何とも言えないいい匂いに包まれ、彼は目を醒ました。
なんだろう。この香り。食べ物や、植物とかじゃない。もっとこうあっかい感じの、いつも身近にある…。
ジョウは寝返りを打つ。と、柔らかな感触。
思わず腕に抱きしめる。いい匂いに惹きつけられるように。
あ、
これは……。
記憶が、意識の底で瞬いた。
覚醒する。眠気がすうっと晴れていく。
そして目を開け、仰天した。
同じベッドに、アルフィンが眠っている。
ジョウが抱きしめていたのは、他でもないアルフィンの身体だった。
髪と肌に密着している。どおりでいい匂いがするはずだ。
ジョウは一気に眠気が吹き飛ぶのを感じた。
とたんに鈍器で殴られたような激痛を頭に食らう。
「うっ」
思わず頭を押さえると、腕が当たったのかアルフィンがうーんと声を漏らして目を覚ました。
何度か瞬きをして瞼を開ける。碧眼がジョウを捉えた。
ぱちり。
目を見開く。ジョウは息を呑んだ。
「ーー」
声が出ない。
出せない。お互い。
「あ……、あたし」
アルフィンもまともに頭が働いていない様子だ。辛うじて自分が衣服を身に着けているのを確認する。
ジョウはずきずき痛む頭を押さえながらベッドの端に身体を寄せた。なるべくアルフィンと距離を置く。
アルフィンはなぜか動じた様子は見せず、乱れた髪を手で直して、少しはにかんで「おはよ」と言った。
おはよう、そう返す自分の声が震えているようでみっともない。
ジョウは必死で頭痛を振り払おうとかぶりを振った。そして、
「ええと、その.…あの、俺さ。………昨夜、君に何かした? なんで君が俺のベッドで寝てるわけ?」
とアルフィンの逆鱗に触れる台詞を口にした。
銀河連合主席暗殺計画を未然に防ぎ、同時に殺人容疑の濡れ衣も晴らしたが、ジョウは荒れ狂った。
父娘であるダンにひよっ子呼ばわりされたことが、よっぽど腹に据えかねたらしい。
彼にしては珍しく深酒をし、管を巻けるだけ巻いた。
そんな荒れ模様のジョウに最後までつきあったのはアルフィンだった。
親父がなんだってんだ、畜生、今に見てろとろれつの回らなくなった口で同じことを延々と繰り返すジョウを、うん、うん、そうだよね、分かる、と相づちを打ってなだめた。
いつもは前後不覚になるのはアルフィンのほうだったけれど、今宵潰れたのはジョウの方で、まともに歩けなくなるほど泥酔した。
そんなジョウに肩を貸してアルフィンがリビングから彼の個室まで連れて行った。
「ほらあ、ジョウ、しっかり歩いてよう。じきにあなたの部屋だから」
「んー、うん」
「あぶないってば、そっち、壁!」
「ああ? そうか?」
「ほら、着いた。ベッドに下ろすわよ。いーい?」
どさっとジョウの身体をベッドに横たえる。男の人を運ぶだけでも大仕事だ。
よいしょ、と立ち上がりかけたアルフィンの手をジョウがすばやく引いた。
「あん」
「アルフィン、今夜は一緒に寝よう。このままここで」
ショウの腕に取り込まれて、アルフィンは硬い身体に押しつぶされそうになった。
「いや.。重い、ジョウ」
冗談よして。そう言うと、
「冗談なもんか。こうして眠りたい。いいだろ」
と更に腕に力を込める。
アルフィンはぼうっとかすむ頭で、
「……酔っぱらった勢いとかやだかんね、あたし」と返した。
「んー?」
「ジョウってばあたしのことどう思ってるの? あたしにちゃんと言ってくれたことないわよね」
彼の腕の中から訊いてみる。もちろんダメモトで。
「好きだよ」
なのにあっさり返事が、ーーずっと欲しくて聞きたくて堪らなかった答えが返ってきたので耳を疑う。
にわかには信じられない。それぐらいの理性は残されていた。
酒に呑まれても。
「....…ほんと?」
素で聞き返す。ジョウは、アルフィンを抱きしめ直して「本当、すげえ好き」と繰り返した。
アルフィンは嬉しさ半分、疑い半分という複雑な気持ちで、彼の背に手を回す。
「なんで、今までそういうこと、言ってくれなかったのよ?」
「照れくさいからに決まってるだろお、言えっかよ、ンなこと……」
むにゃむにゃ。
睡魔に囚われかかったジョウの口調は基だ怪しい。
アルフィンはそこで会話を終わらせたくなかった。ジョウの本心を聞くチャンスだ。
こういうやり方はフェアじゃないとしても、本心かどうか、怪しいとしても、聞きたい。
アルフィンは言葉を重ねる。
「ほんとに好き? どこが好き?」
「全部だよ。ぜーんぶ」
あっさり告白。
「.…ジョウ」
「外見も中身も全部好み、こんな女の子、他にいない……。
それだけじゃない。アルフィンは俺にとって幸運の女神なんだぜ、知ってるか。君と出会ってから、俺はツいてる、ほんとそう思う」
「? なんのこと?」
「今回のことだってさ、結局アルフィンがあそこでバッグを落としてくれたから、親父たちが証拠のテープを見れた訳で、一気に容疑が晴れた。
それだけじゃない。アルフィンが俺のところに来てくれてから、全てがこわいくらい順調に運んでいるんだ」
アルフィンはびっくりして声を失った。
まさかジョウがそんな風に考えていてくれただなんて、思ってもみなかった。
ジョウは抱き枕よろしくアルフィンを抱きしめなおした。ぎゅっと。
「側にいてくれ。頼む。大事にするから。
俺の全身全霊で大切にするからさ。ずっとここにいて....…」
俺の側に。
後はまともな言語にならなかった。
ジョウはそのまま寝落ちした。ぐうぐうといびきを掻き始めた。
ジョウに押しつぶされながら、アルフィンはそっと涙ぐんだ。
こんな告白ってあり? 朴念仁のジョウの口からこんな最高にロマンチックな愛の言葉が出るなんて。
思ってもみなかった。
たとえそれがべろんべろんに酔っ払った挙句、ベッドに連れ込まれたタイミングでされたとしても。
信じられないくらい、幸せ。
今夜はここで一緒に眠るね、ジョウ。
アルフィンはぐうぐう眠るジョウの身体を抱いて、目を閉じた。
まさか、告白したその日にへんなこと、しないよね。
ねえ、起きたらまた言って、今度は素面のときに、聞きたい。今の言葉。
お願いね。
おやすみ。
そう思って、乙女ちっくに眠りについたのに。
起きたら開口一番、なんで君がここにいるんだ? ですってえ???
ふざけんじゃないわよ~~~ったくもお~~~、ジョウなんか、ジョウなんかねえ!
「大っつつつっ嫌い!!!」
しばらくアルフィンはおかんむりで、一難去ったくミネルバ>にまた嵐が吹き荒れた。
彼女が怒っている原因が、自分が寝ている間何か彼女にしでかしたからだと信じ込み、ジョウは激しい自己嫌悪に陥った。
告白をすっかり忘れた罰として、アルフィンはジョウの誤解を解くのはずうっと先のことにしてやった。
fin.
男女の仲で大嫌いは逆の意味。
というのをジョウはまだ知りません。。。
⇒pixiv安達 薫
なんだろう。この香り。食べ物や、植物とかじゃない。もっとこうあっかい感じの、いつも身近にある…。
ジョウは寝返りを打つ。と、柔らかな感触。
思わず腕に抱きしめる。いい匂いに惹きつけられるように。
あ、
これは……。
記憶が、意識の底で瞬いた。
覚醒する。眠気がすうっと晴れていく。
そして目を開け、仰天した。
同じベッドに、アルフィンが眠っている。
ジョウが抱きしめていたのは、他でもないアルフィンの身体だった。
髪と肌に密着している。どおりでいい匂いがするはずだ。
ジョウは一気に眠気が吹き飛ぶのを感じた。
とたんに鈍器で殴られたような激痛を頭に食らう。
「うっ」
思わず頭を押さえると、腕が当たったのかアルフィンがうーんと声を漏らして目を覚ました。
何度か瞬きをして瞼を開ける。碧眼がジョウを捉えた。
ぱちり。
目を見開く。ジョウは息を呑んだ。
「ーー」
声が出ない。
出せない。お互い。
「あ……、あたし」
アルフィンもまともに頭が働いていない様子だ。辛うじて自分が衣服を身に着けているのを確認する。
ジョウはずきずき痛む頭を押さえながらベッドの端に身体を寄せた。なるべくアルフィンと距離を置く。
アルフィンはなぜか動じた様子は見せず、乱れた髪を手で直して、少しはにかんで「おはよ」と言った。
おはよう、そう返す自分の声が震えているようでみっともない。
ジョウは必死で頭痛を振り払おうとかぶりを振った。そして、
「ええと、その.…あの、俺さ。………昨夜、君に何かした? なんで君が俺のベッドで寝てるわけ?」
とアルフィンの逆鱗に触れる台詞を口にした。
銀河連合主席暗殺計画を未然に防ぎ、同時に殺人容疑の濡れ衣も晴らしたが、ジョウは荒れ狂った。
父娘であるダンにひよっ子呼ばわりされたことが、よっぽど腹に据えかねたらしい。
彼にしては珍しく深酒をし、管を巻けるだけ巻いた。
そんな荒れ模様のジョウに最後までつきあったのはアルフィンだった。
親父がなんだってんだ、畜生、今に見てろとろれつの回らなくなった口で同じことを延々と繰り返すジョウを、うん、うん、そうだよね、分かる、と相づちを打ってなだめた。
いつもは前後不覚になるのはアルフィンのほうだったけれど、今宵潰れたのはジョウの方で、まともに歩けなくなるほど泥酔した。
そんなジョウに肩を貸してアルフィンがリビングから彼の個室まで連れて行った。
「ほらあ、ジョウ、しっかり歩いてよう。じきにあなたの部屋だから」
「んー、うん」
「あぶないってば、そっち、壁!」
「ああ? そうか?」
「ほら、着いた。ベッドに下ろすわよ。いーい?」
どさっとジョウの身体をベッドに横たえる。男の人を運ぶだけでも大仕事だ。
よいしょ、と立ち上がりかけたアルフィンの手をジョウがすばやく引いた。
「あん」
「アルフィン、今夜は一緒に寝よう。このままここで」
ショウの腕に取り込まれて、アルフィンは硬い身体に押しつぶされそうになった。
「いや.。重い、ジョウ」
冗談よして。そう言うと、
「冗談なもんか。こうして眠りたい。いいだろ」
と更に腕に力を込める。
アルフィンはぼうっとかすむ頭で、
「……酔っぱらった勢いとかやだかんね、あたし」と返した。
「んー?」
「ジョウってばあたしのことどう思ってるの? あたしにちゃんと言ってくれたことないわよね」
彼の腕の中から訊いてみる。もちろんダメモトで。
「好きだよ」
なのにあっさり返事が、ーーずっと欲しくて聞きたくて堪らなかった答えが返ってきたので耳を疑う。
にわかには信じられない。それぐらいの理性は残されていた。
酒に呑まれても。
「....…ほんと?」
素で聞き返す。ジョウは、アルフィンを抱きしめ直して「本当、すげえ好き」と繰り返した。
アルフィンは嬉しさ半分、疑い半分という複雑な気持ちで、彼の背に手を回す。
「なんで、今までそういうこと、言ってくれなかったのよ?」
「照れくさいからに決まってるだろお、言えっかよ、ンなこと……」
むにゃむにゃ。
睡魔に囚われかかったジョウの口調は基だ怪しい。
アルフィンはそこで会話を終わらせたくなかった。ジョウの本心を聞くチャンスだ。
こういうやり方はフェアじゃないとしても、本心かどうか、怪しいとしても、聞きたい。
アルフィンは言葉を重ねる。
「ほんとに好き? どこが好き?」
「全部だよ。ぜーんぶ」
あっさり告白。
「.…ジョウ」
「外見も中身も全部好み、こんな女の子、他にいない……。
それだけじゃない。アルフィンは俺にとって幸運の女神なんだぜ、知ってるか。君と出会ってから、俺はツいてる、ほんとそう思う」
「? なんのこと?」
「今回のことだってさ、結局アルフィンがあそこでバッグを落としてくれたから、親父たちが証拠のテープを見れた訳で、一気に容疑が晴れた。
それだけじゃない。アルフィンが俺のところに来てくれてから、全てがこわいくらい順調に運んでいるんだ」
アルフィンはびっくりして声を失った。
まさかジョウがそんな風に考えていてくれただなんて、思ってもみなかった。
ジョウは抱き枕よろしくアルフィンを抱きしめなおした。ぎゅっと。
「側にいてくれ。頼む。大事にするから。
俺の全身全霊で大切にするからさ。ずっとここにいて....…」
俺の側に。
後はまともな言語にならなかった。
ジョウはそのまま寝落ちした。ぐうぐうといびきを掻き始めた。
ジョウに押しつぶされながら、アルフィンはそっと涙ぐんだ。
こんな告白ってあり? 朴念仁のジョウの口からこんな最高にロマンチックな愛の言葉が出るなんて。
思ってもみなかった。
たとえそれがべろんべろんに酔っ払った挙句、ベッドに連れ込まれたタイミングでされたとしても。
信じられないくらい、幸せ。
今夜はここで一緒に眠るね、ジョウ。
アルフィンはぐうぐう眠るジョウの身体を抱いて、目を閉じた。
まさか、告白したその日にへんなこと、しないよね。
ねえ、起きたらまた言って、今度は素面のときに、聞きたい。今の言葉。
お願いね。
おやすみ。
そう思って、乙女ちっくに眠りについたのに。
起きたら開口一番、なんで君がここにいるんだ? ですってえ???
ふざけんじゃないわよ~~~ったくもお~~~、ジョウなんか、ジョウなんかねえ!
「大っつつつっ嫌い!!!」
しばらくアルフィンはおかんむりで、一難去ったくミネルバ>にまた嵐が吹き荒れた。
彼女が怒っている原因が、自分が寝ている間何か彼女にしでかしたからだと信じ込み、ジョウは激しい自己嫌悪に陥った。
告白をすっかり忘れた罰として、アルフィンはジョウの誤解を解くのはずうっと先のことにしてやった。
fin.
男女の仲で大嫌いは逆の意味。
というのをジョウはまだ知りません。。。
⇒pixiv安達 薫
あげまんアルフィン💕私もあやかりたい~😁
男女の機微はジョウが乗り越えなきゃいけない試練かな(笑)
でも女はそれをしらふで言って欲しい生き物な訳です。ジョウはほんとの意味で「ミネルバ」知の女神を手に入れてるわけです。