あなたの考えていることが
手に取るようにわかったらいいのにね
12月も半ばを過ぎた頃、夕食の支度を待つ時間帯にふとジョウが思いついたように訊いた。
「クリスマス、何か欲しいものはないか? アルフィン」
キッチンで料理の仕込みをしていた彼女は思わず手を止めた。
まじまじと肩越しに彼を見る。
出し抜けに、予想もしていなかった質問が来たから取り繕えなかった。素できょとんとしていた。
そんなアルフィンに言い訳するように、
「いや、こないだの俺の誕生日、腕を振るってたくさんごちそう作ってもらったからさ。何かお返ししたいと思って。だめかな」
ジョウが頭の後ろを掻きながら言った。
確かに先月の彼の誕生日には、とっておきのレシピでローストチキンを焼いたり、焼き菓子を作ったりした。手の込んだ、家庭でのパーティ料理とは思えないほどの品揃えで彼をお祝いした。
そのお返しをしてくれるとの申し出なのだった。ようやく理解したアルフィンは、
「だ、だめじゃない!うれしい!」
かなり食い気味で言葉を返した。拳を握って胸の前でぶんぶんと振ってみせる。
「そ、そっか」
ジョウはほっとした。アルフィンは顔をほころばせる。
「嬉しいなあ。クリスマスの、っていったら特別よね。何でもいいの?」
自分からおねだりしたのではなく、ジョウから切り出してくれたことがまず嬉しい。
今年のクリスマス、ロマンティックに過ごせたらいいなあと思っていたところだった。特別なプレゼントなんかもらって・・・・・・と。自然、心も浮き立つ。
「まあ、うん。俺が買える範囲なら」
ジョウは頷いた。
「あなたが買えないものを挙げる方が難しいわ」
「そうかな。 で、何か欲しいものはって話だけれども。どうなんだ?」
改めて訊かれる。アルフィンは少し迷って、でも、間をさほどおかずに言った。
「うん。もしもジョウからもらえるんなら、身につけるものがいいなって、実は前から思ってたの。――だめ?」
そう言って、一番愛らしく映る角度に小首を傾げてジョウを目線で救いあげる。
ジョウは、「だ、だめじゃない」とどぎまぎして返した。見る間に、顔が赤くなる。
アルフィンはぱあっと顔を輝かせて、
「じゃあ指輪がいい。できればペアリングがほしい」
胸の前で両手をぎゅっと組み合わせてジョウに迫る。
「ペ、ペアリング」
ジョウはアルフィンの迫力に押されてたじたじとなった。そんな彼にはお構いなしに、アルフィンはたたみかける。
「そう。おそろいの指輪がいいなあ~。お守りみたいにいつも着けるの、ここに」
左指の付け根を指す。
「そうしたら気分も上がって仕事もばりばりこなして、もう一流のクラッシャーまっしぐらって感じになると思うのよね」
「そ、そうなのか」
「そうよ、ペアリングにはそういう効果があるのよ。絶大なね」
指輪一つでクラッシャーランクが上がるんなら、こぞってみんな嵌め出すだろうと、そんな言葉を呑み込むだけの分別はジョウにもある。
背中に羽が生えて飛び立つんじゃないかというアルフィンの盛り上がりっぷりに、水を差すようで気が引けたが、意を決してジョウは言った。
「いや・・・・・・ごめん。俺は指輪はしない。っていうか、できない」
え。
それを聞いたアルフィンは、急に表情を失って、紙のように白い顔になった。
あ。まずい。
と思ったが後の祭り。きゅっと眉間にしわが寄り、美しい碧眼に陰が差した。
「な、なんで」
「いや。君がするのはいい。っていうか、指輪を贈るのはイヤじゃない。
ペアリングが・・・・・・ちょっとってだけだ。とにかく俺は指輪をするのはだめなんだ。ほら、わかるだろう。仕事でライフルとか扱うから指輪なんかしてたら感覚が狂うんだよ。実戦の時その感覚のずれっていうか誤差は命取りになる気がする」
「指輪、なんか」
アルフィンが硬い声を発する。
でもジョウは説明するのに必死でそれには気づかない。
「昔ファッションリングしたとき、違和感があったんだよ。着けて銃を持ったとき、いつもと違っておかしかった。だから指輪以外なら、――いや、ペアじゃなく、君だけにあげるものを選ぶっていうのは、どうかな」
ジョウの説明をじっと聞いていたアルフィンだったが、明らかに失望した様子が見て取れた。
さっきまでのハッピーオーラがすっかり消えてしまっている。
「ペアじゃなく、あたしだけ」
と、繰り返したその顔を見て、ジョウは完全に自分がしでかしたことを悟った。
ダイニングの椅子から腰を浮かしてアルフィンに詰め寄る。
「ごめん。俺、そんなつもりじゃなく」
「せっかくプレゼントくれるってあなたから言ってくれたのに。――嬉しかったのに、どうしてそんな風に言うの?」
ぶすっと口を尖らせて非難がましい目を向ける。その目は涙でいっぱいになっていた。
ジョウがこの世でいちばん苦手なものだ。怒らせた彼女。泣き出しそうな彼女。
「あ、いや、それは」
「だまってペアで買ってくれて、自分のは指に嵌めなくてもペンダントにでもすれば丸く収まるのに。どうして、どうしてそんな風に言うの。ジョウってばだいなし!」
「あ」
口がぱかっと開くのが自分でもわかった。そうか。確かにそう言えばこんな事態にはならない。
そうか、なるほど。と今更ながらに納得している自分を、恨めしげに睨んでいるアルフィンの顔が間近にある。
慌ててジョウは口を閉じた。真顔になってアルフィンに向き直る。
「ペ、ペアリング、いいじゃないか。買おう。君の好きなデザインのやつを」
「――もういい! そんな無理矢理感満載のプレゼントなんて要らないもん!」
喚いて、わっと顔を両手で覆ってしまう。ひどく芝居がかった仕草だった。
でも本当に泣き出したのかと思い、ジョウは腰が引けた。慰めていいのかどうか、はかりかねる。
アルフィンは俯いたままだ。顔を上げない。
ジョウはすっかり困ってしまい、立ち尽くした。
ややあって、すん、と鼻を啜る音がして「ごめん」と蚊の鳴くような声が聞こえた。
手で顔を覆ったままのくぐもった声で、
「イヤな言い方したわ。ごめんなさい。――わかってるの。あなたに悪気がないってこと。指輪が仕事上嵌められないっていうのもわかってる。全部あなたの言うとおり。ちょっと、拗ねただけ。ペアでしたかったから。だからいま言ったのは本心じゃないからね」
アルフィンはもう一度ごめんなさいと詫びる。
ジョウは天を仰いだ。ああ、と目を閉じる。
そして、そおっとアルフィンの肩に腕を回し、自分のほうへ引き寄せた。
「・・・・・・」
アルフィンはジョウの腕に素直に囲われた。仲直りの時間が訪れたことを知る。
しばし、そのままの態勢でいたけれど、
(ごめん)
とジョウの声がした気がしたので顔を上げた。
でもジョウは自分を腕の中に閉じ込めたままだった。彼の体温が頰にじんわりと伝わる。
「?」
気のせいだろうか。そのままじっとしていると、
(ごめん。――ごめんアルフィン)
また彼の声が聞こえた。
(俺は、なんで・・・・・・。もっとスマートにできないんだ)
(ただ喜ばせたかっただけなのに。クリスマスだから、君に贈り物をって、それだけなのに)
(あんな言い方、確かにしなくてもよかったんだよな。・・・・・・ほんとに自分で自分がイヤんなる)
奔流のように、悔恨の思考が流れ込んでくる。
そう、それは声ではなく、ジョウの思いそのものだった。
触れた頰、耳元のあたりでから、じんわり熱を伴って体温を通して身体に伝わってくる感じ。
・・・・・・?
アルフィンは少し彼から身を離してみた。と、そうすると、何も感じない。
試しにもう一度ジョウにぴとりと身を寄せると、また、
(泣かないでくれ。俺は君に笑ってほしかっただけなんだ)
(君が欲しいんなら何でもあげるから。指輪――ペアリングでも何でも)
思いがダイレクトに脳に伝わった。
アルフィンは思わず声を上げそうになった。衝撃が大きくて、脚が震える。
うそ。――うそ!
あたし・・・・・・聞こえてる。ジョウの心の声が。
なんなの。これ。何の魔法?
がばっと顔を上げてジョウを見る。間近で目と目が合った。
「? どうした?」
ジョウが怪訝そうな表情でアルフィンを覗き込んだ。
「う、ううん」
かぶりを振って、どきどきと高鳴る心臓を押さえた。落ち着いて、と自分に言い聞かせる。
もう一度ジョウを見上げてアルフィンはしがみついてみた。
正面からぎゅっと抱きつく。
「おっ」
予想外のアルフィンの反応にジョウは戸惑った。
でも、機嫌が直ったのかなと幾分表情が和らぐ。自分にしがみつくアルフィンの背をぽんぽんとあやしてやる。
(よかった。・・・・・・さっきの、もう怒ってはいないんだよな?)
やっぱり聞こえる。心の声が。
触れると聞こえる。――離れると、聞こえなくなる。
そういう仕組みになっている?
アルフィンは動揺はしていたけれど、頭は働くようになった。何かを確かめるように、よりいっそう彼にしがみついた。
「お、おい。どうした」
ジョウの困惑した声。
それと同時に、
(可愛い。――可愛いなほんとに)
(こんなにぎゅっとしがみついて、いじらしいっていうか。・・・・・・めちゃくちゃ可愛い。愛しい)
(さっきは下手を打ってがっかりさせてごめん。何でもあげたい。君が欲しいのは、なんでも)
(俺があげられるのはなんでもやるから、もうあんな顔するな)
(っていうか、させない。ごめんな)
ダダ漏れ。
うそ。うそうそうそうそ。
アルフィンの心臓がばくばくと拍動する。体中の血流が大きな波みたいに脈打っている。
信じられない。けど、
でも、これって。現実に実際に起こってること。
――魔法にかかった。かけられた。
聞こえる。彼の声が。
ジョウの心の声が、聞こえる。
彼は自分の思考が筒抜けになっているとも知らず、いっそうアルフィンを腕の中に囲った。
頭を手のひらで包むように撫でる。
(ほんとに可愛い。こんな可愛い人、いないよ)
「・・・・・・!」
アルフィンは腰からくだけそうになり、いっそう彼にきつくしがみついた。
手に取るようにわかったらいいのにね
12月も半ばを過ぎた頃、夕食の支度を待つ時間帯にふとジョウが思いついたように訊いた。
「クリスマス、何か欲しいものはないか? アルフィン」
キッチンで料理の仕込みをしていた彼女は思わず手を止めた。
まじまじと肩越しに彼を見る。
出し抜けに、予想もしていなかった質問が来たから取り繕えなかった。素できょとんとしていた。
そんなアルフィンに言い訳するように、
「いや、こないだの俺の誕生日、腕を振るってたくさんごちそう作ってもらったからさ。何かお返ししたいと思って。だめかな」
ジョウが頭の後ろを掻きながら言った。
確かに先月の彼の誕生日には、とっておきのレシピでローストチキンを焼いたり、焼き菓子を作ったりした。手の込んだ、家庭でのパーティ料理とは思えないほどの品揃えで彼をお祝いした。
そのお返しをしてくれるとの申し出なのだった。ようやく理解したアルフィンは、
「だ、だめじゃない!うれしい!」
かなり食い気味で言葉を返した。拳を握って胸の前でぶんぶんと振ってみせる。
「そ、そっか」
ジョウはほっとした。アルフィンは顔をほころばせる。
「嬉しいなあ。クリスマスの、っていったら特別よね。何でもいいの?」
自分からおねだりしたのではなく、ジョウから切り出してくれたことがまず嬉しい。
今年のクリスマス、ロマンティックに過ごせたらいいなあと思っていたところだった。特別なプレゼントなんかもらって・・・・・・と。自然、心も浮き立つ。
「まあ、うん。俺が買える範囲なら」
ジョウは頷いた。
「あなたが買えないものを挙げる方が難しいわ」
「そうかな。 で、何か欲しいものはって話だけれども。どうなんだ?」
改めて訊かれる。アルフィンは少し迷って、でも、間をさほどおかずに言った。
「うん。もしもジョウからもらえるんなら、身につけるものがいいなって、実は前から思ってたの。――だめ?」
そう言って、一番愛らしく映る角度に小首を傾げてジョウを目線で救いあげる。
ジョウは、「だ、だめじゃない」とどぎまぎして返した。見る間に、顔が赤くなる。
アルフィンはぱあっと顔を輝かせて、
「じゃあ指輪がいい。できればペアリングがほしい」
胸の前で両手をぎゅっと組み合わせてジョウに迫る。
「ペ、ペアリング」
ジョウはアルフィンの迫力に押されてたじたじとなった。そんな彼にはお構いなしに、アルフィンはたたみかける。
「そう。おそろいの指輪がいいなあ~。お守りみたいにいつも着けるの、ここに」
左指の付け根を指す。
「そうしたら気分も上がって仕事もばりばりこなして、もう一流のクラッシャーまっしぐらって感じになると思うのよね」
「そ、そうなのか」
「そうよ、ペアリングにはそういう効果があるのよ。絶大なね」
指輪一つでクラッシャーランクが上がるんなら、こぞってみんな嵌め出すだろうと、そんな言葉を呑み込むだけの分別はジョウにもある。
背中に羽が生えて飛び立つんじゃないかというアルフィンの盛り上がりっぷりに、水を差すようで気が引けたが、意を決してジョウは言った。
「いや・・・・・・ごめん。俺は指輪はしない。っていうか、できない」
え。
それを聞いたアルフィンは、急に表情を失って、紙のように白い顔になった。
あ。まずい。
と思ったが後の祭り。きゅっと眉間にしわが寄り、美しい碧眼に陰が差した。
「な、なんで」
「いや。君がするのはいい。っていうか、指輪を贈るのはイヤじゃない。
ペアリングが・・・・・・ちょっとってだけだ。とにかく俺は指輪をするのはだめなんだ。ほら、わかるだろう。仕事でライフルとか扱うから指輪なんかしてたら感覚が狂うんだよ。実戦の時その感覚のずれっていうか誤差は命取りになる気がする」
「指輪、なんか」
アルフィンが硬い声を発する。
でもジョウは説明するのに必死でそれには気づかない。
「昔ファッションリングしたとき、違和感があったんだよ。着けて銃を持ったとき、いつもと違っておかしかった。だから指輪以外なら、――いや、ペアじゃなく、君だけにあげるものを選ぶっていうのは、どうかな」
ジョウの説明をじっと聞いていたアルフィンだったが、明らかに失望した様子が見て取れた。
さっきまでのハッピーオーラがすっかり消えてしまっている。
「ペアじゃなく、あたしだけ」
と、繰り返したその顔を見て、ジョウは完全に自分がしでかしたことを悟った。
ダイニングの椅子から腰を浮かしてアルフィンに詰め寄る。
「ごめん。俺、そんなつもりじゃなく」
「せっかくプレゼントくれるってあなたから言ってくれたのに。――嬉しかったのに、どうしてそんな風に言うの?」
ぶすっと口を尖らせて非難がましい目を向ける。その目は涙でいっぱいになっていた。
ジョウがこの世でいちばん苦手なものだ。怒らせた彼女。泣き出しそうな彼女。
「あ、いや、それは」
「だまってペアで買ってくれて、自分のは指に嵌めなくてもペンダントにでもすれば丸く収まるのに。どうして、どうしてそんな風に言うの。ジョウってばだいなし!」
「あ」
口がぱかっと開くのが自分でもわかった。そうか。確かにそう言えばこんな事態にはならない。
そうか、なるほど。と今更ながらに納得している自分を、恨めしげに睨んでいるアルフィンの顔が間近にある。
慌ててジョウは口を閉じた。真顔になってアルフィンに向き直る。
「ペ、ペアリング、いいじゃないか。買おう。君の好きなデザインのやつを」
「――もういい! そんな無理矢理感満載のプレゼントなんて要らないもん!」
喚いて、わっと顔を両手で覆ってしまう。ひどく芝居がかった仕草だった。
でも本当に泣き出したのかと思い、ジョウは腰が引けた。慰めていいのかどうか、はかりかねる。
アルフィンは俯いたままだ。顔を上げない。
ジョウはすっかり困ってしまい、立ち尽くした。
ややあって、すん、と鼻を啜る音がして「ごめん」と蚊の鳴くような声が聞こえた。
手で顔を覆ったままのくぐもった声で、
「イヤな言い方したわ。ごめんなさい。――わかってるの。あなたに悪気がないってこと。指輪が仕事上嵌められないっていうのもわかってる。全部あなたの言うとおり。ちょっと、拗ねただけ。ペアでしたかったから。だからいま言ったのは本心じゃないからね」
アルフィンはもう一度ごめんなさいと詫びる。
ジョウは天を仰いだ。ああ、と目を閉じる。
そして、そおっとアルフィンの肩に腕を回し、自分のほうへ引き寄せた。
「・・・・・・」
アルフィンはジョウの腕に素直に囲われた。仲直りの時間が訪れたことを知る。
しばし、そのままの態勢でいたけれど、
(ごめん)
とジョウの声がした気がしたので顔を上げた。
でもジョウは自分を腕の中に閉じ込めたままだった。彼の体温が頰にじんわりと伝わる。
「?」
気のせいだろうか。そのままじっとしていると、
(ごめん。――ごめんアルフィン)
また彼の声が聞こえた。
(俺は、なんで・・・・・・。もっとスマートにできないんだ)
(ただ喜ばせたかっただけなのに。クリスマスだから、君に贈り物をって、それだけなのに)
(あんな言い方、確かにしなくてもよかったんだよな。・・・・・・ほんとに自分で自分がイヤんなる)
奔流のように、悔恨の思考が流れ込んでくる。
そう、それは声ではなく、ジョウの思いそのものだった。
触れた頰、耳元のあたりでから、じんわり熱を伴って体温を通して身体に伝わってくる感じ。
・・・・・・?
アルフィンは少し彼から身を離してみた。と、そうすると、何も感じない。
試しにもう一度ジョウにぴとりと身を寄せると、また、
(泣かないでくれ。俺は君に笑ってほしかっただけなんだ)
(君が欲しいんなら何でもあげるから。指輪――ペアリングでも何でも)
思いがダイレクトに脳に伝わった。
アルフィンは思わず声を上げそうになった。衝撃が大きくて、脚が震える。
うそ。――うそ!
あたし・・・・・・聞こえてる。ジョウの心の声が。
なんなの。これ。何の魔法?
がばっと顔を上げてジョウを見る。間近で目と目が合った。
「? どうした?」
ジョウが怪訝そうな表情でアルフィンを覗き込んだ。
「う、ううん」
かぶりを振って、どきどきと高鳴る心臓を押さえた。落ち着いて、と自分に言い聞かせる。
もう一度ジョウを見上げてアルフィンはしがみついてみた。
正面からぎゅっと抱きつく。
「おっ」
予想外のアルフィンの反応にジョウは戸惑った。
でも、機嫌が直ったのかなと幾分表情が和らぐ。自分にしがみつくアルフィンの背をぽんぽんとあやしてやる。
(よかった。・・・・・・さっきの、もう怒ってはいないんだよな?)
やっぱり聞こえる。心の声が。
触れると聞こえる。――離れると、聞こえなくなる。
そういう仕組みになっている?
アルフィンは動揺はしていたけれど、頭は働くようになった。何かを確かめるように、よりいっそう彼にしがみついた。
「お、おい。どうした」
ジョウの困惑した声。
それと同時に、
(可愛い。――可愛いなほんとに)
(こんなにぎゅっとしがみついて、いじらしいっていうか。・・・・・・めちゃくちゃ可愛い。愛しい)
(さっきは下手を打ってがっかりさせてごめん。何でもあげたい。君が欲しいのは、なんでも)
(俺があげられるのはなんでもやるから、もうあんな顔するな)
(っていうか、させない。ごめんな)
ダダ漏れ。
うそ。うそうそうそうそ。
アルフィンの心臓がばくばくと拍動する。体中の血流が大きな波みたいに脈打っている。
信じられない。けど、
でも、これって。現実に実際に起こってること。
――魔法にかかった。かけられた。
聞こえる。彼の声が。
ジョウの心の声が、聞こえる。
彼は自分の思考が筒抜けになっているとも知らず、いっそうアルフィンを腕の中に囲った。
頭を手のひらで包むように撫でる。
(ほんとに可愛い。こんな可愛い人、いないよ)
「・・・・・・!」
アルフィンは腰からくだけそうになり、いっそう彼にきつくしがみついた。
これで、仲直りできるなら、安いもんんだ。
でも、いつまで、この状態が続くのかな?