今日は、アルフィンが髪を後ろで一つに結い上げていた。
馬の尻尾。ポニーテイル。
「……珍しいな、髪」
言葉を選んで、ジョウが言った。
「え? ああこれ。うん、たまにね、気分」
ーーというのは違って。今日は珍しく寝癖がついていたのだ。くっきりと。
ブローする暇がなかっただけ。気分転換もかねてヘアアレンジしたのだった。
ジョウが何となく落ち着かない。何をやってもそわそわしているような。心ここにあらずといった風な。
……?
「どうかした。髪型違うの、そんなに気になる?」
ちらちらと視線を感じて、たまらずアルフィンが訊いた。似合ってないのだろうか。っていうか位置がおかしい? そう言われてジョウはう、ッと詰まった。
とっさに誤魔化そうとして諦め、天を見上げて告白した。
「~~気に障ったらスマン。そのう、うなじが、きれいで……。どうしても目が離せなくて、つい見てしまって」
口を手で覆ってしきりと謝る。耳たぶが真っ赤だった。
「う、うなじ?」
アルフィンは思わずそこに手をやった。おくれ毛が数本、指先にからむのが分かる。
いつもは隠れているところ。髪の毛で。それをわざと見せつけたつもりはなかった。今日はたまたまイレギュラーだった。
なのにジョウのこの反応。予想外だ。
どうしよう。すっかり照れて恐縮してしまっている。アルフィンはめまぐるしく考えた。気まずいのを何とかしなくちゃ。
「きれいって、褒められるの嬉しい。たまにはヘアアレンジもいいね」
うふふと笑って尻尾を触った。
「ジョウもどう? アレンジしてみない?たまには」
思い立って話を向けてみた。ジョウが「俺?」と目を見開く。
「そう、ちょっと来て、こっち」
彼の手を引いてアルフィンはソファにうながした。そして諸々の準備を整え、彼の隣に座った。ヘアワックスを取り出し、前髪とサイドにそれをつけて手櫛で流したり、毛先を遊ばせたりした。ジョウは居心地悪そうに、浅くソファに腰を下ろすのみ。
「あら……」
手を止めて、アルフィンの表情が変わる。距離を取ってまじまじと彼を見つめた。
普段髪に手を掛けておらず自然なままでいるジョウが、ちょっと手を加えるとものすごくおしゃれな感じになる。凛々しい眉と黒々とした瞳が露わになって、三割増し、ハンサムになった。
まあ……。なんてかっこいい。ヘアアレンジってこんなに印象を変えるの?まるで魔法ね。
「何だよ。声も出ないくらい、変か」
ジョウの眉が曇る。ふっと。鏡を見せていないので、どれぐらいハンサム度が増したのか自分ではわからないのだろう。
いや、見せたとしても、自覚するかどうか。そういうところ、無頓着だからほんとに。
まさか。と言いかけてアルフィンは飲み込んだ。
ちょいちょい、と指先で彼の髪を直してあげながら、言った。ぐっと距離を詰めて顔がくっつくぐらいの近さで。
「変じゃない。とても素敵。でも、あたしの前以外でそーいう髪型しちゃだめ。他の女に見せちゃだめよ、ゼッタイ。いーい?」
念を押す。
ジョウは怪訝な顔をした。
「い、いいけど。なんでだ」
「鈍い。察してよこれぐらい」
あたしがよそで、他の男の人の前でポニーテールになったらどうなの、と言ってやると、ああと理解が追いついたようだった。
「了解」
「わかればいいのよ」
機嫌よくアルフィンが頷く。
そんなわけで、二人のヘアアレンジは<ミネルバ>の中だけというきまりごとになった。
END
うなじがきれい、と言わせた後に、キスでも迫ればいいものを。…
ジョウの髪を弄ってあげるあたりが男慣れしていない姫なのです。
新作ありがとうございます。オリジナルも楽しく拝読しました。安達さんの描くちょっぴり切ない恋物語はとても素敵だと思ってます。姫とJ君には基本ハッピーにイチャイチャしててもらいたいですけど(この2人のちょっぴり切ない話を想像できない…。そしてR40は切なすぎて泣いた。)
私は純粋培養のまま、姫には彼のもと寵愛されてほしい派です。アダルトになっても天然の愛くるしさで周りの男どもをたぶらかしてほしい。え?結婚してるの?うそ、子どももいる?うそー!ってな具合に 笑笑
オリジナル短編も興が乗ると書いてしまいます。いつまで熱が続くか… 宜しければお付き合いくださいませ