蝕が起きた前触れもなくだ、といっても他国でのことだ、本来なら慶国の王、中嶋陽子(なかじまようこ)が動くことはない、だが、今回ばかりは違った。
自分の知り合いが旅に出ていたのだ、最初は近隣の国に行くという連絡があった、だが、半月、一ヶ月が過ぎても連絡がない、手紙もだ、不安になり使令に探させようとしたが、されは景麟(けいき)に止められてしまった、蝕が起こるかもしれない。
「どういうことだ」
「海客(かいきゃく)だからです」
言葉を失った、何故だと聞き返す。
「蓬莱(ほうらい)から来たというだけなら、ただの海客、ですが、あの方は」
「言いたいことがあるなら聞くぞ、賓満(ひんまん)をつけたことか、言葉が通じないと不便だと思ったからだ」
蝕で流されてきた人間は本来、こちらに来ると言葉が通じない、不便だろうと彼女の為に陽子は彼女に自分の使令をつけたのだ、ところが。
十日ほどが過ぎ、彼女は言葉がわかるように、話すことができるようになったのだ。
本当に、ただの海客なのか。
彼女が慶国を出ていったのは周りの自分を見る目を気にしてのことだ、だが、それだけではない、元、海客の王である陽子の立場を慮っての、陽子は思っていた。
「主上(しゅじょう)今回の蝕で大きな被害はありません、ですが、海沿いの崖が崩れたとていう報告が入っております、ただ、そのとき、崖の上に」
話を聞くうち彼女の表情、顔色が変わっていく。
「天啓かもしれません」
桜川 美夜(さくらがわ みや)、彼女は自分の元いた世界の知り合いだ、自分より年上で困ったときは助けてくれた、頼りになる姉のような、その彼女が消えた。
蝕に巻き込まれた、元の世界に戻れたならいい、だが、その可能性は低い、あまりにもだ、別の世界に流されたという確率のほうが高いだろう。
助けたくても手段がない。
(はははっ)
声は聞き覚えのあるものだ、だが、それは、けっして、いや、何故、こんなときにと思わずにはいられなかった。
序章です、突発的に書きたくなりました。
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