「ねえ、ポッキーゲームってどんなの?」
ぽり、とそれを齧りながら、アルフィンが尋ねた。
袋菓子を開けて、中から一本取りだして咥えている。わりと蓮っ葉なしぐさだがとてもキュートだ。リビングで動画を見ていたジョウは、これって惚れた弱みじゃないよな。誰が見ても可愛いよなと思いつつ、
「……急にどうした?」
と訊き返した。
アルフィンが答えた。
「こないださ、みんなでバーで飲んだじゃない? アルコールの付け合わせに、氷に冷やされたポッキーグラスが出てきたのよね。そしたらその時、隣にいたタイラーがあたしに言ったの。アルフィン、俺とポッキーゲームしないかって。 あの時、あたし酔ってて何を言われてるか分からなかったから、それよりもう一杯飲もうよう、ってはぐらかしたんだけど」
ポッキーゲームって何だったのかなあって、とぽりぽり齧りながら呟いた。
あいつ……。ジョウは眉間にしわを刻んで苦った。
アルフィンは育ちがいいので、そういった俗世間のもろもろに疎い。それを見越して、タイラーは持ちかけたのだとジョウは予想した。
俺がちょっと目を離した間に、アルフィンにそんな誘いをもちかけてたのか。ったく。油断も隙も無い奴だぜ。
ジョウがムスッと機嫌の悪い顔をしたので、アルフィンは首を傾げる。
「なあに? なんか、やばいゲームだった?」
「やばいっていうか……。いや、いい。別に君は知らなくてもいい」
男女のいちゃこらゲームだとは口にしたくない。同期が、君にコナをかけたんだってことも今更蒸し返して説明したって意味がないと思った。
アルフィンはでも納得しない。
「なんで? ねえ、そんなのないんじゃない? 知らなくていいことなんて、この世に一個もないはずよ」
「正論がいつも正しいとは限らない」
「じゃあいいもん。リッキーかタロスに訊くから」
「おいまてまてまて」
ソファから腰を上げかけたアルフィンの腕をとっさに掴んだ。どすんと座面にもう一度座らせる。
「わかった。教える。ちゃんと聞けよ?」
アルフィンに正面から向き直ってジョウは言った。怖いくらい真剣な目をしていたので、アルフィンは思わず居住まいを正す。
「う、うん」
「ポッキーゲームってのはな、異性の相手にポッキーを先っぽから食べさせてやるゲームだ」
大真面目にジョウが言った。
「そうなの? それだけ?」
アルフィンは肩透かし。何だあという顔になる。
「そうだよ。でも、相手の指ぎりぎりまで食べて行って、触れたらダメなんだ。負け。目を逸らしても負けだ」
「ふーん。大したことないのね、身構えて損しちゃった」
しめしめ……。ジョウは内心ごっつりする。
変なルールをでっちあげて、だました。若干心苦しい気もするが、とてもじゃないが、正規のルールを教えてやる気にはならない。あの時のタイラーの意図を彼女に知らせるのは業腹だ。
「じゃあ、やろう、ジョウ。丁度ここにポッキーがあるわけだしさ」
アルフィンは気安く提案した。
「え?」
彼女はチョコがまぶしてある細身のポッキーを袋から一本取り出し、にゅっと彼の目の前に突き出して見せる。そして、
「ジョウが持つ役? それとも食べる役? どっちをやる?」
と世にも無邪気な笑顔と共に、ゲームに誘うのだった……。
結果。ジョウの負け。
初めは、持ち手役の方を選んだのだが、アルフィンが青い目でじいっと彼を凝視して、ぽり、ぽり、と端っこから齧り出す、その口のすぼまりがなんともエッチに思えてきて、うわあとたまらず手を引いてしまった。
続けて、咥える方の役をやった(やらせられた)のだが、これも、恐る恐る齧っていってアルフィンの指に口が触れてしまい。撃沈。
どっちもジョウの負けと相成ったのだ。
アルフィンはご満悦でけらけら笑った。
「ジョウってば、ポッキーゲーム弱いわねえ」
自慢げに言う彼女に、ジョウは本来のポッキーゲームをさせてやろうかと一瞬思う。でも、あの晩バーでタイラーとそれを始めなくて本当によかったと胸を撫で下ろしたので、「弱いよ、悪いか」と不貞腐れたテイを装うに済ませた。
二人が本来のルールでポッキーゲームをするのは、恋人同士になってからのことだ。
「なんであのとき嘘ついたのよう」
アルフィンがそんな風に抗議したら、ジョウはしれっと答えた。
「そんなの、タイラーに嫉妬したからに決まってるだろ」と。
END
1111に一日早いですが更新です。
おかげ様で,全快です。しかし、無理はできない年齢になったのう。。。としみじみしてしまいましたよ。
終末は状況予定なので、向こうでウイルスや何やらに罹らないように手洗いうがいを気を付けます。最近、気が緩んでいましたからね。。。反省
タイラー、イイぞ!と思いましたが姫にかわされちゃいましたね。残念。
7巻の事を考えるとせめてポッキーゲームでいい思いさせてあげたくなっちゃいました。
全く関係無いですが私はビターチョコかいちごポッキーが好きです…。明日買いに行こうかな。