アルフィンがジョウと過ごす時間で一番好きなのは、夜、リビングで動画や映画を一緒に観るひとときだ。
夕食の後始末を終えて、お風呂も入り、髪を乾かしてブラッシングをする。その後、飲み物を持ってリビングにいくと、もうそこでジョウがソファに座って待っている。胡坐をかいたり、片脚を座面に上げてくつろいだ姿勢で。
彼もシャワーを浴びているので、ゆるりとしたルームウエアだ。たいてい軽いアルコールを嗜んで待っている。
「お待たせ」
「うん。今日は何を観るんだ?」
選択権は、アルフィンが持つ。ジョウは特にこだわりはない。
「ん、今夜はねー。韓国のドラマ。すごい評判なのよ」
うきうきとコントローラーを操作してアルフィンがプラットフォームに入る。ジョウはグラスを口に運びながらモニター画面を見た。
「ふうん」
部屋の明かりを落とすのはジョウの役目。少し部屋を暗くした方が没入感を得られる。アルフィンはローテーブルの上にマグカップを置いて、自分はリビング床にぺたんと座った。毛足の長いラグの上に。
ソファに掛けるジョウの足もとで観るのが彼女の定位置だ。ホラー映画の時は、ジョウの膝のあたりに縋って目を覆うこともできるし、思いの外チョイスした映画が退屈で眠気を催したら彼の腿に凭れて寝入ることもできる。お気に入りの場所だ。
今夜、アルフィンが選んだドラマは悲恋物。心臓移植をした男性が、自分の記憶を失って、ドナーの記憶を持ち始める。それを見守るしかない恋人の女性。最愛のひとが自分以外の誰かに恋焦がれていく姿を、見つめていなければならない辛さ。切なさ。脚本も演出も優秀で、俳優陣の演技も秀逸。いやが上でも涙を誘う。
これは……。
ジョウが思った通り、アルフィンは途中からぐす、と洟をすすり始めた。見るとティッシュを鼻に押し当て、目を真っ赤にして画面を食い入るように見つめている。
ジョウは酒を啜りながらアルフィンの頭をそっと撫でた。そして肩にそっと手を置く。アルフィンはその手に手を重ねた。目は、瞬きも惜しんでストーリーを追い続けながら。
そんな風にしてドラマは終わった。二時間弱のスペシャルものだったが、前評判通り。いやそれ以上の出来だと言わざるを得ない。元来、恋愛ものはあまり得意ではないジョウでも、集中して見ることができた。
見終えたアルフィンは涙を流していた。夢を見ていたように惚けている。
「大丈夫か」
ジョウが顔を覗き込んだ。
アルフィンは涙をぬぐいながら、うん、と何度が頷いた。
「素敵だった。いいラストだったわ」
しゃくりあげながら言う。
「そうだな」
ジョウはソファから腰を上げて、アルフィンの後ろに座り込む。膝と膝の間に囲い、背後から彼女を抱き締めた。そっと。そして頭を撫でてくれる。優しい仕草だった。
アルフィンは嬉しそうに目を細めた。目尻をティッシュで押さえ、ふふ、と口角を持ち上げる。
「うん?」
「あたしね、ここで夜更け、あなたと映画とか観るのが好き。知ってた?ここでこうするとき、ジョウ、普段の二割増しで優しいのよ」
彼女しか知らない秘密をそっと打ち明ける。ジョウは、意外だったか形の良い眉を上げた。
「そうか?」
「うん。怖い映画のときも、寝落ちした時も、今日みたいな哀しい恋の物語のときも、可笑しいコメディのときだって、最後はこうやって抱きしめてくれるから。好きなの」
アルフィンを腕に囲いながら、ジョウはかなわないなと苦笑い。それは優しいからじゃなく、俺が君にそうしたいから、触れたいからだよとは口にせず、
「……明日は俺のチョイスの映画でいいか」
と照れ隠しで尋ねた。
END
NETFLIXの「さよならのつづき」良かったです。