リスペクト

　いろいろな論評が絶えなかった北京オリンピックも閉幕して、福田首相の退陣だのグルジア侵攻だの、新聞もTVニュースもようやくいつものパターンに戻ってきたようである。振り返ってみれば、アテネオリンピックもシドニーオリンピックもこんな議論にはならなかったような記憶がある。どうして北京オリンピックだけこんなに騒がれるのか。それは北京オリンピックが本当に特異な大会だったからなのか、それとも隣国中国に対する極めて複雑な民族感情があったからなのか。それとももっと特別な理由があったからなのか。かなりの数にのぼる新聞や週刊誌の記事を読みながら、その内容よりもこうした報道の背景にあるものを考えてみてしまうのである。

　ともあれ、日本代表選手団は金メダル９個、銀メダル６個、銅メダル１０個を獲得し、のべ２５選手・チームのメダリストが誕生した。選手のみんなはメダリストとして地元の英雄になり、今頃は急に増えた親戚や友達、かねてから応援してくれていた政治家のみなさまへの対応で大変忙しい日々を送っていることであろう。オリンピックで連覇することの難しさは、こうしたイベントから逃れて練習に集中することができないのが最大の原因ではないかと思うほどである。まあ、皮肉はこれくらいにしておくとして、こうしたメダリストの陰には、期待されながらメダルを逃して悔しい思いをしている選手、ほとんど報道すらされない不人気種目の選手、無念の欠場を余儀なくされた選手など、数多くの選手たちがいる。そして彼らの少なくない人数がいわれのない非難やバッシングを受けているだろうことは想像に難くない。１１０メートルハードル中国代表の劉翔選手が棄権したことで、中国国内ではインターネットを中心に物凄い非難が巻き起こり、民族の英雄が一転して脱走兵呼ばわりされる事態になったという報道がされていた。それは中国にだけ特異なことではなく、同じようなことが事の大小はともかく日本でも普通に起きていることはまず間違いない。一方的に期待を背負わされ、死ぬ気で戦って来いとプレッシャーをかけられた揚句に、あんな成績なら行かない方がマシと罵倒される。必死の練習でオリンピック出場権を手にした若者にはあまりにも過酷な結末である。
　そんな彼らに与えられる称号が一つある。オリンピアン。自らの力で出場権を獲得し、オリンピックに出場し、自らの名誉と国の誇りをかけて戦った者に等しく与えられるこの称号は、多くの国で尊敬の対象となっている。先人の苦労と歴史がなければ何一つとして前には進めない。力尽き破れ去った選手たちには、未来に向けた冷静な分析と努力に対する尊敬の念が必要なのである。

　オリンピック・ゲームスはスポーツを考え、国民のレベルを計ることができる４年に一度の貴重な機会なのではないだろうか。