背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

どこへでも4(ジョウ×アルフィン)

2021年05月18日 19時48分05秒 | CJ二次創作
【3】へ

「まあ、とりあえず」
「乾杯ですな」
ブランデーグラスを軽く合わせる。かちん、と。
ダンの自宅のリビングにタロスはいた。広々としているが、必要最低限の家具しか置いていないあたりがいかにもダンらしい。
使い込まれた樫材のソファにどっしりと身を落とし、タロスはブランデーをちびりとやって、思わず「美味えや」とうなった。
「地球産だ。とっておきの」
そんなタロスを見やりながらダンは微笑う。
「ありがてえ。逸品を開けてくれましたか」
「お前が来てくれてるんだからな。これぐらいはな」
夕刻、評議会の入っているビルにタロスがいきなり挨拶に来た。
ロックダウン解除になった、早々の帰郷だった。ジョウがこの日を手ぐすね引いて待ち構えていたことが知れた。
アポなしだったがダンはその後の予定をすべてキャンセルし、面会に時間を割いた。
久しぶりの再会に話は弾み、別れがたくさらに自宅へと誘ったというわけだ。
ジョウがアルフィンと一緒だということはタロスから聞いている。今夜はこちらに顔を出すとも思えない。
今頃、久闊を叙していることだろう。
ふと思いついてダンは口を開いた。
「お前はあの二人をどう思う? タロス」
「二人、って、ジョウとアルフィンのことですかい」
「ああ」
「どうとは?」
タロスはかつてのチームリーダーに目を向けた。ダンは琥珀色の液体が入ったグラスを大事そうにローテーブルに置いて、タロスの対面に腰掛けた。
「言葉のままだ」
「そうですね・・・・・・。似合いですね。たまに昔のおやっさんと姐さんを見ているようで、どきっとすることがあります」
「・・・・・・そうか」
わずかに口の端を持ち上げる。タロスにはそれがダンが滅多に見せない気心を許した表情だとわかる。
「ジョウの無茶無鉄砲ぶりについていけるのはアルフィンぐらいだし、アルフィンのはちゃめちゃなお転婆に根気強くつきあえるのもジョウぐらいのもんです」
聞いてダンは、本格的に破顔した。
「無鉄砲にお転婆か。それはいい組み合わせだな」
「いい意味でですよ。誤解のないように」
いかにも付け足しという具合に、タロスがフォローになっていないフォロー。分厚い手を顔の前でひらひらとさせる。
「ジョウの熱いところ、青いところ、まだまだアルフィンがコントロールするまではできちゃいませんが、いずれ手のひらで転がすようになるでしょうな」
「あの子にその器があるかね」
「それはおやっさんもご存じでしょう」
タロスは見透かしている。
「こちらに置いて、本部での働きぶりを見て、もうわかっているんじゃないですか? アルフィンがどんな娘か」
ダンは答えず長い脚を組み直した。しばし回想する。
ジョウからじかにハイパーウエイブ通信で連絡が入ったのが半年前。
チームのメンバーを一人、コロナが収束するまでアラミスで預かってほしいと急いた口調で言った。
働き口と住む場所がほしいんだと頭を下げた。
自分に借りを作るのを何よりも嫌うあのジョウが。プライドも見栄もかなぐり捨てて自分にすがった。そのことにただ驚いた。
そして預かった娘ーーミネルバの航宙士アルフィンは、この半年、ダンの下で秘書的な役割を担い、じゅうぶんにその職責をこなした。
溌剌とした笑顔と、機転の利く立ち振る舞いですぐに新しい職場になじんだ。
慣れない土地での新しい仕事で悩みもあっただろうが、おくびにも出さなかった。
「手放すのは惜しい娘さんだな」
ダンの本音が出て、タロスの面に喜色が浮かんだ。
「アルフィンに聞かせてやりてえ。さぞかし喜ぶでしょうなあ」
「ジョウには内緒だぞ。荒れるだろうからな」
タロスは声を上げて笑った。
「そう! ああ見えて意外と嫉妬深いんですよ、ジョウは。誰に似たんだか」
「私じゃないことは確かだな。お目付役のお前じゃないのか」
「どうですかねえ・・・・・・」
とにかく、とタロスがまとめる。
「アルフィンの前だけなんですよ。ジョウが普通のはたちの青年に戻れるのは。
普段は特Aクラスのクラッシャーだ、ダンの息子だだの、マスコミに書き立てられるエリートのイメージだけが先行して、正直それに振り回されてるところもあります。もちろん実力もお墨付きなんだが、やはり世間に対してだいぶ肩肘張って暮らしてる。
そんなジョウが、アルフィンといるときだけはただの男になる。変に突っ張らず、自然体でいられる。
ジョウにとってアルフィンはそういう存在なんです」
幼い頃からずっとジョウを見守ってきたタロスだから言える言葉だった。
もう、実の父親である自分よりも長い間一緒に暮らしている。そのことに改めてダンは気づかされた。
「・・・・・・そうか」
宿り木を見つけたか。自分がかつてユリアと出会ったときのように。
あんなに若いうちに羽を休められる場所を手に入れた。ーーあいつは幸運な男だな。ダンは思った。
タロスは続けた。ブランデーでのどを潤しながら。
「アルフィンは高貴な生まれをかなぐり捨てて、全身全霊でジョウについていってる。
あんな風に追いかけられるなんざ、男冥利に尽きるってもんです」
アルコールが回り始めたか、いつになく饒舌だ。
サイボーグの面には酒気が射すことはないが。
「そうか・・・・・・」
ダンはそう繰り返した。
「お前がそう言うんならあいつは幸せなんだろう。
ありがたいことだな」
「寿命が伸びまさア、あの二人を見てると」
たまに妬けるほどですよ、機嫌良くうそぶくタロスがブランデーのロックをかみ砕く。
ぼり、ぼりと豪快に音を立てるところを、タロス、と真顔で呼んで、
「今まであいつを見守ってくれて助かった。有り難う」
しみじみと、ダンが言った。
「・・・・・・」
タロスは虚を衝かれ、思わず氷をのどに詰まらせそうになった。
そしてしきりとかぶりを振って、
「よしてくだせえ。水くさい。今更、何を言うんです」
と言った。
「止めましょうや、そんなのア。あたしと、おやっさんの仲じゃないですか」
ダンは、ふ、と目元を緩めた。
「そうだな・・・・・・」
「そうですよ」
「すまなかった」
「ああ、もう、無しですってば。ささ、仕切り直し仕切り直し」
湿っぽくなった場を取り繕うように明るい声を出してタロスがグラスを掲げた。
「もういっぺん乾杯しましょうや、ーーあの二人に」
ダンも微笑ってグラスを目線の位置まで持ち上げた。
あの二人の未来に。
「乾杯」
「5」へ

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« どこへでも3(ジョウ×アルフ... | トップ | どこへでも5(ジョウ×アルフ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

CJ二次創作」カテゴリの最新記事