思えば平成最後の年の出来事だった
新年早々、成人の日も過ぎたある日、追突事故にあった。同乗していた愛犬共々、怪我がなかったのは不幸中の幸いと思っていたら翌日から声が出なくなった。
その翌日に住宅相談を引き受けることになった。設計者として美声とダンディニズムを売りとしているワタクシにとって(ウソ)声を奪われるのは致命的であったが絞り出して相談者の方に電話を掛けた。
ご相談内容は昨年父が他界した後、空き家になっている分譲マンションの間取り変更も含めたフルリフォームの依頼だった。 リニューアル後は、新婚の娘夫婦が住まわれるということだった。シンプルな数点のご要望に加え、三世代で住んでいた頃の娘の思い出の背比べをした付け柱を処分せずに何処かに残してほしいというものだった。
その後、二度目かのお打ち合わせの時に驚くことがあった。 なんと全損の判定で廃車が決定したばかりの愛車と同じ、しかも同生産時期の車を奥様が所有していたのだ。 新車で購入以来十数年、家族のように接してきたそうで・・勝手な憶測だけど物を長く大切に使うという生活スタイルが見えたような気がした。時間が経つほど惚れ込んだデザインの完成された国産の小型車。そういうお客様の価値観がわかれば設計はそんなに苦労しない。
工事は猛暑で現場も大変な夏だったが建設業者の経験豊富な技術力ときめ細かな対応でお客様に喜ばれる仕事ができた。そしてあの「柱のキズの背比べ柱」はクロゼットの奥で新しい部屋と成長した家族を見守っている。
(2018-09 機関紙に寄稿)