「綺麗だったわね、プラネタリウム」
ドームの出口から吐き出される人波にもまれながら、アルフィンが言った。
「うん」
久々の寄港地でのデートは、プラネタリウムにした。
日ごろ、星間航行を生業としているジョウは、アルフィンの提案を聞いた時「えっ。わざわざ金を払ってまで星を見に行くのか」と思ったが、賢明にも口には出さなかった。
代案もなかったからだ。
ジョウの隣を歩いていたアルフィンが「うそ」と言う。
「ん?」
「うそつき。ジョウってば、星なんか見てなかったくせに。始まって5分で寝落ちしてたくせに」
つーんとそっぽを向く。
ジョウはやっぱり気づかれてたかと内心うろたえた。一瞬言い訳しようかという思いも頭をよぎったが、
「何だか周りが暗くなって静かな音楽が流れたら、引き込まれるようにすうっと睡魔に襲われて……」
ごめん、と素直に謝った。
しばらく拗ねて手を焼かせるかと思いきや、アルフィンは肩をすくめて「しようがないわねえ。眠りに行ったみたいじゃないの、わざわざお金払ってさ」と笑う。
怒っているわけではないんだなと思い、ジョウはほっとする。
「すまん」
「いいの。あたしの方に身体を向けてすうすう眠ってるジョウの顔を見てたら、疲れてるんだなあって。ちょっとでも深く眠って休んでくれたらなあって思ったの」
実はあたしも星なんかほとんど見ないで、あなたの寝顔ばっかり見てたわとアルフィンはペロッと舌を出した。
「……」
不意に、ジョウはアルフィンを抱き寄せた。急に立ち止まってそうしたので、後ろから出てきた客がとんと肩にぶつかって追い越していく。
ち、と舌打ちが聞こえた。でも構わない。
「ジョウ」
アルフィンが息を呑む音が腕の中でした。
ジョウが人前でこんなことをするなんて。にわかには信じられない。
ジョウは言った。
「俺は毎日船の窓から星を見てるけど、--アルフィンの中にある星が一番きれいだって思う」
プラネタリウムの星を全部閉じ込めたみたいな君がと言って、柄にもないこと口にしたと赤くなる。
そこでふと我に返って「ごめん」と手を離す。
アルフィンは微笑んだ。
「……あんまし素敵な告白だから、許しちゃう」
「居眠りを?」
「居眠りを」
ジョウは安心したように笑った。
「じゃあ、どっかに寄って甘いスイーツで相殺ということでどうだ?」
「いいわね、最高!」
今度はアルフィンからジョウの腕をそっと把り、自分の腕をからめる。
何をおごってもらおうかなあとご機嫌な様子で言うから、「太るぞ」とまぜっかえした。
「ジョウ、きらい」
ブウっとむくれてアルフィンが空いてる手でジョウの腕をつねる。
プラネタリウムなんかに行かなくても、アルフィンといれば、いつだって俺はーー。
星の光みたいな彼女と肩を並べてジョウはやっと目が慣れ始めたほの明るい街の中を行く。
END