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男の頭頂部は妻の一撃で陥没した。
頭を押さえ呻いていた男は幾度も殴られ、脳と脳漿をぶちまけて血まみれになりながら息絶えた。
死体は妻によってリビングの掃き出し窓から庭へ、血の跡を付けながら引き摺り出された。
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こじんまりした庭は雑草が蔓延り荒れ放題だった。
垣根の所々が破損し穴が開いていたので通行人に見咎められないかとエイジは心配になった。
だが、さっきから人っ子一人通らず、隣近所に見つかった気配もないのでひとまず安心した。
「なんだ、ほんとに普通の空き家だな。チャメが言ったとおり、近所のババアか不動産屋のおっさんが幽霊話を盛ってたんだな」
ダンダが閉められた掃き出し窓から中を覗き込みながら鼻で笑った。ここもきちんと施錠されている。
「はい、これ」とチャメがウエストポーチからガムテープを取り出し、ダンダに差し出す。
「ガラスに貼って割るとあんまり音がしないんだよ。テレビでやってた」と、しれっと言う。
「おいおい。お前が一番しつけのいい坊ちゃんなんだぞ。末恐ろしいな」
ダンダは懐中電灯を咥えると、受け取ったガムテープをクレセント錠周囲のガラスに貼った。
チャメはダンダの言葉を気にする様子もなく、再びポーチを漁り、今度は小振りのハンマーを出してきた。
開いた口が塞がらないような顔でダンダはガムテープと交代にハンマーを受け取り、テープで囲んだガラスを叩く。
「こいつらマジで怖いんですけど」
滑らかに作業する二人を見てババクンがつぶやいた。
エイジも同感だ。
静かな庭にガラスの割れる音がしたが、テープのおかげか聞き咎められるほどではない。
事実、近隣から何の反応もなく、それを確認してエイジは指で丸を作った。
ダンダが尖ったガラスに注意しながら穴に手を突っ込んだ。クレセントを解錠し、サッシをゆっくり開ける。きいぃと軋む音がしたが気になるほどもない。
淀んだ空気がふわりと流れ出し、かびと埃と何か得体のしれない臭いがしていたが、興奮している四人は気にも留めなかった。