花と文。(暮らしと本と花と)

日々の心に残る記しておきたいこと。

小笠原豆腐店。

2021年07月02日 | 秋の日

大雪山を東に仰ぎ見る。

家の二階の窓からは、住宅街だけれど高い建物がないので

地平線に沈むような夕日を見つめることができた。

時代なのか、田舎だったからなのか、どちらもなのだろう。

学校から帰るとお昼寝をよくする子だったので、リーンと甲高い電話のベルで起こされ

朝なのか夕方なのか、頭がはっきりとするまで時間がかかった。

電話がよく鳴った。そういう時代だ。

黒い電話の時代だった。

盆地であるその土地は、夏は暑く、冬は寒いと言われた。

私の記憶では・・・

夏の早朝の気持ち良さ。自分で作った竹馬にひとり乗り、歩くのが好きだった。

冬は玄関の扉を覆いつくすほどの大雪で目を覚ます

雪を漕いで学校に行く。

寒くなんかない。アノラックに手袋、耳まですっぽりと包み込む

毛糸の帽子に、脚絆をつけて

歩いて遊んでいるうちに体はポカポカ

ほっぺも真っ赤に

雪の眩しさ、白よりも白。

おひさまを受けて、雪の中に寝転ぶ。

雪は白かった。

子どもの頃、白い記憶がいくつかある。

近所にあるお豆腐屋さん。

「小笠原豆腐店」木造平屋だったと思う、大きな通りの角にあり

家から走れば5分くらいのところだったから

よくおつかいに行かされた。料理に使うボールを持たされることもあった。

手ぶらで行けばビニール袋に入れてくれる。

痩せて、手が皺皺の、細い腕のおじいさん。声はかすれて力がないようだけれど

日本手ぬぐいを頭に巻いていた。

「お豆腐をください。」

一丁なのか、半丁なのか聞かれる

つるつるとした白いタイルが貼られている、長細く、底の深いお風呂の湯舟のようなお水の中に

豆腐が沈んでいる。大きなお豆腐は線の模様が縦横に入っていて、中央に点がある。

手をそっと潜らせる。そして手のひらにのせて、大きくて四角い刃のついた包丁で

さっ、さっと切るのだ。

豆腐を掬いあげ、掌にのせて、大きな四角い刃の包丁をやさしく使う。

ちょうどいい大きさのビニール袋に器用に滑り込ませて袋を結び

手渡される

少し濡れた袋を手で持ち、お店をあとにする

家に帰るまで、そっとそっと。

「小笠原さんの豆腐は美味しい」母がいつも言っていた

声のトーンまでも、私の中に残っている。

 

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