「いたっ」
キッチンで、料理をしていたアルフィンが声を上げた。
「どうした」
テーブルについて、タブレットで雑誌を見ながら彼女と話をしていたジョウが腰を上げた。
隣にくる。
「ちょっと切っちゃった」
左手を押さえている。人差し指から血が滲んでいた。
野菜を刻んでいるところでうっかり切ったらしい。眉をひそめている。
「見せてみろ」
ジョウが彼女の手首を把って傷の具合を確かめる。深手ではないように見える。
血が溢れているのは毛細血管が細かいからだ。ジョウはアルフィンの指を口に含んだ。ごく自然に。
流れる血を吸い取る。脣と口腔、舌先で。
「あ」
アルフィンは身を固くして彼に預けるしかできない。つい腰が引ける。
それぐらい、唐突に官能的に仕掛けられた。
ジョウは構わずアルフィンの手首を固定したままあらかた血を呑み込んだ。アルフィンは彼の口許から目が離せない。
真っ赤になったまま。
「・・・・・・錆の味がするな」
ややあってそう言いながら、ジョウがアルフィンを解放した。ひとさし指の止血点を押さえつつ手近にあったティッシュで拭いてやる。
「ここを押さえて。いま救急箱を取ってくる」
「血を飲んじゃだめって、小さい頃お父さんから言われなかった?」
「さあ? 別に毒でもないだろう」
何でもないことみたいに言う。
アルフィンは、「吸血鬼みたいね」と笑った。
躊躇なく自分の身体から溢れたものを舐め取って呑み込んでくれたことが嬉しかったし、気恥ずかしくもあった。
「美女の血は大好物なんだ」
ジョウはおどけてもう一度アルフィンの手を引きよせて、指先を口に含んだ。
まだ滲んでいる血をぎゅっと吸い込む。
この人の中にあたしの血が溶け込んでいくといい。彼を見ながらアルフィンは思った。
喉をとおって食道をとおって、胃に落ちていって。彼の体内に吸収されて彼の一部になるといい。細胞単位ですっぽりとり込まれたい。
吸って。一滴残らず飲み干してしまってよ。
そんな想いに足元を浚われそうになる。
アルフィンだけの吸血鬼は優しく笑って彼女の指をもう一度離した。
「手当てをしよう。おいで」
「でも料理が途中だわ」
切りっぱなしの野菜を気にして言うと、
「今日は俺が代わろう。その手じゃあぶない」
アルフィンは目を丸くした。しげしげと彼を見つめて言った。
「ジョウ、料理、できないでしょ」
「・・・・・・そこをうまく教えるのがコックの腕ってもんだろ」
少し自信なさげにそう答えるから、思わずアルフィンは笑みをこぼした。
END
キッチンで、料理をしていたアルフィンが声を上げた。
「どうした」
テーブルについて、タブレットで雑誌を見ながら彼女と話をしていたジョウが腰を上げた。
隣にくる。
「ちょっと切っちゃった」
左手を押さえている。人差し指から血が滲んでいた。
野菜を刻んでいるところでうっかり切ったらしい。眉をひそめている。
「見せてみろ」
ジョウが彼女の手首を把って傷の具合を確かめる。深手ではないように見える。
血が溢れているのは毛細血管が細かいからだ。ジョウはアルフィンの指を口に含んだ。ごく自然に。
流れる血を吸い取る。脣と口腔、舌先で。
「あ」
アルフィンは身を固くして彼に預けるしかできない。つい腰が引ける。
それぐらい、唐突に官能的に仕掛けられた。
ジョウは構わずアルフィンの手首を固定したままあらかた血を呑み込んだ。アルフィンは彼の口許から目が離せない。
真っ赤になったまま。
「・・・・・・錆の味がするな」
ややあってそう言いながら、ジョウがアルフィンを解放した。ひとさし指の止血点を押さえつつ手近にあったティッシュで拭いてやる。
「ここを押さえて。いま救急箱を取ってくる」
「血を飲んじゃだめって、小さい頃お父さんから言われなかった?」
「さあ? 別に毒でもないだろう」
何でもないことみたいに言う。
アルフィンは、「吸血鬼みたいね」と笑った。
躊躇なく自分の身体から溢れたものを舐め取って呑み込んでくれたことが嬉しかったし、気恥ずかしくもあった。
「美女の血は大好物なんだ」
ジョウはおどけてもう一度アルフィンの手を引きよせて、指先を口に含んだ。
まだ滲んでいる血をぎゅっと吸い込む。
この人の中にあたしの血が溶け込んでいくといい。彼を見ながらアルフィンは思った。
喉をとおって食道をとおって、胃に落ちていって。彼の体内に吸収されて彼の一部になるといい。細胞単位ですっぽりとり込まれたい。
吸って。一滴残らず飲み干してしまってよ。
そんな想いに足元を浚われそうになる。
アルフィンだけの吸血鬼は優しく笑って彼女の指をもう一度離した。
「手当てをしよう。おいで」
「でも料理が途中だわ」
切りっぱなしの野菜を気にして言うと、
「今日は俺が代わろう。その手じゃあぶない」
アルフィンは目を丸くした。しげしげと彼を見つめて言った。
「ジョウ、料理、できないでしょ」
「・・・・・・そこをうまく教えるのがコックの腕ってもんだろ」
少し自信なさげにそう答えるから、思わずアルフィンは笑みをこぼした。
END
⇒pixiv安達 薫
リンゴぐらいは剥けるだろうけど。
アラミスに住んでいた間、子供でも多少はやったんじゃないかな。ミネルバに乗ってからは、ガンビーノとアルフィンのお陰で、やることがなかっただろうけど。