背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

約束

2021年06月27日 22時53分32秒 | CJ二次創作
飲み屋で酔っ払って、乱痴気騒ぎ。それは別に珍しいことじゃない。
足を踏んだ踏まないでけんかをおっ始め、挙げ句クラブを一軒つぶしたこともあった。あまり思い出したくないが。
巷で「まさにクラッシャー」と揶揄されるのも仕方がない。
血の気が多く、喧嘩っ早い自覚はある。そういう育ちだ。でも、どんな場合でも俺たちは子供や女性やカタギの人間には手を出さない。それが掟。
だから、飲みに出かけたクラブで柄の悪い連中に絡まれてけんかを買っているすきに、アルフィンが別場所に連れ込まれ、複数の男たちに弄ばれようとしかけたことに、俺は逆上した。
「兄貴、アルフィンがいない! やつらにVIPルームみたいなとこに連れてかれた」
フットワークの軽さを生かした喧嘩術を繰り出していたリッキーが怒鳴った。
「何だって?」
俺は髪の毛がぞわりと逆立つのが分かった。確かに、アルフィンの姿がない。
さっきまで女手で果敢に男連中を相手にしていたのに。いつの間に。
「やばいよ、助けに行かなきゃ、兄貴」
「ジョウ、ここはいい。行きなせえ」
俺とタロスでざっと10人を相手にしていたけれど、「任せた」と俺は戦線を離脱した。タロスにはそれぐらいがいいハンデだろう。店の奥の二階に駆け上がる。重厚な黒塗りのドア。VIPルームの扉を俺は蹴破った。
鍵がかかっていたが、ものともしなかった。銃など使わなくてもこのぐらいの施錠のドアなら身体一つで突破できる。
「アルフィン!」
部屋に入るなり、目に飛び込んできたのは男たちにソファに押さえ込まれるアルフィンの姿。しきりとかぶりを振って、「いや、止めてってば!」と喚いている。必死で足掻くけれど、複数に無理矢理抑えられ身動きがかなわない。
両腕を押さえつける者、猿ぐつわのようなものを無理矢理噛ませようとしている者、またがってのしかかる者、注射器を手にしている者、――瞬時に俺は補足。4人。
4人がかりで。俺の血が沸騰する。怒りで目の前がほの暗くなる。
殺意が生じる。
「貴様ら何やってる、アルフィンを離せ!」
自分の声を自分のものではないように聞く。理性の糸がふっつり切れたのが分かる。
もしも今ここが仕事場で、アサルトライフルを所持していたら、何も考えず乱射して全員射殺していただろう。
「ジョウ!」
アルフィンが首を巡らして俺を見た。声に涙が混じる。
「お前は!」
ドアを蹴破ってきた闖入者を見て、男たちが腰を浮かせて防御の態勢を取る。アルフィンにのしかかっていた男が、ズボンのファスナーをあたふたと上げたのを見て俺は完全に逆上した。
ものも言わず間合いを詰め、一気に仕掛ける。
右のストレート、膝蹴り、手刀、投げ技。一連の流れ技で4人を一気に仕留める。全部、急所に入れてやる。手加減はしない。死んでもいいくらいのつもりで繰り出す。
「が……っ」
血を吐き、泡を吹き、男たちが昏倒する。その間5秒。
その場に立っている者は俺以外いなくなった。
「アルフィン、だいじょうぶか」
俺はソファに仰向けになるアルフィンに向き直った。着ていた衣服を乱されていて、目のやり場に困る。
アルフィンは泣いていた。俺の手を借りて起き上がる前に、なんとか胸元をかき合わせる。
「何かされたか。薬でも射たれた?」
俺は男の1人が取り落とした注射器を見下ろした。アルフィンはくしゃくしゃの泣き顔で首を横に振った。
「だ、だいじょうぶ。その前にジョウが来てくれたから、」
それきり言葉が続かない。ショック状態だ。言葉を発しようとして形にならない。
俺はアルフィンに自分の着ていたジャンバーを羽織らせ、肩を抱いて立ち上がらせた。
「行こう。引き上げるぞ」
よろめく足取りのアルフィンを支えて、俺はその部屋を出た。



「アルフィンの様子はどうだ?」
ミネルバに帰って、着替えてから俺はメディカルルームに顔を出した。
帰りのエアタクの中でもアルフィンは真っ青で、身を固くして小刻みに震えていた。
自分の身体の震えを押さえるように目をつぶって肩をぎゅっと抱いているのに、その指先が真っ白になるほど力を込めても震えはいっこうに収まらなかった。
尋常じゃない様子に、俺はリッキーに付き添うよう命じてアルフィンをメディカルルームへ行かせた。
「いま一通りのチェックを終わったところ。目立った外傷はないってさ」
リッキーが答える。
「そうか……」
俺はひとまずほっとした。
「あたしは大丈夫よ。なんともないってば」
アルフィンがベッドから半身を起こす。その肩にリッキーが毛布をかけてやる。
依然、顔色は優れない。
「ごめんよ、アルフィン。今夜の喧嘩は俺らとタロスがポーカーでいかさま仕掛けられたことがきっかけで」
やりすごせばよかった、と後悔をにじませる。
「あんたたちが悪いんじゃないわよ。謝らないで」
アルフィンは笑う。でも、とても力なく。
「いかさま仕掛ける方が悪いわ」
「でもさ」
「……震えてる」
俺は気づいていた。アルフィンの身体が、ミネルバに戻ってもずっと震えたままだ。
いまも。毛布をかぶっていても、その華奢な身体にひっきりなしに震えが生じている。アルフィンの意思とは関係なく、今夜のショックの痕跡を表していた。
「……」
手を伸ばそうとして、思い直す。
俺に触れられるのは、今夜は嫌だろう。
さっき、男たちの手で暴力に晒されていた。力尽くで性的な欲求のはけ口にされかかったのだ。
俺はあいつらとは違うが。生物学的に男であることには変わりはない。
アルフィンは、今日は男の手で触れられるのは嫌なはず。
「……俺ら、タロスんとこ行くね」
お大事に。気を利かせてリッキーが席を立った。
「おやすみ、アルフィン」
「おやすみなさい」
ドアから出て行くリッキーにそう返して、アルフィンは脇に立つ俺を見上げた。
「さっき、助けてくれてありがとう。ジョウ。危機一髪だったね」
わざと明るい口調で言う。
「ああ……」
「あの注射って覚醒剤か何か? やばいお店だわね、警察に連絡した方が良くない?」
「……そうだな」
「……」
そこで、言葉が途切れる。
俺たちは何も言わず、メディカルルームの床を見つめた。数十秒か、そのぐらいの時間。
ややあって、
「ジョウ」
アルフィンが小さな声で俺を呼んだ。
「ん?」
「……お願い。隣に座って。ぎゅっとして」
その言葉に俺は面食らう。
「いいのか?」
躊躇いがちに訊いた。
アルフィンはこくりとあごを引いた。青ざめた面は、うつむいたままだ。俺と視線を合わせない。
俺は言われたとおりベッドに軽く腰を下ろし、毛布の上からアルフィンの肩を抱いた。そおっと。
アルフィンが俺の胸に頭を預けてくる。そして長く深く息を吐いた。
震えが俺の手にダイレクトに伝わる。アルフィンを抱きしめているとなんだか俺の胸まで苦しくなってくる。
雨に濡れて傷ついた小さな鳥を腕に囲っているような、心許ない気持ちにさせられる。
「ごめんな。助けるのが遅れて」
俺は、アルフィンの肩をさすってやる。少しでも、震えが収まるように願いながら。
「……うん」
「怖い思いをさせて、すまなかった」
もうさせない。そんな思いを込めて、アルフィンを抱きしめる。
「……本当?」
「本当だ」
アルフィンの強ばっていた身体から力がじょじょに抜けていくのが分かる。弛緩して、ほどけていく。
安心したように、短かった呼吸が一定になる。
「怖かったの」
ぽつんと言った。
「あたしここでレイプされるんだ、ここで、こいつらに。って思ったら、頭が真っ白になって吐きそうになった。絶対嫌だったの。死んでも嫌だった」
さっきの、男連中に無理矢理押さえ込まれていたアルフィンの姿がよみがえる。
怒りがまたふつふつと俺の中にたぎる。ざらりと凶暴なものが俺の中に生じる。
「いざとなったら舌を噛んで死ぬと思った。ジョウ以外の男に触れられるのは、いや。絶対にいやよ」
アルフィンは低いけれど、しっかりと芯のある声でそう言った。
俺は思わず身を離して彼女の顔を覗き込みそうになった。けれどもそれを抑えた。
「ジョウじゃなきゃいや。やだ」
また声に涙が混じる。
俺はたまらずアルフィンの肩を抱く腕に力を込めた。
「うん」
「触らせないで、ほかの男に、あたしを」
アルフィンは俺を見上げた。
俺は頷く。
「触らせない。誓う。今日みたいな思いはさせない。二度と」
そう言うと、安心したように頷いて身体を俺に預けた。
俺は彼女をくるんだ毛布を剥いで、生身の彼女を懐に抱きしめ直した。
アルフィンは驚いたように一瞬だけ身体を固くしたが、抵抗はしなかった。
俺は抱きしめた腕の中でアルフィンの震えが次第に収まるのを感じていた。
小鳥の羽が震えるのは、じきに止まった。かぼそく降って大地を濡らしていた雨がやがて雲間に消えるみたいに。


その一件以来、俺たちは飲み屋で酔っ払って、軽々しく喧嘩をおっ始めるようなことはしなくなった。
お上品にアルコールを嗜んで帰る、とまではいかないが。
アルフィンを危険に巻き込んでまで、したい喧嘩なんてないんだ。そう認識した。
俺はあの日アルフィンと交わした約束を今でも守っている。
誰にも触らせていない。俺以外には。

END


劇場版のディスコをつぶす喧嘩シーンは最高ですね。なのにこんな話ができるのはなぜ……? 
⇒pixiv安達 薫

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2 コメント

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Unknown (おすぎーな)
2021-06-28 09:49:31
投稿ありがとうございます😆
高千穂ワールド、ダーティペアでは仕事なのに、星ひとつ破壊しちゃうくらいですから、ディスコ1軒ご愛嬌かな(笑)
劇場版では、リッキーが助け船になりましたが、やっぱり女の子ですもの👸
でも、ピーチ姫みたいに連れ去られちゃうアルフィン嬢に40年前から萌え萌え🌱大好物な私なのです😻
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上には上が居ますね (あだち)
2021-06-29 04:09:58
ユリとケイ こちらも懐かしい~
REBIRTHの3巻?にちょっと出てきますがタッチがまさに安彦さんで、針井さんにはダーテイな2人のほうの連載も希望。
返信する

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