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基本的に読書感想文です。

ナルニア国物語 ライオンと魔女 23

2006-04-16 04:01:08 | Weblog
 まとめ
 ここで、物語のエッセンスを抜き出してざっと並べてみたいと思います。
 正義王エドマンド
 エドマンドがなぜ正義なのか、最初読んだときは違和感をおぼえました。他のだれでもエドマンドより、ふさわしいんじゃないか、と思いました。しかし、そこにCSルイスの正義に対する哲学が隠されていると思います。
 エドマンドは始めから性格の悪い子でした。
 それが魔女にプリンと王子の座で誘惑され、さらに堕ちます。「プリンと王子の座」はそのまま「金と権力」に一般化できるものです。
 しかし動物と妖精達のパーティが石像にされたのを見てかわいそうだと思いました。それは、エドマンドが魔女に虐待されることによって、弱者に対して共感できるようになったからだと思います。逆に、もし魔女に厚遇されていたら石化された彼らをみても何の感慨も憶えず、魔女と一緒に「愚か者めが!」とおもっていたことでしょう。
 とにかく、エドマンドは弱者に対する共感、つまり、思いやりを獲得したのです。
 エドマンドが正義王にふさわしいのはそのためじゃないでしょうか。
 ピーターは最初から正義感にあふれていますが、それは固定観念に近いものかもしれないのです。
 それに対してエドマンドのは思いやりから出発している。だからそれは本物だ、とルイスは考えたのだと思います。
 ピーターの勇気
 についても同様なことがいえると思います。
 ピーターは命知らずなわけではありません。
 スーザンがモーグリムに襲われているとき、怖気づいて、吐き気までもよおしながら、「それでも何かしなければならないことに変わりありませんでした。」と、勝てるかどうかわからない相手に突きかかっていくのです。
 ピーターは恐怖を克服することによって、自分で勇気を獲得しました。想像力の欠如、自分への過信からくる「命知らず」ではないのです。
 アスランの試練
 アスランもまた何かを克服しなければなりませんでした。
 それが何だったのか?
 エドマンドという他者を救うために命まで犠牲にすることによって、自らの善性をより強固なものにしたのか、それとも、死の恐怖を克服して「大帝」の定めた「始まりよりも前からの魔法」を信じることによって、「大帝」への忠誠をよりつよくしたのか、よくわかりません。
 ナルニアはSF小説的に言えば、パラレル・ワールドです。もしかしたらSFのパラレル・ワールドものの原点なのかもしれません。
 アスランはこのパラレル・ワールドのイエス・キリストです。大帝は聖書のGODです。
 だからこのエピソードはキリストの受難と復活をベースにしているはずですが、門外漢の僕としてはよく分りません。
 ただ、アスランがこの試練を受けることによって、ナルニアは魔女を必要としなくなりました。
 
 このように各エピソードを見ると、以前に紹介した、映画「永遠の愛に生きて」のなかでルイスが言った言葉に全て集約されるように思えます。
 「神は我々の幸福ではなく、我々の成長を願われているのです。」
 ナルニア国物語りは試練と成長の物語と言えるとおもいます。

ところでスーザンとルーシィも試練をうけました。
 目の前でアスランが殺され、何もできずに泣き尽くした一夜のことです。
 考えようによっては彼女たちの試練が最も重いものです。
 エドマンドの場合は、この悲惨が自分が招いたものだと納得することもできます。
 ピーターとアスランは自分の意志で解決できるものです。
 しかし、彼女たちは、納得もできず、解決もできません。ただひたすら悲しむ他ありませんでした。
 しかし、それでも泣き尽くした後には透きとおった落ち着きがありました。その時彼女たちの心は成長していたのだとおもいます。
 
 また話が「永遠の愛に生きて」に飛びますが、ルーシィとスーザンの状況は妻ヘレンを亡くした後のルイスと同じです。
 ルイスは頭では分っていたことになります。つまり、耐えられないような悲しいことに直面したとしても、逃げてはいけない、目をそらしてはいけない、と。
 しかし、実際にそれをするのに、10歳の時の母の死から61歳でヘレンを亡くすまで51年もかかった。
 ルーシィとスーザンは分っていないのに逃げなかった。(作中人物と比べるのもなんですが・・・)ルイスは分っていたのに逃げた。
 分っているだけでは意味がない、ということですね。(まったく)
 
 
  

ナルニア国物語 ライオンと魔女 22

2006-04-13 01:10:00 | Weblog
 それでは、「あらすじ」を書き終わって、感想を書こうと思います。
 いろいろあって、まとまりませんが、つれずれなるままに書いてみます。
 CSルイスはまじめなひとです。
 まじめとは、脱線しない、という意味です。
 物語は「メインとなる流れ」と、それを肉づけし、または装飾する「傍流」、また、あってもなくてもいいようなエピソード、セリフ、「水たまり」から成っているものです。
 いや、幹と枝と葉にたとえたほうが適当ですね。
 このうち、幹と枝は物語のためにあるものです。しかし、葉は作者の自己主張のためにあります。
 例えば、この間、村上春樹の「海辺のカフカ」を呼んだんですが、そのなかで、登場人物がシューベルトについて論ずる場面がありました。
 曰く、「シューベルトのなんとかという曲(記憶力悪くてすいません)は天国的に冗長で、どう演奏しようが、退屈さをまねがれない。しかし僕は何故か魅かれる。その未完成さにひきつけられる。」
 このセリフは物語の本流と何の関係もありません。最近でた、「スィングしなけりゃ音楽じゃない」にも同じく、シューベルトのあえて未完成のまま、生のインスピレーションをそのまま提示する態度について書いていました。
 おそらく、村上春樹は「言いたかった」のだと思います。
 そのような態度を「不真面目」と言っていいと思います。
 大急ぎで付け加えますが、僕は「不真面目さ」が大好きです。かっこいい言い方をすれば、無駄であるがゆえに豊かです。
 サンテグジュペリの星の王子様もそのような「不真面目さ」に満ちていました。
 もし、ライオンと魔女をテグジュペリが書いたとしたら、かるく倍の長さになったでしょう。
 たとえば、きつねが王子様に「君の星には猟師がいないのか!」と喜んで、移住しようかと思ったのに、盗むべき作物もまたない、と聞いて、「世の中はうまくいかないもんだ。」と嘆く場面があります。
 あっちを立てればこっちが立たず。メリットがあればデメリットもある。という真実を語っていますが、これまた物語の本流と関係ありません。
 星の王子様の約60パーセントはそのようなサンテグジュペリの「人生哲学」で占められています。
 それは言ってみれば物語にまぎれこませたエッセイです。エッセイは自己表現です。
 自分の体験した、または見聞したエピソードとそこから抽出した「法則」。それをどれだけ抽象化し、一般化して誰にでもあてはまる「法則」に磨き上げたとしても、つまるところ、「自分」です。
 自分の会社に誰がかけたのか相田みつをのひめくりカレンダーがかけてあって、毎日、否応なく(?)読んでしまうのですが、今日は「やれなかったのかな、やらなかったのかな、」とありました。
 昨日はたしか「そのとき、どううごく、」でした。
 だれにでもあてはまる事を言っているはずなのに、どうしようもなく、「相田みつを」です。
 自己表現は楽しいと思うのです。
 ところが、ライオンと魔女にはそのような、「エッセイ」がほとんどみつかりません。
 せいぜい、ビーバーさんにご馳走してもらう場面で、「半時間まえに自分でとった魚をフライにしてたべることほど素晴らしいことはありません。」とちょろっとまぎれこませてるぐらいです。
 僕があらすじを書くときは葉や枝をボキボキおって幹を裸にする作業をするのですが、今回は、折るべき枝葉がほとんどありませんでした。
 どのエピソードも必然性をもってそこに配されているのでどこも端折ることができませんでした。
これは少し不思議なことです。
 というのは、あとがきに書いてあったのですが、ルイスがナルニア国物語を書くときに、始めにイメージがあったというのです。
 最初にあったのは、雪の森林のなかを、フォーンとちいさな女の子が傘をさして歩いているシーンだったそうです。
 そのほか、さまざまなイメージの群れが小鳥たちのように頭のなかにあって、それを後から上手くつながるように工夫して、ひとつの物語にしたそうです。
 だとすれば、もっととっぴなエピソード、整合性からはみでるような場面があってもよさそうですが、全く理詰めに計算されつくしたような展開になっています。
 僕は最初読んだとき、四人そろってナルニアにいくまで随分回り道するな、まどろっこしいな、と思いましたが、良く考えると、エドマンドが後に裏切る伏線がしこまれているので、必要なのですね。
 と、いうことはCSルイスという人はもう無意識からして理詰めの人なんだとおもいます。本当に学者タイプの人なんでしょうね。
 
 
 

ナルニア国物語 ライオンと魔女 21

2006-04-10 01:54:51 | Weblog
 17 白鹿狩り

 魔女軍は新手に押され、さらに魔女が倒されたことを知ると、逃げ出すものが続出し、総崩れとなりました。
 戦いに勝利し、ピーターとアスランはかたく握手しました。
 ルーシィはエドマンドは、と探すと、戦場から少し離れたところで血まみれになって倒れているのを見つけました。
 いそいで駆けつけると、わなわなと震える手でサンタにもらった薬酒をエドマンドにふりかけました。
 ピーターは言いました。
 「アスランよ、われらがあなたの到着までもちこたえることができたのはエドのおかげです。戦いがはじまってすぐは我が軍の者は、魔女に手当たりしだいに石に変えられ、負けそうでした。しかしエドが危険をかえりみず、魔女に接近し、石化の杖を剣で叩きこわしてくれました。しかし、そのときの格闘で重傷を負ってしまいました。」
  アスランはルーシィに近寄って言いました。
 「エドマンドは大丈夫だ。ほかにもその薬酒を必要としているものがいる。」
 ルーシィは小さくうなずきました。
 それから、二人は大忙しでした。ルーシィは怪我人に薬をふりかけ、アスランは石像に息を吹きかけてまわりました。
 
 その日の夜。
 ケア・パラベルの城では4人の戴冠式が盛大に執り行われました。
ラッパのりゅうりゅうと響くうちにアスランがおごそかに兄弟に冠をさずけ、王位をあたえて、四つの王座に四人をみちびいていきますと、口々に耳もつぶれるばかりの、歓呼の声があがりました。
 「ピーター王ばんざい!スーザン王ばんざい!エドマンド王ばんざい!ルーシィ王ばんざい!」ばんざい、ばんざい、の声の波でした。
 大宴会になりました。はなやかな踊り、不思議な音楽、あふれんばかりのご馳走、ワイン・・・。
 しかし、浮かれ立つ騒ぎのなかでアスランは静かに立ちさっていきました。
 兄弟たちはそのことに気づいても、ことさらに何もいいませんでした。それは、ビーバーさんに忠告されていたからです。
「あの方は来ては行ってしまわれるのです。きょうお会いしても、明日はいません。何事にもしばりつけられるのが大嫌いなおかたなのですよ。きっとよその国の気をくばって見にいらっしゃるのです。そのままのしておきなさい。時々、ふらりといらっしゃいますよ。なんといっても、あの方は自然児なのです。飼い慣らされたライオンじゃありませんからね。」
 次の日から四人はナルニア国の王と女王として、政務にはげみました。
 法律を整備し、魔女の残党を退治し、国境を侵してきた異民族とたたかい、海の彼方の国とよしみを通じました。
 そのようにして、毎日を忙しく過ごしていると、自分たちが、かつて「あき部屋」の「たんす」からやってきたことなど、まるで夢のようにおもわれました。
 4人は立派にナルニア国を治めました。ピーターはまことの勇者で、<英雄王>と、エドマンドは会議と裁判に秀でていたので、<正義王>と、スーザンは<やさしの君>と、ルーシィは<たのもしの君>と人々に呼ばれました。
 ある日、タムナスさんがひさしぶりにルーシィを訪ねてきました。
 「白い鹿があらわれた。」というのです。
 白い鹿とは、「それを捕まえたものには、なんでも願い事がかなう」という伝説のある幻の動物です。
 4人はさっそく家臣をしたがえて、タムナスさんの案内で狩りにでかけました。
 ほどなく白鹿を見つけましたが、逃げ足がはやく、夢中で追いかけるうちにいつしか、タムナスさんも家臣も脱落して、4人だけになりました。
 さらに、白鹿が森の中に逃げ込んだときには自分たちの馬もへばって動かなくなってしまいました。
 しかたなく、4人は歩いて森のなかにはいっていきましたが、4人とも不思議な気分になりました。
 「なにか見覚えがある。」
 「胸騒ぎがする。」
 「引き返したほうがいいんじゃまいかしら?」
 「あの鉄の木は何かしら?上が光ってる・・・?」
 4人はちくちくするもみの葉をかき分けてあるいていましたが、つるつるした感触に変わりました。草を踏みしめていたのに、いつの間にか板を踏んでいました。
 4人はたんすの扉を開けて、あき部屋に転がりでてしまいました。

その夜、4人は学者先生に自分たちがみてきたことを全て話しました。すると、大きくうなづいてから、こう言いました。
 「きみたちは、またいつか、きっとナルニアにもどれるよ。けれども同じ道をつかおうとしてはだめだよ。きっと、ナルニアに行こうとおもっていないときに、ひょいって行ってしまうことになるね。そして、やたらにナルニアのことをしゃべってはならない。同じような冒険をした人にならかまわんがね。何?どうしたら分るかって?大丈夫、ちゃんと分るとも、そうゆう人たちは言うことが変だ。顔つきまでかわっとる。それで秘密がもれるのさ。目をよくみひらいておきたまえ。」
 
 
 
 

ナルニア国物語 ライオンと魔女 20

2006-04-07 00:44:16 | Weblog
 16 石像のむれ、よみがえる

 アスランはライオンの石像に跳びかかると、息を吹きかけました。さらにぐるぐると他の石像にも息を吹きかけてまわりました。
 ルーシィたちがあっけにとられて見ていると、息の当たったところから光が波紋のように広がり、全身を包むとスパークして生き返りました。
 庭は復活した動物や妖精の声で湧き上がりました。
 そのなかでルーシィはタムナスさんを見つけ、二人は再会のよろこびで踊りまわりました。
 「でもどうやってここから出るんだ?」誰かが言いました。この高い壁を飛び越えるなんてアスラン以外できないからです。
 「心配はない。」アスランは巨人族の男に向かって、「巨人ごろごろ八郎太よ、ここはお前のその自慢のこん棒にお願いしよう。」
 「承知つかまつりました。」
 八郎太は渾身の力で巨大なこん棒を壁に叩きつけました。
 ガラガラトッシーン!
 皆は歓声をあげましたが、アスランは前足を叩いて、静かに、と言いました。
 「私たちは今すぐに我々の仲間に加勢に行って、魔女の軍を倒さなければならない。」
 「やりましょう!」威勢のいいセントールが叫びました。
 「では、こどもや小さな動物は大きなものの背に乗せてもらいなさい。・・・準備は良いか?出発する!」
 一同はアスランを先頭に長い列をつくって、川沿いの道を駆け下りました。
 いく曲がりもするせまい谷の最後の曲がり角を曲がったとき、ルーシィは行列の音とちがった音をききつけました。それを聞くとルーシィは気分が悪くなりました。音は、どなる声、叫ぶ声、金具と金具とがかちあう響きでした。
谷を抜けると、魔女軍と、アスランの仲間軍が激しく戦っていました。バケモノたちは昨日の夜よりも、おぞましく見えました。
 戦場のあちこちに石像にされた味方がぽつり、ぽつりと立っていてました。
 ぶつかり合いの中央で魔女とピーターが一騎打ちをおこなっていました。
 両者の動きがあまりに早いので、魔女の石のナイフとピーターの剣が何本もあるみたいでした。
 吼え声が戦場を圧して響きわたりました。もちろん、アスランのものです。
 魔女めがけて、突進しました。
 こちらを見た魔女の顔が、おどろきと恐怖にゆがみました。
 次の瞬間、魔女はアスランのつめの下敷きになり、こと切れました。
 それに続いて、館から引き連れた仲間がわき目もふらず、敵につっこみました。
 つかれはてたピーター軍がかんこの声をあげ、新手の勢がこれに答えてどっと叫ぶと、敵は悲鳴をあげ、なにやらわめき、そのために敵味方たがいのこえが森にこだまして、大地をゆるがすばかりでした。
 
 

 

ナルニア国物語 ライオンと魔女 19

2006-04-02 02:16:02 | Weblog
 家購入の件ですが、トヨタホームの人に3月中に決めれば、100万円引き(!)といわれ、もの凄くあせって検討しました。
 毎日のように幾つかの候補の土地を見に行ったり、関係各所(親、兄弟など)の意見をききながら、メッツォとか、シンセ・カーダとか複数のプランでそれぞれ数パターンの間取りをあーでもない、こーでもない、と検討していると、「怪しゅうこそ物狂おしけれ」な気分になってきて、ナルニア国物語と混乱して、「石像がならぶことを考えると、庭には駐車スペースがないな、」とか、「たんすを置くあき部屋がひとついるから個室は3つか・・・」とか変になってきて、こんな状態で判断するのは危険だ、と気づき、100万円はあきらめて、時間をかけて選ぶことにしました。

 15 世の始まりより前からの、もっと古い魔法

 「いざ!みなの者、わらわに従い、戦のかたをつけてしまおう!この大ばか者の大ネコめが死んだからには、あの裏切り者も、人間ばらも、ひねりつぶすに手はかからぬ。」
 魔女がそう叫ぶと、化け物の群れはなだれをうって、山を駆け下りて行きました。
 恐ろしい騒ぎが過ぎたたあとで、ルーシィとスーザンは石舞台に歩いて行きました。
 ふたりは死んでいるアスランの傍らにひざまずいて、つめたい顔にキスをして、これ以上涙が出ないほど泣きに泣きました。
 その夜のスーザンとルーシィほどみじめな者はなかったでしょう。けれども夜通し起きていて、涙がかれるほど泣いたものには、最後には澄んだ落ち着きがうまれるものです。
 スーザンは「少し歩きましょう、」とルーシィをさそって、山頂の東のはしに行きました。もう水平線の彼方が白みはじめ、ケア・パラベルの城がおぼろに見えました。
 その時、ただならぬ轟音が鳴り響きました。石舞台の方からです。
 ふたりが急いで帰ってみると、石舞台の平岩が真っ二つに割れ、アスランの姿が消えていました。
 「どうゆうことなの、まだ魔法が続いているの?」とスーザンが言いました。
 「そうだよ!」太い声が二人の後ろからしました。
 振り返ると、そこに朝日に照らされたアスランが(たてがみも元に戻って)立っていました。
 「おお、アスラン、あなたは生きているのですか?」
 「今はね!魔女は世の始まりからの魔法は知っていたが、世の始まりよりも前からの魔法は知らなかった。」
 「世が始まるよりも前の・・・?」
 「そう、何の罪も無い者が進んでいけにえになって、裏切り者のかわりに殺されたとき、掟の石板は砕け、死はふりだしに戻る。この世が始まる前、静寂のなかで定められた掟さ。あの魔女は知らなかった。」
 そう言うと、アスランは大口を開けたので、二人は耳を手で覆いました。草原の草が吼え声でなびきました。
 アスランは二人を背中に乗せると、しなやかな動きで山を駆け下りました。ブナのつづくおごそかな林、柏のちらばる、日の当たる草地、雪のように白く咲きこぼれる桜の林、とどろいて落ちる滝、ヒース覆う山の肩、そこをずんずん下って、あらあらしい谷間と、春たけなわのナルニアの国をわたっていったのです。
 こうして、ふたつの山のふもとにある城についたのは真昼ごろでした。
 「魔女の館だ!」とライオンは叫びました。「子供たちよ、しっかりつかまっておれ。」
 次の瞬間、天地がひっくり返ったかと思うと、城の大壁が自分の下にあり、石像だらけの庭に衝撃もなく、降り立っていました。
 
 画像はとくに綺麗というわけでもないんですが、冬の間死んだようだったバラ園が今年の新しい葉を出してて、「なんか、<始まり感>があって良いな、」と思って撮りました。