掌編な小説

愛と死を題材としたものだけを載せました。感想をいただければ幸いです。長編は苦手。少しずつですが、続きを書いていきます。

涙別

2017年11月10日 | 掌編

 彼女の住んでいた近隣の駅は、昔から阪急宝塚線蛍池駅と呼ばれ、小さい街に埋もれていた。
 梅田方面から降車して線路を渡り、改札を出て狭い路地を通り、商店街に差し掛かる。
 雅昭にとって懐かしい街が広がった。
 
 雅昭は京子と結婚の約束をし、ある理由から別れた。そして10年経って京子の家に訪ねてきたのだが、
京子はすでに亡くなっていた。雅昭は当時34歳。中年と呼ぶにはまだ早いかもしれない。
 彼女は雅昭と別れてすぐに自殺していた。
 雅昭はそのとき強い衝撃を受け、それ以来生ける屍となった。十余年も屍となっていた。現在は初老と
いってもいいだろう。しかし十余年もぼおっとして、またこの蛍池にやってきたのだ。
 彼女の父、茂郎に会うために。


 
 茂郎は昭和16年、尋常小学校を卒業し高等小学校に進学予定であったが、高等小学校は廃止されて、
国民学校高等科となった。現在の中学校のことだ。とは言っても名称が変更となっただけで、高等小学校と何ら
変わりはなかった。
 わが国が大東亜戦争に突入する少し前のことである。

----続く----



コメントを投稿