ようやく四十九日も過ぎ落ち着いたかに見える晴美だが、心の中はぽっかりと穴が開いたように虚ろだった。
子供たちを学校や幼稚園へ送りだすと、ダイニングの椅子に腰掛けてぼんやりと窓の外を眺めてはいるが何も目に入ってはいない。
母の八重子が足を引きずりながら壁伝いにダイニングルームにやってきた。
「桜の新緑が美しいね。」
と言いながらレースのカーテンを開けた。
晴美は我に返り、目の前の桜の木がこんなに葉を茂らせているとは気付かなかった自分に驚いた。
あの不幸な電話がかかってきた日の朝、子供たちと土産配りに出掛ける際、この桜は花が美しく咲き、ヒラヒラと花弁が自分や子供の肩に散っていたことを思い出す。
あれから木や花のことなどに気を留める余裕もなかった。
外に出て改めて庭を見て見るとパンジーやアネモネなど春の花が開花時期を終え、茶色く枯れて雑草が生い茂っている。
晴美の家庭は金銭的には健太の死亡退職金や保険、八重子の年金などで暫くはやっていけるが、これからの生活や子供の将来を考えると働き口を探さなくてはならない。
しかし晴美にはそんな行動を起こす気力もなく、ただ楽しかった過去と今の寂しさが去来するのみで思い出しては涙にくれる毎日なのだ。
あの赤い光でいいから健太に会いに来てほしいと願う。
「そんなに毎日メソメソしていないで、お買い物で楽しんでくるか外でも歩いてきたらどうなの。」
母の言うことをきいてショッピングセンターに行ってみたが、出会う人々の顔が皆幸せそうに見えて余計に切なくなる。
そうだあまり人に出会わない山を歩いてみよう。
思いつくと晴美は翌日自宅から見える近くの山に行くことにした。
杉林の続く暗く細い道路を車で登っていくと周囲2kmほどの池がある。
その横に車を停め、池の周りについている狭い山道を歩きだした。
緑の低木に覆われたその山道は木の根が出ていたり、アップダウンがあったりとかなり歩き難い。
注意深く足を運んだ。
池を見ると周囲の木々の緑と青い空が水面に映って素晴らしい景色だ。
子供が生まれる前は度々健太と二人でここを歩いた。
秋にはこの緑の木々も鮮やかな紅葉に染まり、青い池との対比が美しくて二人で感嘆の声を上げたものだ。
確かこの時期にも来たことがあり、野草の名前を健太から教えてもらったことがあると周囲を見回すと、岩に張り付いたように丸い葉があり、その上に房の先をハサミで細かく切ったような可愛いピンクの花が其処此処に咲いているのを見つけた。
名前は何だったかしら。確かイワカガミ?いやオオイワカガミと言ったかと健太の顔を思い浮かべながら、かすかな記憶を辿ってみる。
子供たちを学校や幼稚園へ送りだすと、ダイニングの椅子に腰掛けてぼんやりと窓の外を眺めてはいるが何も目に入ってはいない。
母の八重子が足を引きずりながら壁伝いにダイニングルームにやってきた。
「桜の新緑が美しいね。」
と言いながらレースのカーテンを開けた。
晴美は我に返り、目の前の桜の木がこんなに葉を茂らせているとは気付かなかった自分に驚いた。
あの不幸な電話がかかってきた日の朝、子供たちと土産配りに出掛ける際、この桜は花が美しく咲き、ヒラヒラと花弁が自分や子供の肩に散っていたことを思い出す。
あれから木や花のことなどに気を留める余裕もなかった。
外に出て改めて庭を見て見るとパンジーやアネモネなど春の花が開花時期を終え、茶色く枯れて雑草が生い茂っている。
晴美の家庭は金銭的には健太の死亡退職金や保険、八重子の年金などで暫くはやっていけるが、これからの生活や子供の将来を考えると働き口を探さなくてはならない。
しかし晴美にはそんな行動を起こす気力もなく、ただ楽しかった過去と今の寂しさが去来するのみで思い出しては涙にくれる毎日なのだ。
あの赤い光でいいから健太に会いに来てほしいと願う。
「そんなに毎日メソメソしていないで、お買い物で楽しんでくるか外でも歩いてきたらどうなの。」
母の言うことをきいてショッピングセンターに行ってみたが、出会う人々の顔が皆幸せそうに見えて余計に切なくなる。
そうだあまり人に出会わない山を歩いてみよう。
思いつくと晴美は翌日自宅から見える近くの山に行くことにした。
杉林の続く暗く細い道路を車で登っていくと周囲2kmほどの池がある。
その横に車を停め、池の周りについている狭い山道を歩きだした。
緑の低木に覆われたその山道は木の根が出ていたり、アップダウンがあったりとかなり歩き難い。
注意深く足を運んだ。
池を見ると周囲の木々の緑と青い空が水面に映って素晴らしい景色だ。
子供が生まれる前は度々健太と二人でここを歩いた。
秋にはこの緑の木々も鮮やかな紅葉に染まり、青い池との対比が美しくて二人で感嘆の声を上げたものだ。
確かこの時期にも来たことがあり、野草の名前を健太から教えてもらったことがあると周囲を見回すと、岩に張り付いたように丸い葉があり、その上に房の先をハサミで細かく切ったような可愛いピンクの花が其処此処に咲いているのを見つけた。
名前は何だったかしら。確かイワカガミ?いやオオイワカガミと言ったかと健太の顔を思い浮かべながら、かすかな記憶を辿ってみる。