背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

11月8日 彼が生まれた日

2024年11月03日 18時50分00秒 | CJ二次創作
 ジョウが病院に駆けつけた。後ろにタロスとリッキーの姿も見える。
 病室の前でひとり立っていたのは、ダンだった。ジョウを認め、お、という顔になる。片手を上げて出迎えた。
「意外と早かったな」
「そりゃもう、大急ぎで捲ってきた。法定速度ギリギリで。もしも警察から呼び出されたらその時は揉み消してくださいよ」
 で、アルフィンは、子どもはとダンの背後のドアを窺う。珍しく焦りが浮かぶ表情だ。
「お前は物騒なことをさらっと言うな」
 さすがにダンも苦った。
 肩で息をしながらタロスが訊いた。
「おやっさん、赤ん坊はどこです?男でしたか、女でしたか?」
「まるで自分の嫁が出産したかのような慌てぶりだな。ーーそこの新生児室にいるよ、窓ガラスごしだが、見てくるといい。性別もな、見てのお楽しみだ」
 ダンはわざと焦らした。人が悪い。
 聞くなりリッキーが駆け出した。新生児室にダッシュしながら、
「ウヒョー、たっのしみー!兄貴の子ども、男かな女かな、どっちかなー」
「あ、おい待てこら!お前より俺が先だろうどう見ても。ジョウの子どもだぞ」
「うっせー、グダグダ言ってねえで早く来いよ、ご老体!」
「ーーんだとお」
 ギャアギャアいつものようにじゃれあって賑やかに行ってしまう。
 ジョウは出遅れた形となった。二人の背中を見送っていると、ダンが訊いた。
「行かんのか、お前は」
「アルフィンが先だ。難産だったんだろう。アンタから聞いて、気が気じゃなかった」
 まだ硬い声で答えた。
 破水して産気づいたと連絡が入ったのが2日前のことだ。48時間近く、陣痛に耐えアルフィンはやっと数時間前に出産した。
 初のお産には立ち会えなかった。仕事を調整して、予定日にはアラミスに到着しているはずだったが、予定外の横槍が入り、解決が拗れた。それでも何とかかんとかまとめ上げ、始末をつけてミネルバのエンジンがいかれるんじゃないかというぐらいワープにワープを重ねて故郷まで舞い戻った。
 それでも、間に合わなかったーー、悔恨と申し訳なさとでジョウは唇を噛む。
「そんな顔するな、めでたいことだろう?」
 ダンは息子に声をかける。
 ジョウはアルフィンの病室のドアを開けかけた手を止め、父親を見た。
「? なんだ」
「まさかアンタ、俺より先に子どもをーー孫を抱いた、なんてことは」
 恐る恐る尋ねた。
 ダンは虚を突かれて目を見開いたが、すぐにふっとそれを細めた。
「さあな、それもアルフィンに聞くんだな」
「〜〜わかったよ」
 言い置いてジョウは病室に入る。個室だった。枕元にたくさんの花が飾られ、目を閉じてベッドに横になるアルフィンを美しく彩る。
 ジョウは足跡を忍ばせた。そうっとベッドサイドに近寄り、「アルフィン……」と妻の名を呼んだ。
 アルフィンはふと目を開けた。何度か瞬きをし、瞳が焦点を結ぶ。
 顔をジョウの方に倒し、彼を見た。
「ジョウ……、着いたのね。おかえり」
 か細い声でそう言う。
 ジョウは枕元のスツールに腰を下ろしてアルフィンの手を握った。額に額をくっつけて囁く。
「ごめん、間に合わなくてーー。今着いた」
「ううん、いいの。赤ちゃん、見てくれた?」
「いや、まだ。まずは君に会いたかった。陣痛、大変だったろう?長い時間、よく頑張ってくれた」
 ジョウは腹の底から込み上げてくるものを堪えた。アルフィンは彼の声が珍しく震えているのに気づいたが、それには触れずに、
「褒めてくれる?ジョウ。あたし、頑張ったよ。頑張って元気な子を産んだわ。よく泣いて手足もしっかりばたつかせる健康児だって、お医者様も褒めてくださったのよ」
そう言ってかすかに微笑んだ。
「アルフィン」
「ジョウ、会ってあげてね。あの子にーーそして、抱っこしてあげて。看護師さん以外、あたししかまだ抱いてないのよ。あなたの到着を待ってたの」
「……わかった」
「男の子よ、あなたそっくりの。見てやって」
「男か」
「嬉しい?」
「もちろん。男でも女でも嬉しかったよ。元気なら俺はそれで」
 ジョウはアルフィンに口付けた。そおっと。
「あと一つ、伝えなきゃ。誕生日おめでとう、ジョウ」
 言われるまで気がつかなかった。
「今日って11月8日か。あれ?もしかして」
 ついさっきまで宇宙星域を駆け回っていたから、世界標準時が混乱している。そんな彼を見上げてアルフィンが笑う。
「そうよ、すごい偶然でしょう。嘘みたいなほんとの話。こんな奇跡ってある? あなたと同じ日に生まれたのよ。あなたを待ってたのね、私のお腹の中で」
 難産だったけど、許しちゃうわと嬉しそうに微笑む。
「アルフィン……」
 たまらずジョウがアルフィンの胸元に顔を伏せた。こんなに嬉しい誕生日プレゼントをもらったのは初めてだ。掠れる声で、やっとのことそれだけ絞り出すように言った。
 ありがとうと言うジョウの頭をアルフィンは何度も撫でた。ジョウがそれから新生児室へと向かい、初めての自分の子どもをおっかなびっくり抱き上げるまでにはまだ少しの時間を有した。

ーーハッピーバースデー、ジョウ&タクマーー

end

今年のJ誕二次はいつもと趣向を変えてみました。
タクマの誕生日、公式に発表ないよな、と思いながら。こーゆー設定のSSもありかと。

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1 コメント

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Unknown (toriatama)
2024-11-04 20:14:57
今年もJ誕に新作が読める幸せ。おやっさんとJ君のやりとりに笑いました。やきもち焼きめ!
ありがとうございました。
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