著者は、2015年~2016年、大統領選挙中、都市部から離れた地域で、ダイナー(食堂)等で声がけし、聞き取り取材をしたルポを、『トランプ王国-もう一つのアメリカを行く』著しているが、これは、その続編。1を合わせると取材人数は1005人に及ぶ。よそ者の日本人の取材を受けてくれるかという不安が著者にあったが、実際は、自分の話を聞いてくれという人が多数で、さらには、他の人を紹介するという出来事につながっていく。トランプ当選は、民主党が従来に勝ち得ていた五大湖周辺のペンシルベニア等以下5州で逆転したため。このエリアは、かつて製鉄、製造業が栄え、ブルーカラー労働者が、分厚い中間層を作ってきた。だが、それらの産業は、衰退し、ラストベルト(錆びた)と言われているが、それがサブタイトルとなっている。
注意を引いたルポ内容をまとめてみた。
「家を売るな。仕事を取り戻す。」という演説が、自分たちの置かれている状況に応えてくれると感じた。環境政策が石炭、原油、天然ガス等エネルギー開発推進へ方向転換され仕事が増えているという実感がある。ヒラリーは、トランプ支持者を「デプロラブル」(嘆かわしい、みじめな人々)と言い、怒りを買い、逆に「プライドデプロラブル」という合言葉を生み、結束を生んだ。社会保障政策は、移民を利するばかりという誤解が流布されている。
トランプ支持は続いているが、ミシガン州、ペンシルべニア州の中間層が住む郊外では、大統領の言動、振る舞いへの批判が聞かれ、実際、中間選挙では、民主党が下院議席を取り、最多の女性議員が生まれる。共和党候補は、トランプを隠して選挙戦をした。このように王国のゆらぎも起きている。
全米で2000万人(有権者の8%)いる帰還兵についても、オハイオ州で、帰還兵専用の病院通院送迎バスに同乗し、取材。世界への関与疲れ、世界の警察官よりも自分たちの生活の立て直しが優先。深刻な心的外傷、健康被害の訴えを聞かされる。
バイブルベルトと呼ばれるアラバマ州へも向かう。トランプというより、共和党支持の地盤。キリスト教の価値観や習慣が弱まったことへの不満が強い。教会が町のコミュニティの中心であり、小さな政府を支持する根拠となっている、人助けは教会がするべきだという倫理。実際に食料、衣類など日用品配給活動を見学する。 ロードトリップを通じての聞き取りの他、次の3人へのインタビューもしている。
トマス・フランク(ジャーナリスト)…共和党の究極目的は、極めてシンプルであり、減税と規制緩和、富裕層の支持者の期待に応える。しかし、選挙の争点では、国境の危機、移民問題、雇用問題等人々の不満に訴え、労働者層を取り込んでいく手法をとる。一方、クリントン以降、民主党は、労働者の党」であることをやめ、「見識があり、高等教育を受け、裕福な人々の政党」を目指した。オバマであっても、ウォール街の金融機関、独占企業など法的に踏み込むことをしなかった。そのような中、民主的な社会主義を訴えたサンダースに支持が広がったと言える。
アーリー・ホックシールド(社会学者78歳 『壁の向こうの住人達』 岩波書店)…保守の人々への聞き取りをし、彼らの感情を言葉を翻訳し出版。5年間の聞き取りで、心の奥にある次のようなディープストーリーを作成した。これを相手に伝えると、正にそうだと共感をされるという。アメリカンドリーム。その意味合いは、それなりの給与を得、他人から尊敬され、慕われ、自分を誇りに思えるということ。その山頂に続く行列はなかなか動かない。原因はグローバル化(企業の海外移転)なのか、オートメーション化(雇用の喪失)なのかわからない。勤勉に働き、ルールを守ってきた。誰かをうらやんできたわけでもない自分は頂を目指す資格はある。疲れ果てていた時、前を見ると、(積極的差別是正で、)黒人、女性が、さらに、移民、難民、公務員。海洋汚染で油で汚れたペリカンがヨタヨタと割り込んできたのが見えた。そして、前にいる高学歴の誰かが来て、お前は人種差別主義者だ。レッド・ネックだと言って笑い始めた。
バーバラ・エーレンライク(ジャーナリスト 76歳 『ニッケルアンドダイムド―アメリカ下流社会の現実』 東洋経済新報社)…民主党の課題は、広がった経済格差に対処していく。労働者層の声を聞いていくことだ。ジャーナリズムにお金が回らない(トマスも、ローカル紙は経営難で死にかかり、ジャーナリズムがなくなりつつあると述べていた)。不平等と貧困について当事者が書き、プロの私たちが手直し世に出すというプロジェクトを始めた。
最後に、ニューヨークに戻り、社会主義を支持する人たちを取材。アメリカでは社会主義は馴染まないと言われてきたが、バーニー・サンダース、オカシオコルテス民主的な社会主義を掲げ、最低賃金、国民皆保険、住宅政策などを訴えた民主党左派の政治家の支持が広がり始めている。
声を率直に読むことで、日本のメディアではわからないアメリカのもう一つの面を知ることが出来た。今年は、アメリカ大統領選だが、民放のある番組で、出演者の多数がトランプ再選と答えていたが、どうなのだろう。
注意を引いたルポ内容をまとめてみた。
「家を売るな。仕事を取り戻す。」という演説が、自分たちの置かれている状況に応えてくれると感じた。環境政策が石炭、原油、天然ガス等エネルギー開発推進へ方向転換され仕事が増えているという実感がある。ヒラリーは、トランプ支持者を「デプロラブル」(嘆かわしい、みじめな人々)と言い、怒りを買い、逆に「プライドデプロラブル」という合言葉を生み、結束を生んだ。社会保障政策は、移民を利するばかりという誤解が流布されている。
トランプ支持は続いているが、ミシガン州、ペンシルべニア州の中間層が住む郊外では、大統領の言動、振る舞いへの批判が聞かれ、実際、中間選挙では、民主党が下院議席を取り、最多の女性議員が生まれる。共和党候補は、トランプを隠して選挙戦をした。このように王国のゆらぎも起きている。
全米で2000万人(有権者の8%)いる帰還兵についても、オハイオ州で、帰還兵専用の病院通院送迎バスに同乗し、取材。世界への関与疲れ、世界の警察官よりも自分たちの生活の立て直しが優先。深刻な心的外傷、健康被害の訴えを聞かされる。
バイブルベルトと呼ばれるアラバマ州へも向かう。トランプというより、共和党支持の地盤。キリスト教の価値観や習慣が弱まったことへの不満が強い。教会が町のコミュニティの中心であり、小さな政府を支持する根拠となっている、人助けは教会がするべきだという倫理。実際に食料、衣類など日用品配給活動を見学する。 ロードトリップを通じての聞き取りの他、次の3人へのインタビューもしている。
トマス・フランク(ジャーナリスト)…共和党の究極目的は、極めてシンプルであり、減税と規制緩和、富裕層の支持者の期待に応える。しかし、選挙の争点では、国境の危機、移民問題、雇用問題等人々の不満に訴え、労働者層を取り込んでいく手法をとる。一方、クリントン以降、民主党は、労働者の党」であることをやめ、「見識があり、高等教育を受け、裕福な人々の政党」を目指した。オバマであっても、ウォール街の金融機関、独占企業など法的に踏み込むことをしなかった。そのような中、民主的な社会主義を訴えたサンダースに支持が広がったと言える。
アーリー・ホックシールド(社会学者78歳 『壁の向こうの住人達』 岩波書店)…保守の人々への聞き取りをし、彼らの感情を言葉を翻訳し出版。5年間の聞き取りで、心の奥にある次のようなディープストーリーを作成した。これを相手に伝えると、正にそうだと共感をされるという。アメリカンドリーム。その意味合いは、それなりの給与を得、他人から尊敬され、慕われ、自分を誇りに思えるということ。その山頂に続く行列はなかなか動かない。原因はグローバル化(企業の海外移転)なのか、オートメーション化(雇用の喪失)なのかわからない。勤勉に働き、ルールを守ってきた。誰かをうらやんできたわけでもない自分は頂を目指す資格はある。疲れ果てていた時、前を見ると、(積極的差別是正で、)黒人、女性が、さらに、移民、難民、公務員。海洋汚染で油で汚れたペリカンがヨタヨタと割り込んできたのが見えた。そして、前にいる高学歴の誰かが来て、お前は人種差別主義者だ。レッド・ネックだと言って笑い始めた。
バーバラ・エーレンライク(ジャーナリスト 76歳 『ニッケルアンドダイムド―アメリカ下流社会の現実』 東洋経済新報社)…民主党の課題は、広がった経済格差に対処していく。労働者層の声を聞いていくことだ。ジャーナリズムにお金が回らない(トマスも、ローカル紙は経営難で死にかかり、ジャーナリズムがなくなりつつあると述べていた)。不平等と貧困について当事者が書き、プロの私たちが手直し世に出すというプロジェクトを始めた。
最後に、ニューヨークに戻り、社会主義を支持する人たちを取材。アメリカでは社会主義は馴染まないと言われてきたが、バーニー・サンダース、オカシオコルテス民主的な社会主義を掲げ、最低賃金、国民皆保険、住宅政策などを訴えた民主党左派の政治家の支持が広がり始めている。
声を率直に読むことで、日本のメディアではわからないアメリカのもう一つの面を知ることが出来た。今年は、アメリカ大統領選だが、民放のある番組で、出演者の多数がトランプ再選と答えていたが、どうなのだろう。