森の物語
椅子代わりの丸太を持って13:30に餌台付近に集合する事にして、サッパリしたところで夫々昼食に別れました。
食堂で毎日同じというサンドウィッチをミルクで食べて、食堂への分かれ道から、シカの骨までの道しるべをクリスと取り付けます。
道しるべといっても片一方を削った枝を立ち木にくくりつけるだけ。
そうこうしている内に皆んなシカの骨の周りに集まってきました。
子供達は興味深そうに骨を見ています。
今朝トイレに使った場所が直ぐ近くですが、そんなことを言い出して、話が縺れては一大事。
少々深い目に掘ったし、針葉樹の腐葉土は防臭効果があるのか、匂いもせず、まったく痕跡なし。
骨を中心に環を描くように丸太を並べて子供達を座らせて待っていると、西部劇に出てくる百姓みたいな格好のボスが背中に荷物を積んだEDを引き連れてやってきました。
その後ろからインディアンの扮装をしたリックもやってきました。
何が始るんでしょうか。
ボスが意外に張りのある声で子供達に語りかけているのは、ゴールドラッシュ時代の話しらしいんですが、所々しか単語を理解出来ないので、話の全体像が良く掴めないのが残念です。
ボスが腰を下ろすと、リックが代わって話し出しました。
こちらはまだ白人が現れる前のこの辺りの様子を話しているようです。
こちらは、扮装に合わせているのか「山、高い、雪、降る。食べ物無い、シカ餓えた」という感じで、単語を並べるような話方なので、まだ少しは聞き取れます。
それは助かるんですが、どうも、この話方は Native American を馬鹿にしているように思えます。
考え過ぎかなぁ?
名前を呼ばれたので自分の鼻を指差すと、リックが出て来いという身振りをしています。
全く打ち合わせ無しで、一体何をどうするのか?
この赤鹿は我々の森で命を終えた。
彼の身体はバッジャーや虫たちの糧となって、
その生命の跡は今もこの森に存在している。
そして遠い国から来た彼が、偶然にその生命の跡を見つけた。
彼が我々と共にここで暮らさなかったら、
この赤鹿は存在した事さえ誰にも知られず土になっただろう。
我々が此処に集まっている事は、数多くの偶然が重なった結果なのだ。
しかし、それを偶然と呼べるだろうか?
我々が偶然と呼ぶ事柄こそ、神の仕事に他ならないのではないか。
(確か、この辺りで戻っていいような素振りをしたので、元の位置に帰ったような記憶が・・・)人間は火を手に入れ、自動車を、飛行機をその他色々な物を作った。
しかし、自然の生命は作ることは出来ない。
ちっぽけな虫一匹でさえ、作り出すことは出来ない。
虫は偶然に生まれたのだろうか、
小さな虫でさえ、今の姿となるまで、永い、永い年月と、
数限りない生と死の歴史を経てきたのだ。
無数の幸運な偶然に助けられて命の鎖をつないできた。
その間にただの1つでも不幸な偶然に遭えば、
その種は今の世に存在していなかっただろう。我々は、神の創り賜うた自然と生き物を、守り育て、
その中で安全に生活する方法を学ぼう。そのためには、知識と観察力と強い身体を待たなければならない。
この赤鹿の骨からどのようなことが判るか?
この骨は1つの物語を現している。
角が有る事でオスだと判る、形から年齢が判る。
散らばり具合から、クーガーやコヨーテに襲われたのではない。
銃で撃たれたのでもない。
骨の色から、雪のある季節に飢か病気で此処で倒れその命を終えた事がわかる。
もっともっと色々な事をこの骨は我々に語っている。
草も木も、虫や鳥、動物たち、
岩や土や山、水の流れ、大空さえもが我々に語っている。
その言葉を理解できるようになろう。
自然の物語に耳を傾けよう。その時にはこの1/10も聞き取れませんでした。
後でリックに教えてもらってメモしたのですが、簡単にしかメモっていなかったので、この程度しか復元できませんでした。
もっともっと長い話だったし、もっとやわらかな雰囲気の話だったはずです。
何か大事な事を抜かしているような気がしてならないんですよ・・・。ただ、ベースに「人間は自然の保護者であり管理者である」というのが少し私の考えと違うような感じがしました。
もっとも、自分の考えというのが、いまだに矛盾だらけで纏まってないんですがね。
けど、その辺りの感覚の違いがリスのグレービィーに現れているのかな?とチラッと思いました。
リックとボスが交代で自然との接し方、目の前にある自然の物語の読み方を話してくれました。
間に子供達、 Troop MasterやStuff との会話を交えて、学校の授業のように説教臭くなく、如何にも先輩が後輩に、親が子に話しているような雰囲気は素晴らしいなぁと感じました。 何時もは仔犬のように騒がしい子供達も神妙に聞き入っています。
リックとボスのお話が終わって、2人は Honey へ引き上げて行きました。
頭の骨と角は「自然教室」に飾るそうです。
「記念に1つ持って行かないか?」と言うので、首のところとおぼしい骨を拾いました。
「皆んなも好きに持って帰っていいよ」とクリスが言うと子供達が好き好きに骨を拾って行きました。
先ほどの話が効いたのか、赤鹿の残骸に対して敬意を払っているように思えたのは考え過ぎかなぁ。
日本の子供達はこういう骨を見ると、きっと気味悪がるだけでしょうね。
自然と生命、神の話は賛成できないところも有るように思いますが、自然との向き合い方を教えられる大人が居ると言う事は素晴らしい事です。
たかだか百数十年前までNative American を蹴散らし、バイソンを絶滅寸前にまで殺戮していた歴史を持った国というのが不思議ですね。
改めて、この国の人々の多様さに感心します。
今日は午後のプログラムはこれでお終い。
夕方まで時間があるのでクリスと一緒にボブとバートの薪作りを手伝いに行きました。
森の奥に行くともう既に作業は終わっていて、山のような丸太が切られています。
ボブが「シャワーを浴びてからリス撃ちをしよう」と言い出しました。
そう言えばミーティングでそんな事を言ってましたね。
冷たいシャワーを浴びてスッキリした気分で Honey に銃を借りに行きます。
ヨレヨレのノートに銃に書いてある番号と自分の名前を書いて、借り出し手続きは終わり。
返しに来たら、横にリックがサインするだけですって。
トムと射撃場で使ったのに較べると、同じ22口径らしいんですが、二周りくらい小さなチャチな銃ですね。
持った感じも軽い、ところがチャチに見えても、こちらは連発式。
弾の形も随分違います。
ストンとした形で長さも短い。
手掴みで一握りずつ弾を貰って出発。
こんなに簡単な管理で良いんでしょうかね?
借りてきたライフルを良く見ると、西部劇でジョン・ウェインが振り回しているのと良く似ています。
トムのは戦争映画などでお馴染みの、取っ手を前後に動かして操作するタイプのでしたが、これは引き金のカバーと一体になったレバーを操作するんですね。
ただ、トムのは如何にも精密機械という感じだったのに、何だかガタが有ります。
ボブに言うと「あいつのは射撃競技用なのさ。あれ1丁でこの銃なら3つは楽に買えるよ」
へ~、そうか、それならこの如何にもチャチな作りも納得です。
そうは言う物の、銃ですから弾が飛び出すんですよ。
おまけに連発。
馬鹿の悪ガキがこんなのを持ったら危なくてしようがないなぁ。
照準も小さな穴から覗くのではなくて、夜店の射的みたいな簡単なものです。
こんなので当たるんでしょうか?
バートのテントへ行く前に Honey の側の小さな射撃場で試し撃ち。
土手が築いてあって、ハの字型に板囲いがして有ります。
銃には夫々癖があるんだそうです。
台尻に白いペンキで丸が描いてあって、クロの点が撃ってあるのはそちらへ外れる癖があるという印なんですって。
今度も凄く近くで撃つんですが、的は紙箱を開ろげたのに、自分たちで丸を適当に描いた物です。
試し撃ちは水平に撃つので、寝転がって撃つんですが、実際にリスを撃つときは、寝転がって上向きに撃つのはやりにくいので、立って撃つんだそうです。
他の連中はともかく、私はそんな生意気な真似をしたら、それこそ何処に弾が飛んで行くやら。
「じゃあ座って撃つといい」とバートが見本を見せてくれました。
立膝で座って、膝の上に左肘を据えて撃つんですが、首を傾けないと照準が見えず、結構苦しい姿勢です。
5,6発ずつ試し撃ちをして「さぁ、行こうか!」は良いんですが、私の試し撃ちはまんべん無く弾痕が散らばってるから、一体この銃の癖はどうなのか全く不明です。
台尻に描いてあるのを信用すれば、左上に逸れるようなんですが、それ以前の問題ですよ。
2003/06/11:初出
2022/06/04:再録
53-ED BARRAR-08-U.S.A.1964-No.53(8/3)へ
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