背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

オフセット本「PARADISE」収録 【パーティーがはじまる】(清田×吉川)立ち読みできます

2011年08月19日 04時50分31秒 | 雑感・雑記
 結婚してもう一年が経つ。今日は俺たちの結婚記念日。
 ちょっといいレストランを予約して、夕子と二人、それなりにドレスアップして出かける。
 下手に音楽などかかっていない。照明も適度に落としてある。銀器は磨き抜かれ、ギャルソンは毛足の長い絨毯の上、足音さえ立てずに動く。
 談笑する客たちも何かの映画のエキストラのように行儀正しい。
 すべてが、特別な日を過ごすためにあつらえたかのよう。電話帳にも載っていない、ここは隠れ家レストラン。
 場所は沖縄。


 結婚した後、俺に辞令が下った。
 今度の駐屯地は琉球。
 俺たちは紙切れ一枚で全国に派遣される。それに異を唱えることは許されない。たとえ新婚であろうとなかろうと。
 夕子もそれは分かっている。分かりすぎるほど。
 だから新たな駐屯地を告げたときも健気に笑って見せた。
「真っ黒に日焼けしそうですね。今でも色黒なのに」
「そうだな」
「私が日焼け止めを持っていってあげます。定期的に」
 皮膚がんは怖いんですよとかすかに笑う。
「まめに頼む。で、お前が塗ってくれ」
「ビーチに連れ出してくれるんならいいですよ」
「沖縄は、遠いな」
 俺が弱音を漏らすと、夕子は俺の手をそっと取った。そして言った。
「遠くても、あなたがいる場所なら、どこへだって行きます。大丈夫」
 そして俺の左の薬指に嵌められた結婚指輪に口付けた。
 俺は夕子を抱いた。
 その夜は、いつもより激しく。
「お前が女房でよかった、夕子」
 抱きながらベッドでそう囁くと、うっすらと涙を浮かべて達したのを今でも憶えている。


「美味いか?」
 俺は向かいに座った夕子に尋ねる。
 夕子は微笑を浮かべた。ワイングラスをくっと傾け、
「美味しいです」
「お前は舌がいいからな。半端なワインじゃ口に合わない」俺はワイングラスを置いて、ネクタイの結び目に指を差
し込んだ。
 スーツというのはどうも苦手だ。
「あなたと一緒に飲んでいるから美味しいの」
 少し酔いが回っているようだ。ほんのりと色香を放ち始める目線。
 俺は向かいの夕子に聞こえるぐらいの声で言った。
「なあ、次の料理を食べ終えたら、出ようか」
 夕子は辺りを窺う。誰か聞き耳を立ててはいないかというように。
「どうして? まだ途中ですよ」
「もう腹はくちくなった。次はお前を食べたい」
 言うと夕子はまじまじと俺を見た。
 そして何事もなかったかのようにカトラリーを取り上げ、テリーヌを小分けに切って口元に運ぶ。
「せっかちですね。せっかく珍しく夜のデートなのに」
「今夜はお前のためにホテルを予約してある。自分でいうのもあれだが割とグレードの高いところだ」
 こくん。
 テリーヌを咀嚼して呑み込む、夕子の喉もとが震える。
 俺はワインを口に運んだ。
「官舎には、帰らないの?」
 俺がグラスを元の位置に戻すのを待って夕子が訊いた。
 俺は頷く。
「たまにはホテルで思いっきり抱き合うのもいい」
 きょうは結婚記念日だからな、と結ぶ。
 夕子は膝に置いていたナフキンを取り上げ、そっと口を押さえた。口紅が落ちないように細心の注意を払う。
 そして俺を見つめ、
「いやらしい人ですね、相変わらず」
 言ってナフキンを膝に戻した。
 俺はその左の薬指に光る指輪を見ながら訊く。
「いやらしい夫は嫌いか?」
「まさか。大好きです」
 知っているでしょう? そう囁いて仕掛けてきた。
 足長のクロスに隠れているのをいいことに、テーブルの下で。
 ヒールをそっと脱いで、つま先で俺の膝を押す。
 俺はそ知らぬ顔でなすがままになる。
 夕子はつ……と爪先を俺の内腿に寄せた。そのまま足先で股間を目指す。
 表情一つ変えずに。
 上体だけ見ればとてもそんないやらしいことをしでかしているようには見えない。マナーを守り、優雅に食事を愉しむ美しい妻にしか。
 でもテーブルクロスの下では、俺の男性自身を足の先で弄りだしている。スーツの上から。
 さすられ、こよられ、俺は吐息をついた。エレクトしてくる。否が応でも。
「感じてきましたね。硬いです。ゆっくりと鎌首をもたげてきてるわ」
 夕子はワインを観賞するソムリエのような口調で俺の一物を言い表した。
「お前がそうさせるんだろう」
 悪い奥さんだ。俺はちらと睨み付けてやる。
「お仕置きされるかしら、後で」
 ほくそ笑む。妖艶さが垣間見える。
「たっぷりとな」
「……愉しみです」
 密やかに呟く。その声で俺はますます勃起する。
 クロスの下、俺を嬲る夕子の足首を捕えた。
ふくらはぎを撫でると、「あ……」と夕子が切ない声を上げた。カトラリーを取り落とす。
静かなレストランに、その音が意外と大きく響いた。
「ごめんなさい、私」
「大丈夫です。お客様、これを」
急いで替えのナイフを持ってきたギャルソンに俺は「勘定を頼む」と告げた。
「もうお帰りでございますか?」
 中座をわずかに咎めるような言い方。俺は彼に目で失礼を詫びた。そして席を立つ。夕子は迷っている風だったが、俺が促すと自分も席を立った。
「ああ。所用ができたもので。申し訳ない」
 とても大事な用事なんだと俺は夕子をエスコートしながら思う。
 胸が逸って仕方がない。


(このつづきは今秋発売予定のオフ本「PARADISE」にて)
購入のご希望のある方は、下から一押しくださると嬉しいです。


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2 コメント

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読書の秋! (たくねこ)
2011-08-20 11:12:00
ええ、この熱いCPは多少涼しくなってからでないと、大変です!
楽しみにしてます!
返信する
清田と吉川ペア (あだち)
2011-08-21 17:23:02
なんだかシリーズものになりそうな予感。
クジラ組のなか、一番オトナカップルですもんね。二次を書くごとにすごく好きになりました。
>たくねこさん
「高科本」お求めまことにありがとうございました。返信いたしました。こまめにオフ本出して、なんだか負担になってたらごめんなさい。みなさま無理のないようにお求めくださいませ。
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