京都御苑で植物観察を楽しんでいると、春には枝垂れ桜(糸桜)で人だかりとなる近衛邸跡の近くで、幹がほとんど空洞となっている桜の木を1本見つけました。品種はよくわかりませんが、京都御苑にソメイヨシノは植えられていませんので、ヤマザクラか近衛邸跡の有名な糸桜のような枝垂れ桜を含むエドヒガン系ではないかと思います。
根元の部分から木部がほとんど見られません。
大人の目線位置まで、ほぼすっぽりと中心部が抜けた感じです。
でも生きています。葉は紅葉(黄葉?)しています。
冬芽もちゃんとできています。左側と右下奥は花芽で右側は葉芽でしょうか。ただあまりふっくらしていないので、すべて葉芽かもしれませんが。
では、どうして生きているのでしょうか。じつは植物の生きた細胞というのは、樹皮をめくって少し内側にある「維管束形成層」と呼ばれるところにある形成層という成長組織と養分等を通す師部が主となります。なお、維管束には水を通す道管もありますが、こちらは死んだ細胞でできています。
木材として使う部分や樹皮などはほとんど死んだ細胞で、人間や動物の持つ組織で譬えると皮膚と同じような存在です。植物は動かないことを選んだ際に、生きている細胞(代謝活動を行っている箇所)は極力少なくして、成長してできた死んだ細胞を腐らないようにして内側で骨格として利用することにしたのかもしれません。
おそらく、この桜も形成層と師管や道管は残っていて、根から水分を吸い上げて光合成によって葉でできた養分も行き渡っているのだと思います。また桜の場合、少し弱ったりすると不定根と呼ばれる根が出てくることがあり、特にソメイヨシノでは顕著に見られ、このような空洞の内側から不定根が出てきた場合、樹木医さんは朽ちたところを除去して不定根が地面まで届くよう空洞部分にピートモス等を詰めて樹勢回復に利用することがあるそうです。でも、この桜はそのような根が出ていないように見えました。というより空洞部分が大きすぎる? 大丈夫かな?
少し足を伸ばして京都御苑の梅林に行ってみましたら、こちらには幹がえぐれた梅の木がありました。
でも、しっかり新しい枝が出て、冬芽もできています。
その近くでは、木部の中心部分と外側の木部から樹皮にかけてが裂けたようになった梅の木もありました。左側が木部で右側が樹皮や維管束形成層のある部分です。もちろん左側はそのまま朽ちた状態になっていますが、右側はその先端から新しい枝を張り、冬芽もつけています。
根元部分はこんな感じ。
もちろん、この桜や梅は完全な状態の桜や梅に比べて樹勢は弱いですし、おそらく人間の手で管理されなければ早く朽ちてしまうでしょう。ただし動物と違い、植物は痛痛しい姿になっても、成長部分が損なわれておらず、根から水そして葉から養分を全体に送ることができれば簡単に枯れてしまわない強靭さを持っていると言えるでしょうか。
このような樹木を観察することで動物と植物の違いを知ることができ、生きた教材のひとつになるかと思います。