「ねえ、俺たち、命が燃え尽きるまで一緒にいようね」
ひどくロマンティックなセリフ。状況が状況じゃなければ。
いまこの場所が、ここじゃなかったら。うっとりと目を閉じ、彼の胸に身を預けるのに。
「……そのセリフさ。本気で言ってるの」
あたしは思わず隣を見た。
彼はにいっと歯を見せて笑った。「もちろん」
この人、肝が太いと思った。さもなきゃ心臓に毛が生えてるのか。
こんな状況で、そんなこと、言う? 言える?
彼は続けた。
「君と一緒なら怖くないよ。たとえこの身が燃え尽くされようとも」
「だから、しゃれにならないって。そーゆーの口にすんのやめてよ。不謹慎じゃない」
「でも黙って待つだけなんて焦るからさ。俺が話してたら、ちょっとでも気がまぎれるかと思って」
「それはそうだけどォ」
煙い。刺激臭が鼻を刺す。むせる。
これはマジでやばいかもしんない……。こほこほと咳込んでしまう。
あたしはハンカチで口と鼻を押さえる。彼も服の袖で口元を隠しながら「まじでさ、ここを無事で出れたらすぐに結婚式場に行こうぜ。グダグダしてる暇なんかないってわかったよ、ようやく」とくぐもった声で言う。
「け、けっこんしきじょう?」
「ああ。いつ君にプロポーズしようか悩んでたけど。今日こんなことになってケツに火がついたっていうか、あ、これも不謹慎か」
「~~ったくあんたってばもう~」
涙が出てくる。それはマンションを覆う黒煙のせいかもしれない。
そうじゃないかもしれない。ごほごほ。
彼の自宅で休日、まったりすごしていたら。階下から出火。 あたしたちは高層マンション火災に巻き込まれた。
あっという間に煙が充満して火力が増して退路を断たれた。いま、消防のはしご車の到着と窓からの救急脱出を待っているさなか。
絶体絶命の中、彼がプロポーズをしてくれた。
大喜利みたい、冗談みたいなプロポーズだけど、その後、なんとか五体満足で救出されて、あたしたちはまっすぐ市役所に出かけて婚姻届けをもらい、入籍の手続きをした。
結婚式場より先にこっちよねと、あたしが軌道修正したかたちになった。
火事場の馬鹿力で無理やり。笑
#命が燃え尽きるまで