っていく。