視線を感じた。
テーブル越しに、頬杖をついたジョウがじっと見ているのにアルフィンは気づいた。
「なあに? 何かついてる?」
食べかけのハンバーガーを置いて、口周りを手で押さえた。ソースとかついてるのかしら。やだ……
「いや、アルフィン、食べてるところきれいだなって思って。姿勢がいいのかな、手先まで気が行き届いているっていうか」
すまん。と少し照れた様子で自分もコーラをすすり、食事を続ける。無意識だったと見える。
「ああ、わかるよ。なんだか目がいっちゃうんだよねーしぐさとか」
リッキーがもぐもぐとバーガーを頬張りながら同意した。
彼は前歯が特徴的なので、そんな風に咀嚼しているとどこかしらリスのようなげっ歯類の動物を連想させる。
「そお?」
「ばーか。そりゃあ所作がきれいだって言うんだよ。アルフィンはお姫さまだからな、ガキん頃からテーブルマナーとか水を浴びるようにきっちり身につけさせられてきてるんだ。当たり前だよ」
ビッグバーガーをこともなげに二つ平らげたタロスが言った。
「ガキって(笑)。お姫様をつかまえて、言い方」
リッキーが笑う。
アルフィンは食事を再開しながら言った。
「まあ、確かにわりと口うるさく躾けられた記憶はあるわ。お父様にもお母様にも、お付きの者たちにもね。外国の来賓と食事をしてもてなす機会が多かったから。そのおかげかしら」
「なるほど」
「しってる? こういうハンバーガーにもナイフとフォークで食べる手順があるってこと」
「ええ? そうなの」
そうよう、とアルフィンは紙ナフキンを皿に見立てて、食べかけのモノを置き、バンズを外した。そこにエアーでナイフフォークを握るふりをして、こうやって刃を入れてねと実演してみせた。
他の3人はほおおと興味深そうに彼女の手元に目をやる。ちまちまとバーガーのパーツを角に切り取って口に運ぶ様子(ふり)を見て、
「ちっともおいしそうじゃないね、そんな風にお行儀よくすると」
リッキーがあけすけない感想を伝えると、アルフィンは大仰にうなずいた。
何度も。
「でしょー? マナーは相手を不快にさせない程度で守られれば十分だと思うの。個人的な考えとして。ぜったいバーガーはこうやって食べる方が美味しいもの」
言ってアルフィンはまたバンズを載せ直して、両手で持ち、ぱくっとありついた。
もぐもぐしながら「おいし~い」と顔をほころばせる。
「全面的に賛成」
「食事ってのはどうやって食うのかとかよりも誰と食うのかってほうが、美味い不味いに影響するよな、けっこう」
んん? とタロスがウインクをする。
「言えてる」
「さすがは年の功」
「美味しいね。ピザンではこんな風にバーガーショップにぶらっと立ち寄るとかできなかったから。嬉しい」
無邪気に、美味しそうに食事を楽しむアルフィン。
彼女を優しい目で見つめながら、ジョウがふと右手を持ち上げた。
唇の横辺りに指先を滑らせて、「アルフィン、ケチャップついてるぞ」とそっとそれを拭ってあげた。
END
潜在的に食べたかったから書くのか、話を書くうちに食べたくなるのか。。。。謎です。
貴殿の描いて下さった続きが、本当にありそうですね。にこにこして読みました。
ごちそうさまです。クアアイナ食べたくなりました。