ポッキーゲームを仕掛けるのは大概アルフィンから。
「ん、」
一本咥えて、ジョウに迫る。
それは唐突に始まるから、ジョウはうろたえる。お、っと。
爪先立ちになって、更に「ほらあ」という風に「んん」と目で促す。
「今か」
今夜、当番の彼はキッチンで皿洗いをしているところだった。夕食のあと。
正確に言えば、皿洗いは自動食洗機で行い、乾燥までオートでやってくれるのでジョウが担当しているのはそこから出して余熱を飛ばして食器棚に仕舞う作業だった。ここまでは機械はやってくれない。
ったく。手がタオルで塞がってるんですけど。そう思いつつジョウは皿をテーブルに置いてアルフィンに屈み込む。ちらと、タロスたち、まさか今こっちこないよなと思いつつ。
口を尖らせポッキーを差し出すアルフィンの腰に、そっと腕を回し、自分の方へ引き寄せて先っぽに齧りついた。
「……ふふ」
アルフィンは目を伏せて彼の咀嚼音を聞く。かり、かりっとげっ歯類の動物が木の実を食む音に似ている。どきどきと浮き立つ気持ちを抱えながら。
ジョウはわざと時間をかけてポッキーを食べていく。顔が近づいてくるにつれ、アルフィンはくっと唇に力を入れて、根元がぶれないように支えなければならない。
その頃には身体がぴったりと密着し、ほぼ抱き合う恰好。アルフィンはジョウの肩に腕を掛け、うなじを引き寄せる。
額と額がくっつくという段になって、ジョウがそこで動きを止める。
ぱり、と区切りをつけるようにポッキーを歯で折って、もぐもぐと口の中にあるものを飲み込んだ。
二人の視線がぶつかり、絡み合う。そして、どちらからともなくふっと笑みをこぼし、また間の距離をゼロにしていく。
つまり、唇と唇を重ねキスを織り込むーーたっぷりと濃厚なものを。
アルフィンにとって、ポッキーゲームは何も11月11日限定にする特別なものじゃない。勝ち負けも別に問題じゃない。
キスをジョウにおねだりしたいときの、愛らしい「ポーズ」なのだ。
END
ポッキーの日 当日にも短編ができました。(笑)