砂浜に打ち寄せる
小波が翼を広げ
取り残されたカニの子を
さらっていく
子供たちの足跡に
ヤドカリが逃げ込む
裸足の指先に
小波がまとわりつき
海の方へ誘う
その心地よさに
知らぬ間に立ち上がり
海の中に入っていった
手招きするように
小波が立つ
誘われるように
カモメが戯れ
水平線の向こうに
入道雲が浮かんでいる
海面を滑るように
秋風が走り
うなずくように
小波が起き
カモメの鳴き声が
相槌を打っている
見知らぬ土地で
見知らぬ人に
言葉も交わさないのに
爽やかな微笑みが
頬を撫でるように
擦れ違う会釈が美味しい
こんな情景が
何とも美味しい
渇いた喉を
岩清水が潤すように
信濃路の旅は
暑い夏が美味しい
薄汚れた心を
乱れる心を
自然に生きかえらす
信濃路の自然を
何に詰め込んで
持って帰ればいいのだろう
通りすがりの
見知らぬ人が会釈する
思わずつられて
何気なく会釈した
手を引かれた子どもが
にっこり笑った
疲れた心が
静かに洗われる
この爽やかな
夏の信濃路に
踏み入れた足が
大地に吸い込まれていく
忘れかけていた
美味しい情景
透き通るような風
ハープを奏でるような
せせらぎの音
持って帰りたい