背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

Vergin Snow (5)

2022年02月09日 19時16分42秒 | CJ二次創作
「バードからくミネルバ>にハイパーウエイブ通信が入ったのがちょうどー週間前。
連合宇宙軍専用の盗聴防止回線でコンタクトを取ってきた。
その時点で、嫌な予感はしていた。
「折り入って、アルフィンに頼みたいことがあるんだ」
そう切り出したバードをジョウは斜めに掬い上げるように見た。
「アルフィンに? なんでお前が」
「俺が、というよりは、情報部二課の中佐としての依頼でね」
これは極秘事項なんだが、とちらりと小さな目をジョウに向けてからバードは切り出した。
「今俺は世間を賑わせている【トップモデル連続殺人事件を担当している。その事件のことは知っているか?」
ああ、とジョウは額いた。画面越しに。
ここひと月ばかりマスコミを販わしている事件だ。滅多にワイドショーなどを見ないジョウでも、ニュースバックには一通り目を通すため、事件が派手に取り上げられ、人々の注目を集めてあれこれ騒ぎ立てられているのは知っていた。
「事件の概要はこうだ。売れっ子のトップモデルばかり、続けて3人、デザイナーズブランドの新作発表のコレクション会場から何者かに誘拐されて殺害された」
「ああ。身代金の請求はなし。家族や事務所への犯人らしき者からのコンタクトも一切なしってやつだろ。犯人の目的が不明だっていうので、警察も手をこまねいているようじゃないか」
「ああ」
ジョウは怪訝そうに訊ねる。
「なんであの事件をパードが担当してるんだ。殺人事件は警察の管結だろ」
「それが、ちと複雑でね。意図的に報道されていない部分もあるんだ」
こっから先はトップシークレットなんだ。くれぐれも濡らさないでくれば、そう前置きしてから、バードはジョウの意表を突く言葉を口にした。
「モデルが誘拐されてからきっかり一週間後に、連合宇宙軍のお偉方のところに、あるものが送りつけられてきているんだよ」
「あるもの?」
ジョウは眉をひそめた。
バードは神妙にうなずく。
「なんだ、気を持たせるな」
わざとらしいほどの「ため」を作ってから、バードは言った。
「それは、被害者とおぼしき人物の、体の一部だ」
「なんだと」
ジョウの顔つきが変わった。
「体の一部だって?」
「そうだ。臓器移植する際に使用する、専用のキャリーケースってあるだろう。あれに入れられてな。DNA判定で確認したところ、99,9%の確率で誘拐されたモデルのものだろうという結果も出ている」
「もの『だろう』ってなんだ?  断定じゃないのか」
「……断定しようにもできないんだよ。送りつけられた一部以外の、被害者の本体、全身がまだ見つかっていないんだ」
バードの言う事実が何を示すのか、ジョウは理解した。
「初めの被害者は、右の手首から先、二番目の被害者は、左足、そして、三番目の被害者は、上あごからこう、上下の歯をごっそり抜き取って、これ見よがしに送り付けてきやがった。おかげでお偉方は恐々さ、外にもろくに出られない有様よ」
パードは忌々しげに舌を鳴らした。この男が不快感を露わにするのは珍しい。よほどえげつない「贈り物」だったのだろうと想像がついた。
「生体反応は?出たのか」
「いや。出ていないから、死後切断されたものらしいが。
これで、被害者が生きてる間にぶった切られたりしてたんだってんなら、本物のモンスターを相手にしてるってことになるよな。辛うじて人間味は持ち合わせてるってわけだ」
まあ、頭えぐられて生きてられるやつもそうはいないし。と、たちの悪いジョークが出る。
「宇宙軍に恨みを持つ者の犯行か?」
「おそらく。ただ断定はしかねる。大体、なんでトップモデルをさらって、殺して、腕だの足だのをわざわざうちに送り付けてくるんだ? さっぱり分からん。商売柄、恨みを買うことには慣れているが、こんな猟奇的な犯罪に発展することは、まずない。というか、そうそうあってたまるか。
もう上はびりびりでね。完璧に報道管制を敷いて、一刻も早く犯人確保をしろって、その一点張りだ。おかげでここ数日ろくにうちにも帰っちゃいねえし、警察からは越権行為だってあれこれ抗議されるし、とんだ貧乏くじだよ」
「ふむ……」
大体の事情を察したジョウはわずかにあごを引いた。パードはぼやいた。
「全く情報部二課なんてあっちこっちからそんなことばかり押し付けれるところなんだ。よろずやっかいこと所みたいなもんだな」
ははは、自虐的な物言いに自分で受けて、バードが乾いた笑いを響かせる。
ジョウはそれを流した。本筋に切り込む。
「そっちのおおかたの事情は分かった。で?  なんでここでアルフィンが出てくる。俺のところにわざわざ連絡を寄越して、アルフィンを貸してほしいってのはどういうことだ?」
ジョウは目をすがめてパードを見違った。腹の底の知れないこの男の真意を見極めようとでもいうように。
「なんだ、もう分かってると思ってた」
意外そうに目を見開いて(といっても、小さな目は普段とさほど変わらなかったが)、パードはジョウを見渡った。
「何が」
「アルフィンをうちで駆り出す理由さ。
ジョウ、攫われて殺害されたモデルの共通点を知ってるか?」
「いや、そこまでは」
嫌な予感。じりじりとうなじの辺りを焼く。
「3人に共通するのはな、みんなどれもこれも金髪碧眼のとびきりの美女ってことなんだ」


「だから俺はその場で断った。回線を切ったんだ」
「......そんな」
アルフィンは眉を寄せ、口を手で押さえた。
「あたし、全然知らなかった。そんな依頼内容だったなんて」
震える声で漏らす。
「リッキーが、なんかジョウがパードとこそこそやり取りしてるみたいだって、教えてくれて、だから……」
「パードのやつ、しつこくて、いくら俺が断っても、何度も何度も食い下がってきやがって、まあそれだけやつも立場上苦しいんだろうってのは分かるんだが。
一度、業を煮やして俺を通さないで君を直接呼び出そうとしたろ」
「え、ええ。タロスが取り次いでくれようとしたときね」
あのとき、自分はキッチンだかランドリーだか他の場所にいて、呼び出されている間にジョウが勝手に回線を切ってしまったのだ。それに完全に切れて、派手にジョウと衝突することになった。
アルフィンはそのときのことを思い出した。
でも彼は、自分がひどく怒っても、バードからの内容について、何一つ教えてはくれなかったのだ。
「君は関係ない。知らなくていい」その一点張りだった。
それが、ますます不信を煽る結果となった。
「アルフィンじゃなきゃだめだ、って言うんだ。あいつ。
俺が、おとりなら彼女を当てにしないで自分のヤサから出せって突っぱねても、護身術に長けて、いざというとき自分の身を自分で守れて、犯人確保の能力もある女性隊員ならうちには山ほどいる。が、その上ハイブランドのステージショーに立てるだけのルックスをもつ金髪碧眼の美人は、残念ながらいないんだって。素人には頼めない。だからどうしても、アルフィンの力が必要なんだって譲らないんだよ」
「ま....…」
かなりのリップサーヴィスが入っているのは判っていたが、それでも手放しのパードの賛辞に思わずアルフィンは赤くなった。
ジョウはやり取りの中の面白くない思いが蘇ってきたのか、口調を次第に荒げていった。
「ついカッとなって。……あのときは、すまなかった。君宛の電話だったのに、勝手に切って」
「ううん」
アルフィンはかぶりを振った。
なぜジョウがあんなことをしたのか、納得がいった。理由もなく自分以外のメンバーにかかってきた電話を切るような人ではないと分かっていても、やはり何も話してくれないと気持ちは々と晴れない。
……よかった。わけを話して、そして誤ってくれた。
そんな安堵がアルフィンの胸に過ぎる。
「でもそんな、邪険にすることないのに。
それほどパードが困っているなら、あたしでよければ、」
「だめだ」
ぴしゃりと跳ねつけられる。そして、舌打ちとともにジョウが頭を掻いた。
「君がそう言い出すと思ったから、耳に入れたくなかったんだよ。ったく」

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