「何で女の人は、そんなに踵の高い靴を履くんだい?」
オフの日のデートに、8センチはあろうかというピンヒールでおめかしして登場したアルフィン。
いつもと目線の位置が違うから、違和感を覚えたジョウが、そう尋ねた。
「ジョウ、順番が逆」
むう、と膨れてアルフィンが言う。
「逆?」
「いつも可愛いけど、今日は特に素敵だね。俺と出掛けるのにオシャレしてくれて嬉しいよ」
まるでAI音声のように平坦な声で言うからジョウは慌てた。そうか、質問より先に感想ね、賞賛が先ね。
出かける前に機嫌を損ねられては敵わない。
アレンジも加えず、ジョウは馬鹿正直に繰り返してから、再度「ーーで、なんで高いヒールの靴を履くんだ。歩きづらそうなのに」と訊く。
アルフィンはやれやれと肩をそびやかす。そんなの決まってるじゃないとでも言いたげに。
「高いヒールのほうが脚がきれいに見えるしスタイルも良く見えるからに決まっているじゃない。お尻の位置も高くなるし、少しでも美しく見られたい女心よ」
言われてジョウは改めてアルフィンの姿を見つめる。ミニのワンピから太ももとスラリと美脚が覗いている。普段から健康的な魅力を振り撒くアルフィンだが、今日は格別だった。
確かに、と納得しつつ「でも足だって痛いだろ、そんなに高くて細い踵じゃ」と深追いするからアルフィンはずっこけた。
「んもおおお、鈍いわねえ、もちろん歩きづらいわよ?危ないわよ?でもそれは気合いで乗り切るの。いーい、ジョウ、おしゃれは気合い! きれいに見られるためなら、少しくらいの辛さや我慢はどんとこいって心意気なのよ」
鼻息も荒い。
ジョウは気おされた。そ、そうかと声が掠れる。女の人って大変なんだなぁ。足が痛くても踵がある靴を履いたり、果ては出産とかもあったりするもんなー。
と、思っていた矢先にアルフィンが何かに蹴つまずき、ぐらっと身体がかしいだ。
「あ、」
「おっと」
咄嗟に手を伸ばし、アルフィンを支える。ジョウの腕に捕まって、あ、ありがとと言った。
「いや、やっぱりヒール高いと危ないんじゃないか。出かける前に替えてきたら」
「ううん、いいの。そうならないために、手を貸してね、ジョウ」
言ってアルフィンは彼の腕にするりと腕を絡める。
とびきりの笑顔をジョウに向け、行こうと促す。
「あ、ああ」
ジョウは歩を進めながら、そうかと得心した。
そっか……女の人のヒールの高い靴にはこういうメリットもあるんだな。
彼女の足元を気遣いながら、一日ジョウはアルフィンをエスコートした。
end