みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0921「接近中」

2020-07-11 18:06:10 | ブログ短編

 彼は宇宙飛行士(うちゅうひこうし)。それもベテランの…。彼は定年(ていねん)を前にしていた。そんな彼が、地球防衛軍(ちきゅうぼうえいぐん)に呼(よ)び出された。司令長官(しれいちょうかん)は彼に衝撃的(しょうげきてき)な事実(じじつ)を告(つ)げた。
「地球(ちきゅう)に接近中(せっきんちゅう)の小惑星(しょうわくせい)がある。直径(ちょっけい)は二十キロ。計算(けいさん)では半年後に地球に落下(らっか)する」
 彼は自分の耳(みみ)を疑(うたが)った。まさか、そんなことになっているなんて…。司令長官は続けた。
「五年前から宇宙空間(くうかん)で巨大宇宙船(きょだいうちゅうせん)を建造中(けんぞうちゅう)だ。まもなく完成(かんせい)する。君(きみ)にはその船長(せんちょう)を任(まか)せたい。君しかいないんだ。地球の運命(うんめい)を託(たく)せるのは…」
「はい。光栄(こうえい)であります。精一杯(せいいっぱい)、努(つと)めさせていただきます」
「その宇宙船で小惑星の軌道(きどう)を変えるんだ。本来(ほんらい)なら無人(むじん)でやるべきなんだが、宇宙船が巨大すぎで遠隔操作(えんかくそうさ)というわけにはいかないんだ。それにもうひとつ…。軌道を変えることができたとしても、地球へ帰還(きかん)するのに計算上では三年はかかるだろう」
「三年ですか? そりゃ、かなり長旅(ながたび)になりますね」
「乗組員(のりくみいん)は最低(さいてい)でも五名は必要(ひつよう)だ。その人選(じんせん)は、君に一任(いちにん)する。最適(さいてき)な人材(じんざい)を集めてくれ。これは、我々(われわれ)にとって始めてことだ。どんな不測(ふそく)の事態(じたい)が発生(はっせい)するか分からない」
「戻(もど)って来ることができないかもしれないと…」
「そうならないことを祈(いの)るしかない。それでも、やってもらえるか?」
「それは難題(なんだい)ですね。分かりました。この場ではっきり言っておきますが、絶対(ぜったい)に、何があっても帰還しますから。その時は――」
<つぶやき>あなたならどうします。この任務(にんむ)、引き受ける? あなたが望(のぞ)む報酬(ほうしゅう)は…。
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0920「しずく99~散乱」

2020-07-09 18:10:42 | ブログ連載~しずく

 バスケットボールは川相初音(かわいはつね)に向かっていくつも飛んで来た。だが、初音は難無(なんな)くかわして、水木涼(みずきりょう)の手を操(あやつ)った。身体(からだ)の自由(じゆう)を奪(うば)われている涼にはどうすることもできない。涼の両手は自身(じしん)の首(くび)をつかんだ。そして、じわじわと締(し)めつけていく。
 苦(くる)しい息(いき)の中でも、涼は落ち着いていた。床(ゆか)に転(ころ)がっていたボールを宙(ちゅう)に浮(う)かせると、初音の周(まわ)りに集(あつ)めた。初音は呆(あき)れて言った。
「いい加減(かげん)にしてよ。そんなことをしても、あなたには勝(か)ち目なんてないわ」
「それはどうかな…。あなたって…、ボールを止めることはできないのね」
 ボールがいっせいに初音めがけて打ち出された。初音はその場から瞬時(しゅんじ)に移動(いどう)した。そして、涼の背後(はいご)に現れた。初音が現れた瞬間(しゅんかん)、まるで狙(ねら)い澄(す)ましたように、初音の手にボールがぶつかってきた。初音は小さな悲鳴(ひめい)をあげて、その場にうずくまった。
 やっと身体の自由を取り戻(もど)した涼は竹刀(しない)を手にすると、体勢(たいせい)を立て直(なお)そうとしていた初音めがけて突(つ)きをくらわせた。これには、初音もどうすることもできなかった。まともにくらった初音は、宙に飛(と)んだ。そして、そのまま消(き)えてしまった。
 息(いき)を整(ととの)えながら涼は呟(つぶや)いた。「逃(に)がしちゃった。でも、まあいいわ。次(つぎ)は――」
 涼は周りを見回した。体育館(たいいくかん)のあちこちに転がっているボールを見て、
「うそ…。これ、私ひとりで片(かた)づけるの? もう、初音! 戻(もど)って来なさいよ」
<つぶやき>使ったものはちゃんと片づけないといけません。これは大切(たいせつ)なことですよ。
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0919「約束」

2020-07-07 18:02:10 | ブログ短編

 居酒屋(いざかや)で酒(さけ)を飲みながら近藤(こんどう)が言った。
「お前、ほんとにいいのか? 佐知(さち)に、幼(おさな)なじみだって言わなくても」
「僕(ぼく)のことなんか、覚(おぼ)えてないですよ。小学生の頃(ころ)ですからね。仕方(しかた)ないっていうか…」
「でも、約束(やくそく)したんだろ? 再会(さいかい)したら――」
「もういいです。二十年もたってますから、覚えてないのは当然(とうぜん)で…」
 近藤は急に話題(わだい)を変えて、「そうだ。佐知、結婚(けっこん)するって言ってたなぁ」
「け、結婚! そんな…。ほ、ほんとですか?」
「ああ。明日、彼と式場(しきじょう)を見に行くとか…。お前、それでも…。これが最後(さいご)かも…」
 ――とある公園(こうえん)。佐知が誰(だれ)かと待ち合わせをしているようだ。そこへ電話が…。
「ああ、俺(おれ)だけどさぁ。もう着いてるか?」
「近藤さん。どうしたんですか、急にあたしを誘(さそ)うなんて。何かあったんですか?」
「それがさぁ…。俺から誘ってわるいんだけど、行けなくなっちまった。で、俺の代(か)わりに吉岡(よしおか)が行くから頼(たの)むわ。なんか、お前に話があるんだってさ」
「吉岡さんが? あたしに…。なんだろ?」
「それで、あいつ、変なこと言うかもしれないけど、黙(だま)って聞いてやってくれないかなぁ。頼むわ。とっても大事(だいじ)な話だって言ってたから。ちゃんと聞いてやれ」
<つぶやき>さて、彼女は約束を覚えているのか? 再会しても気づかないってことは…。
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0918「はめる」

2020-07-05 18:07:04 | ブログ短編

「ねぇ、父(とお)さんは?」息子(むすこ)は家にいた母親(ははおや)に訊(き)いた。母親は狼狽(うろた)えた感じで答(こた)えた。
「そ、それがね…。お父さん、しばらく…お仕事(しごと)で帰れなくなって…」
「えっ、何でだよ。この間、頼(たの)んだヤツ、買ってくれるって言ったのに」
「そう…、そうなの? だったら母(かあ)さんが買ってあげるわ。何を頼んだの?」
「新しいパソコンだよ。今のよりずっと性能(せいのう)の良いヤツなんだ。やっぱり母さんだよなぁ。父さんなんかよりずっと良いよ。ほんと、ありがとう」
 息子は嬉(うれ)しそうに母親に抱(だ)きついた。しかし、その目は笑(わら)ってはいなかった。
 ――ここは警察(けいさつ)の取調室(とりしらべしつ)。父親が刑事(けいじ)に問(と)い詰(つ)められていた。
「お前がやったんだな。お前のパソコンから証拠(しょうこ)は出てるんだ。だまし取った金も、お前名義(めいぎ)の口座(こうざ)に振(ふ)り込まれていた。これでも白(しら)を切るのか?」
「そ、そんな…」父親は必死(ひっし)になって、「ほんとに私じゃないんだ。そもそも、私はパソコンなんて使えないし…。あのパソコンは息子が――」
「パソコンが使えないって? だったら、お前の部屋にあった何冊(なんさつ)もの専門書(せんもんしょ)はどうなんだ。お前が買ったことは分かってるんだ。代金(だいきん)も、お前のクレジットカードで支払(しはら)われている。もう言い逃(のが)れはできないぞ。きっちり吐(は)いてもらうからな」
「えっ? 知らない…、私は、そんなの買ってない。信(しん)じてくれ! 私じゃない!」
<つぶやき>父親は冤罪(えんざい)なのか? もしそうなら、一番あやしいのは息子しかいないです。
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0917「家風的結婚」

2020-07-03 18:01:30 | ブログ短編

「ねぇ、あんたはそれでいいの?」友梨香(ゆりか)は心配(しんぱい)そうに言った。
「えっ? ああ…、でも、お父様(とうさま)はとっても良(い)い方だって。だから、あたしは…」
 菊江(きくえ)はそう言うと、恥(は)ずかしそうにうつ向(む)いた。友梨香は呆(あき)れて、
「あたしにはムリだわ。だって、一度も会ったことのない人なんでしょ?」
「ええ。でも、お父様は、卒業(そつぎょう)したら、その人と結婚(けっこん)しなさいって…」
「それ、絶対(ぜったい)おかしいよ。好(す)きでもない人と結婚なんて。あり得(え)ないわ」
「あら、そうかしら? でも、お父様は、それが我(わ)が家(や)のためになるんだって…」
「どう考えても変だよ。あんたは家のために結婚するの? ほんとにそれでいいの?」
「どうして…。結婚相手(あいて)はお父様が決(き)めることになってるのよ。それが家風(かふう)だから…」
「分かんない。あたしには全然(ぜんぜん)わかんない。もう、いつの時代(じだい)の話しよ」
「えっ、そんなにおかしいかなぁ? だって、お父様は――」
「あんたさぁ。自分(じぶん)のことなんだから。自分で決めなきゃダメだよ。もし、その人がめちゃくちゃ変(へん)な人だったらどうすんのよ。そんな人と――」
「でも、そんなに変な人じゃなかったわよ。写真(しゃしん)、見る?」
 菊江は鞄(かばん)から写真を出すと、「どお? とってもすてきな人だと思うんだけど…」
「ああ…」友梨香は思わずため息(いき)をついて、「ねぇ、ほんとにその人の写真? 別人(べつじん)かもしれないわ。一度、会ってみましょ。あたしも一緒(いっしょ)に行くから。ねぇ、そうしよ」
<つぶやき>これは政略(せいりゃく)結婚なのか…。でも、友梨香は、あわよくばを狙(ねら)ってるのかもよ。
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