とある中小企業(ちゅうしょうきぎょう)の社屋(しゃおく)。そこには誰(だれ)にも知られていない部屋(へや)があった。セキュリティーが厳重(げんじゅう)で社員(しゃいん)でも中に入った人はいないかも…。そもそも何でそんな場所(ばしょ)があるのか?
新(あら)たに社長(しゃちょう)に就任(しゅうにん)した人が、その噂(うわさ)を確(たし)かめに役員(やくいん)を引き連(つ)れてやって来た。社屋の地下(ちか)へ降(お)りて行くと、奥(おく)まったところに確かにその扉(とびら)はあった。扉は施錠(せじょう)されていて認証(にんしょう)カードをかざさないと開(あ)かないようになっている。
社長は定年後(ていねんご)に再雇用(さいこよう)された古株(ふるかぶ)の社員を呼(よ)び出した。創業時(そうぎょうじ)からいた彼なら何か知っているはずだ。白髪頭(しらがあたま)のその社員がやって来ると懐(なつ)かしそうに言った。
「まだあったんですね。これは初代(しょだい)の社長が極秘(ごくひ)に造(つく)らせたものなんです。あの頃(ころ)は、産業(さんぎょう)スパイが横行(おうこう)している時代(じだい)でしたからねぇ。今も使(つか)ってるんですか?」
そこにいた役員たちは全員(ぜんいん)、首(くび)をひねった。そこへ若(わか)い女性がやって来た。みんなに軽(かる)く会釈(えしゃく)すると扉の方へ…。社長は彼女を呼び止めて、「君(きみ)はうちの社員なのか?」
その女性は違(ちが)うと言って自分(じぶん)の社員証(しゃいんしょう)を見せた。そこにはまったく知らない社名(しゃめい)が…。社長は中を見せてもらえないかと言ったが、女性は社内規則(しゃないきそく)でダメだと答(こた)えた。社長は、
「なら、責任者(せきにんしゃ)に会(あ)わせてくれ。誰なんだ、社長は?」
女性が答えたのは、初代社長の名前(なまえ)だった。もうすでに亡(な)くなっている。女性は認証カードをかざした。でも、いつもなら開くはずの扉がなぜか動かない。女性はあせったように、
「何でよ。あたし、クビになったの? もう、せっかく就職(しゅうしょく)できたのに…。どうして…」
<つぶやき>これはこの会社(かいしゃ)の謎(なぞ)ですね。彼女は本当(ほんとう)にクビになったのか? それとも…。
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